神に愛された子

鈴木 カタル

文字の大きさ
上 下
109 / 124
連載

208

しおりを挟む


なんやかんやあったけど、帰りはスムーズにサルエロ王国のお城まで戻ってこれた。
お爺様はサルエロ王国の御者さんと、あの阿呆な人を連れてどこかにスッと消えたけど。

きっとあの馬車を出してきた人に拷問……お仕置きをしに行ったんだと思う。是非、お仕置きでお願いしたい!
ちょっと意外なのが、ロダンさんもゴーを出していたことだ。冷え冷え注意報じゃなくて、猛吹雪位でお怒りのようなのです。
止める人がいない、お爺様のお仕置きとか……怖そうです。
ローレンさんは笑顔だったけど、どこか冷え冷えとする雰囲気でお城の中へ入っていったし。

ぼーっとしていたら、馬車が一台、また一台と到着する。
あれ? あんなに馬車多かったっけ?
ぞろぞろとアルペスピア王国の騎士さんや魔法師団の人達が出てくる。
何か知らない人がいるけど、きっと今は聞いちゃ駄目なやつ。

〈主様 ただいま戻りました〉

「お帰り、イピリア」

大きな姿のイピリアは、フワッと地面に着地すると、直ぐに小さな姿へと。
僕の肩に乗るイピリアと頬ずりし合う。

「あ~、落ち着く」

じんわりと感じる温もりに愛おしさを感じるよ。
イピリアと戯れていると、また何台もの馬車が帰ってきた。
きっとカルキノスとアクリスだな。案の定、アクリスの声が聞こえる。

〈この馬鹿共めっ さっさと行動せんかっ〉

何やら激おこでした……
アクリスはもう小さな姿だけど、見慣れない顔の人達の足をてしてしと叩いている。

〈カルキノスも寝るでないっ〉

「えっ、寝ちゃったの?」

「寝ちゃったのよぉ~。んまぁ、大丈夫でしょ」

「あ、ジェンティーレ先生!」

ぐでーっとしているカルキノスを抱っこしながら、僕の方へ歩いてくる。
すやすやと寝ているカルキノスを渡されると、両手に感じるもぷもぷ感。
むはっ! 顔がユルユルになっちゃうよ。

すぴすぴと聞こえる鼻息。熟睡しているのか微動だにしない。
お疲れ様と声をかけながら抱っこし直す。

〈我にもお疲れ様を言え カルキノスのやつ 我からごっそりと力を吸ったのだぞ〉

「うんうん。アクリスもお疲れ様」

〈ふふん 本当にお疲れ様なのだ カルキノスのせいで大きな姿も維持出来ん〉

「あらら? じゃあ、どこか落ち着ける場所に行こうか」

「そうしたいのだけれど……んふふっ、ちょーっとお話が先になりそうよ~? あぁ、貴方じゃなくて、ねぇ?」

「ん?」

不穏な言葉が聞こえたのだけども? あれ? でも、僕じゃ無いって……
ジェンティーレ先生の視線の先を追うように僕も見る。
王城の扉が開いていて、中からガノスさんが慌てて走ってきた。

「たっ、大変申し訳ございません、でしたぁぁぁぁぁあああ!!」

ジェンティーレ先生の目の前で、見事なスライディング土下座をした。
ズサーっと結構な音がしたけど大丈夫?

「こんな所で謝罪をされても困るだけなので、とっとと中へ行きますよ」

「ロ、ロダン様! はいいいいっ!」

とても良いタイミングでスッと現れたロダンさん。
一瞬だけガノスさんを見て、スタスタとお城の中に。……あの目、気のせいじゃなければ……ゴミを見るような目だった。

大体予想は付くけどね。どうせ、サルエロ王国の人達がやらかしまくったのだろう。
あっちでもこっちでも、見慣れない顔がいたのだから。

「……行きますか」

「そうね……」

ジェンティーレ先生でさえ、ロダンさんに引き気味だ。これは大事になりそうな予感……
気は重いが、聖獣達を休ませてあげたいので、てくてくとロダンさんの後を追う。

【ぶっころ……】

腕の中からは物騒な寝言が。もしもしカルキノスさん? もしや、起きてますかー?
すぴすぴと聞こえる鼻息に、少しだけホッとした。


城内に入って、元々僕達に割り当てられていた部屋で一息つくことになった。
お爺様とロダンさんはいないけどね!

寝てしまったカルキノスを膝の上に乗せ、インベントリから食べ物とおやつを出す。
座った瞬間に「はふっ」と息が抜けた。
隣にアクリスが来たので、ゆっくりと優しく撫でる。気に入ったのか、大人しく撫でられ中だ。
肩にいるイピリアには、クッキーを小さく砕いて食べさせる。
普段は食べないイピリアも、今日は食べてくれた。

「ふふんふーん♪ ふふんふーん♪」

聖獣達の癒やされ効果で、僕は上機嫌に。
じっとりとした視線を感じてそちらを向くと、ジェンティーレ先生が座った目で僕を見ていた。

「先生もどーぞ♪」

「……ふぅ、気にしたら負けねぇ」

両手は肩くらいで手の平を上に、首をふるふると横に振るジェンティーレ先生。
そのリアクションには、どんな意味があるの?
テーブルの上にあったティーセットの茶葉を嗅いで確認したが、そのままパタリと閉じたジェンティーレ先生。

「飲み物、要ります?」

「ええ、お願いするわ。これは没収ね、うふふ」

「は、はい……」

笑顔だけども、本当は笑ってない時に見る顔だこれ。
茶葉に問題があったのかな? 僕はこっそりと自分の家のティーセットを転移させて、魔法でお湯を出し紅茶を淹れる。
うっすらと良い香りがしてきた頃に、僕はティーセットを転移させるのは困る事だと言われたことを思い出す。……手遅れなので、後でインベントリにしまっとこ。
家のメイドさんの悲鳴が響いていませんように。なむ。

「熱いから、気をつけてね~」

「あ、はい」

紅茶が落ちたのか、気がついたらジェンティーレ先生から渡された紅茶。
いつもの飲み物なので、一口飲んだだけで落ち着くよ。

〈んがっ ごあん……〉

「うわっ」


カルキノス覚醒。さすがカルキノス! 食べ物に敏感なんだからぁ。
テーブルの上に上がりそうなので、プリンを手前に持ってくる。

〈ん〉

気に入ったのか、プリンをもっちゃもっちゃと頬張る。むにむにと動く頬に、ぽわっと癒やされつい一言。

「平和ですねぇ」

「んな訳ないじゃーい?」

「デスヨネ」

ジェンティーレ先生からツッコミを貰いました。
戻ってこないお爺様とロダンさんを思い出し、飲みやすくなった紅茶で一息。
平和なのは、今のこの時間だけのようですね。

それにしてもこの世界、ちゃんと変わったのかな? 僕の希望通りに。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生幼女の怠惰なため息

(◉ɷ◉ )〈ぬこ〉
ファンタジー
ひとり残業中のアラフォー、清水 紗代(しみず さよ)。異世界の神のゴタゴタに巻き込まれ、アッという間に死亡…( ºωº )チーン… 紗世を幼い頃から見守ってきた座敷わらしズがガチギレ⁉💢 座敷わらしズが異世界の神を脅し…ε=o(´ロ`||)ゴホゴホッ説得して異世界での幼女生活スタートっ!! もう何番煎じかわからない異世界幼女転生のご都合主義なお話です。 全くの初心者となりますので、よろしくお願いします。 作者は極度のとうふメンタルとなっております…

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅

あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり? 異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました! 完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。