神に愛された子

鈴木 カタル

文字の大きさ
上 下
111 / 124
連載

210

しおりを挟む



「まさかこんな結果になるとはのぅ」

「まぁ、イピリアに任せれば大丈夫ですよ」

「リーンがしたことじゃが?」

「聖獣様効果に期待!」

「ワシも忙しくなるんじゃがの……」

「ジールフィア様万歳!」

万歳! と両手を天に向ける。
お爺様の舌打ちが聞こえたような?

結局お爺様とロダンさんが部屋に戻ってきてから、また僕は四季の説明をした。
世界全体で気候が変わった事にどう伝えたらいいのかって話になり、聖獣イピリアにお任せすることに。

要はイピリアに「先の大地震で世界の気候が、一年で四回の変化が訪れるようになった」と言って貰うのだ。
人任せならぬ、聖獣任せです。

お爺様はイピリアと共に各国へその知らせをする係ね。
手紙でいいじゃんと思ったんだけど。実際にもっと春夏秋冬の説明を、イピリアの口から話した方がいいと言われたので。

「取り敢えず、こっちを先に片付けましょうかね?」

「ふむ、確かに」

僕達が使わせていただいている部屋の中、僕達はソファーに座っている。が、向かいのソファーは部屋の片隅にある。
目の前には正座しているユズノハ様とガノスさん。
ここの国王と宰相なのに。正座スタイルに見慣れてきたよ?
ローレンさんもいるけど、勿論座っている方にいるよ。

「昨日のやらかしはお爺様達にお任せしているので、僕はどうこう言いません。サルエロ王国が今後、どう変化していくのかをお話ししますね~」

「う、うむ。すまん」

涙目だけど、全然謝ってないよね? ユズノハ様に思いっきり睨まれているのですが。
ほんと、謝ることが恥じだとでも思っているのだろうか。……謝って済むくらいだと、良いんですけどね?

「カルキノスが地脈を弄ったので、今後はこの大地も緑豊かになります。作物もちゃんと育つ、良い大地になってゆくでしょう。明日明後日直ぐに効果があるわけじゃないので、そこはちゃんと理解してくださいね。次に、世界の果てですが……崩壊が修復された所をお爺様達とちゃんと確認してありますので、もう問題ないですよ?」

ガノスさんがピッと手を上げられたので、どうぞお話しくださいと当てる。

「あの、あの大地の揺れは、世界の崩壊が進んだ訳ではないと?」

「あー……あれはねぇ……あれでもカルキノスのおかげで大分マシだったのに」

あの大地震はかなりの恐怖だったようだ。イピリアが大気を整え、ちゃんと建物の崩壊などは防いだんだけどね。立っていられない程の揺れではあったから、怖かったのだろう。

〈それにつきましては 私から各国にお伝えします あの世界の揺れの影響で この世界に季節というものが生まれました 今後は四度の気候の変化が訪れるでしょう〉

「はぁ……四度の気候の変化」

きょとん顔きました。
理解するのに時間がかかるんだろうなぁ。実際に体感してもらうのが、一番早い気がするよ。
僕が説明したように、春夏秋冬の説明をするイピリア。説明しても理解していなさそうなガノスさん。まぁ、これは仕方が無い。今まで気候に変化は無く、一定だったのだから。

「まぁ、実際暑くなったり寒くなれば、嫌でも分かるよ。それよりも、サルエロ王国の人達は、悪意と善意についてもう少し理解した方がいいよ。この世界、善行を行う方が長生き出来るんだから。ローレンさんに消して貰おうなんて、今後は出来ないよ?」

「な、何故だ? その為の巫女だろう!」

「なあにー? これからも悪行を行いますって言いたいのかなぁ……ねぇ?」

笑顔で問いかけてみた。その為の巫女じゃないですし。

「い、いやいや! 予定が……そう、今後もそんな者がいたら! いたら浄化して貰う予定ってわけ……じゃなくて、そんな話になっていたようなだな。うんうん」

「いい訳に無理があるけど。んー……もうローレンさんに嘘は効かないよ?」

「はぁ? どういうことだ?」

え、そこは普通に聞いてくるの?
さっきの体裁はどこに置いてきたの。

「今の嘘も見抜いていますよ、兄様。どうやらもう私に嘘は通用しないようです」

ローレンさんも良い表情をしていますね!
袖で口元を隠しているので、思いっきり蔑んだ目で見ているのだが、効果が二倍な感じになっている。

「なん……だと!?」

悪役が予想外な時に言いそうな台詞、ナンバーワンな気がするそれ。

「ローレンさんは『聖なる巫女』なので、偽りを見抜く力があるんだよ。神様の加護と似たようなものだね~?」

「きっと神託や啓示をいただいた時に授かった力なのです」

きっとじゃくてそうだったんだけどね。
巫女の力が今後は悪用できないようにって、神様の応急処置だった気がしなくもないが。
あの駄目神にしては、ちゃんとした処置だとは思う。

「ワシ、何度も同じ事を話すのは嫌なんじゃがのぅ。悪しき行いは寿命を縮める。良き行いは寿命を延ばす。そう昨日も話したの、ワシとロダンで」

「そうですね。理解できていれば……ですけど。どうせ巫女にどうにかして貰うからいいと、耳からこぼれ落ちていたのでしょうね」

「っていうか、世界の常識だと思ってた~」

この世界、悪人には容赦ないもんな。寿命を削って得るものに、どんな価値があるんだか。
お爺様はニヤニヤと気味の悪い笑みをしているし、ロダンさんは冷気が漏れまくっているよ。

「常識をこやつらに話しても、常識が無いからの~」

「グッ……」

「常識があれば、他国の……それも国王の妨害とか致しませんよ」

「ウググ……」

二人に言われてお顔が真っ赤なユズノハ様と、正反対に真っ青なガノスさん。
僕達は皆、うんうんと頷いていた。
どうしようもないサルエロ王国の民度の低さに、直球で批判するアルペスピア王国の人達。
色々とやらかしたサルエロ王国が優位に立てる筈が無いじゃないか。
そもそもの「外交」ってものが出来ていないのだから。

「さて、お仕置きもこれくらいにしましょう」

正座している二人に向けて、笑顔で終了の言葉を伝える。
ホッとしている二人に、僕は

「後はお爺様とロダンさんにお任せしますね! うふふ」

と、声を弾ませて付け加えた。
やはり、僕よりも恐怖の度合いが違うのだろう。
僕の言葉でヒッと後ろに転がったユズノハ様と、真っ青から真っ白になった顔色のガノスさん。
あとは知りませんよ僕は。

「ローレンさん、ちょっと話が」

「はい」

「祓い損ねた穢れがね、テステニア王国の方に逃げて行った気がするんだよね……」

僕はローレンさんに穢れがテステニア王国の方へ向かった事を伝える。

「力が弱っているから、多分邪気くらいの穢れだったと思う」

「そこまで強さがないのなら、問題もないでしょうか」

「うーん、テステニア王国って聖職者が多い所らしいから、問題ないとは思うよ」

「そうですか? 一応私も気にしておきます」

「見える人が限られるからね、僕も気にしとくよ」

何もないとは思うけど、あの方向がテステニア王国の方だったのは間違いない。
僕が手を払っただけで消えてしまうくらいの弱さだったから、問題は無いと思うけど念には念を。
宗教国で教皇様とかいる所だから、気にするだけ無駄かなぁ?
何かあれば教皇様が言ってくるだろうし。

そう言えば、これからは三ヵ国じゃなくて四ヵ国会議とかになるのかな~?
四つの王国が一つに集まって会議とか……大変そうだね。

「ここのジャガイモ貰えるかなぁ?」

「リーンオルゴット様は、お好きですかアレ」

「アレって。美味しいじゃん! ポテチにしたり、じゃがバターとか最高だよね」

「え? それはどのような食べ物ですか?」

「え……」

「アレは蒸かすくらいしか食べようが無いものなのでは?」

「んじゃ、調理場に行ってみよう!」

聖獣達とローレンさんと一緒に、料理長のいる所へと向かう。

僕はこの日……サルエロ王国の人達に、ジャガイモの美味しさを存分に教えてあげれました。ロダンさんが走って止めに来るまで、ずっとジャガイモ料理を作っていました。
そして、めっちゃ怒られた。
僕の料理はレシピ販売してるから、新しい料理の公開は困ります! って言われちゃったよ。
簡単だからレシピ販売は止めて欲しいです……

サルエロ王国からジャガイモやサツマイモを貰えたので、良いんだ無料で。
サツマイモチップスとかも追加で教えたよね。あれも大好き!

こうして僕は、楽しくサルエロ王国で料理をして過ごした。
世界を改変した日から五日。外に出ても不快感のない、気持ちの良い風が吹いていた。
事後処理で時間が取られたけど、やっと僕はアルペスピア王国へ帰る事に。
僕達の近くまで見送りに来てくれたローレンさんと、お別れの挨拶を。

「また会おうね、ローレンさん」

「はい! 是非またお会いしたいです」

「うん、僕もまた会えるのを、楽しみにしてるよ」

「……はいっ」

お別れの言葉より、また再会を望む言葉の方が気持ちがいいね。
小さな手が品良く横に揺れる。それをイピリアの背に乗ったまま、姿が小さくなるまで眺めた。

【聖なる巫女となったローレンは 暫くは成長痛に悩まされるのだろうな】

え。なんで成長痛なの? アクリス。

【力が安定してきている 主の魔力も受けただろう あれはすぐに成長するぞ】

身長が伸びるの?

【ふふん 身長だけじゃなく 肉体的にも成長する】

そっかー。ローレンさんには成長期さん来ちゃうのか。僕の成長期さん、頑張って欲しいです!
小さい仲間だと思っていたのにぃ~!
裏切られた気分だ……

【変ですね ここの道は来たときよりも長いような】

どうしたの? イピリア

スッと更に上空へきたイピリアは、大きく旋回する。

【やはり気のせいではないようです 以前よりも 世界が広がったようです】

ん? 広がった?

【これは報告案件ですね 次の休憩でジールフィアへ言いましょうね】

お爺様に……? 世界が広くなっていると?

【地脈も動かしているし 主ならあり得ること】

ちょっと、カルキノスさん?
寝てたと思ったカルキノスから不安の一言が聞こえたような……

この後休憩でお爺様に報告したイピリア。

僕は……お爺様からじっとりとした視線を受けることになった。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】6歳の王子は無自覚に兄を断罪する

土広真丘
ファンタジー
ノーザッツ王国の末の王子アーサーにはある悩みがあった。 異母兄のゴードン王子が婚約者にひどい対応をしているのだ。 その婚約者は、アーサーにも優しいマリーお姉様だった。 心を痛めながら、アーサーは「作文」を書く。 ※全2話。R15は念のため。ふんわりした世界観です。 前半はひらがなばかりで、読みにくいかもしれません。 主人公の年齢的に恋愛ではないかなと思ってファンタジーにしました。 小説家になろうに投稿したものを加筆修正しました。

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

転生したら幼女でした!? 神様~、聞いてないよ~!

饕餮
ファンタジー
  書籍化決定!   2024/08/中旬ごろの出荷となります!   Web版と書籍版では一部の設定を追加しました! 今井 優希(いまい ゆき)、享年三十五歳。暴走車から母子をかばって轢かれ、あえなく死亡。 救った母親は数年後に人類にとってとても役立つ発明をし、その子がさらにそれを発展させる、人類にとって宝になる人物たちだった。彼らを助けた功績で生き返らせるか異世界に転生させてくれるという女神。 一旦このまま成仏したいと願うものの女神から誘いを受け、その女神が管理する異世界へ転生することに。 そして女神からその世界で生き残るための魔法をもらい、その世界に降り立つ。 だが。 「ようじらなんて、きいてにゃいでしゅよーーー!」 森の中に虚しく響く優希の声に、誰も答える者はいない。 ステラと名前を変え、女神から遣わされた魔物であるティーガー(虎)に気に入られて護られ、冒険者に気に入られ、辿り着いた村の人々に見守られながらもいろいろとやらかす話である。 ★主人公は口が悪いです。 ★不定期更新です。 ★ツギクル、カクヨムでも投稿を始めました。

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅

あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり? 異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました! 完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。

わがまま姉のせいで8歳で大聖女になってしまいました

ぺきぺき
ファンタジー
ルロワ公爵家の三女として生まれたクリスローズは聖女の素質を持ち、6歳で教会で聖女の修行を始めた。幼いながらも修行に励み、周りに応援されながら頑張っていたある日突然、大聖女をしていた10歳上の姉が『妊娠したから大聖女をやめて結婚するわ』と宣言した。 大聖女資格があったのは、その時まだ8歳だったクリスローズだけで…。 ー--- 全5章、最終話まで執筆済み。 第1章 6歳の聖女 第2章 8歳の大聖女 第3章 12歳の公爵令嬢 第4章 15歳の辺境聖女 第5章 17歳の愛し子 権力のあるわがまま女に振り回されながらも健気にがんばる女の子の話を書いた…はず。 おまけの後日談投稿します(6/26)。 番外編投稿します(12/30-1/1)。 作者の別作品『人たらしヒロインは無自覚で魔法学園を改革しています』の隣の国の昔のお話です。

妹だけを可愛がるなら私はいらないでしょう。だから消えます……。何でもねだる妹と溺愛する両親に私は見切りをつける。

しげむろ ゆうき
ファンタジー
誕生日に買ってもらったドレスを欲しがる妹 そんな妹を溺愛する両親は、笑顔であげなさいと言ってくる もう限界がきた私はあることを決心するのだった

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。