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しおりを挟む外の様子が変わった。町を何カ所か過ぎてからは、ずっと緑が続いている。
あの映像ではもっと何も無い場所に見えたんだけどなぁ……
これ、本当に果て行きなのだろうか?
馬車のことと良い、御者もサルエロ王国の人だと言うことで信用できないんだけども!
僕の不安を感じたのか、ローレンさんが御者と話す小窓を開ける。
室内に流れ込んでくる風が、少し高めのピュウピュウと音を出す。
声は聞こえないけど唇が動いているので会話をしているようだ。
少し会話をした後、御者の人の顔色が真っ白になったようにみえたんだけど。直ぐに小窓が閉まったので、確認することは出来ないが。
「もうすぐ着くです。一応先にお伝えしますが、果てに行くにはこの森を抜けないと行けません。森を抜けると何も無い荒野が続きます。ですが、直ぐに監視塔が見えるはずです」
「監視塔……」
「はい。監視塔からは歩いて果てへ行きます」
「はーい」
良い返事をしたけれども、歩きなのか。まぁ、そっか。果てへ行く人なんていないもんなぁ、普通は。
監視塔で何も無ければいいんだけどっていうフラグを立てた方が良いんだろうか……
きっと何も無いと思うけど、テンプレなら威張った頭のおかしい事を言っちゃう阿呆な人が居たりするんだけど。
って思っていた自分凄ーい!
「だからぁ! 俺様の許可は無いのだから、駄目だって言っているんだよ? 馬鹿には理解出来ないのかなぁ? ぷぷぷっ」
えーえー。物の見事に阿呆な人いました。
あのお爺様の圧を感じない希少な……阿呆ですよ! 横にいる二人は真っ青な表情になっているのに。
あの後森はサクサク進み、監視塔に無事? 見事? に到着したのがつい先程。
んで、監視塔の中には何故か入れて貰えなかったり。御者がジャンピング土下座をお爺様にしたり?
粗悪品な馬車になったのは御者のせいじゃないって事で、お咎めなしになっていたけど。
監視塔に入れないのは、あの「特別な許可証」を見せても、そこの阿呆の許可はないって事で入れていないのだよ。
「わざわざ忙しい俺様が直々に来てみれば、そんな常識も分からないとはな!」とか言って監視塔の中からわざわざ外に来た阿呆な人です。
「ですから、ユズノハ様直筆の許可も入っているのですよ?」
「国王様がそんなことをするはずが無いだろう。そんななんて書いてあるのか分からない文字、国王様の直筆とか抜かす不届き者が!」
不届き者は貴方のその言葉です。どうしてここの人達は墓穴を掘るのだろうか。あの落書きみたいなサインも悪いんだろうけど。ローレンさんの事も見下した感じで、ぶっちゃけめちゃくちゃ態度悪い。
一緒にいるお爺様が指差しして笑いそうになる度に、僕が駄目ですよって上がってくる手を叩いている。
「他の王国の国王様をお待たせするとは……本当にどこまでも愚かなのでしょうね……」
「ほうほう? どこにその様な方がおるのかね! 俺様には全く見えないのだが?」
めーっちゃお爺様をチラチラと見ているのに、見えていないって無理よりの無理だろうそれ。ここの人はアレが普通なのだろうか? 正直僕には異常者にしか見えないんだけど!
「見えておらんのなら、無視して良さそうじゃのぅ。ワシ、この茶番はもう飽きた」
「ん? 何だか羽虫がうるさいよう――『拘束』『沈黙』」
「ワシは飽きたと言った。そこの阿呆をワシの目に入らんようにせよ」
物の見事にお縄に包まれた阿呆な人。何か言っているけれども、全く聞こえない。
「ゴンタ様……」
「っ!」
吹き出しそうになって慌てて手で口を押さえた。側にいた人が呟くように名前を言った。
ゴンタって、ゴンタって……俺様とか言っちゃっている人の名前がゴンタとかぁ!
笑い殺すつもりですか? ユズノハ様とか日本っぽい名前があるとは思っていたけど、ここでゴンタ来ちゃうのか。
まぁ、多分日本っぽい名前だからそれなりの地位にいる人なんだろうなぁって事は感じる。
着ている服も肌さわりが良さそうだし。装飾品も多いしね。センスはなさそうだが。
「ワシは二度同じ事は言わんぞ?」
「「は、はいっ!」」
側仕えなのかゴンタ様の騎士なのか、冒険者っぽい装備なように見えるけど。側にいた二人は慌ててお縄に包まれたゴンタ様を監視塔の中へ連れて行った。
「本来はあの二名が引率で果てへ行くのですが……困ったですね。監視塔の者が一緒で無いと、果ての結界の魔道具の取り扱いが分からないのです」
「まぁ、大丈夫じゃろて。リーンがおるしの~」
「ん? そうなの?」
ニマニマしながら頭を撫でられたけど、僕は分からないぞ?
あの映像にはそんな所なかったし。
そんな事を思っていたら、監視塔の中からあの二人が出てきた。
「お待たせしましたぁ!!」
「おまたせしt!!」
あ、噛んだ。思いっきり噛んで、そのまま口を閉じた。
舌を噛んだのかな? 痛そうだが。ちょっと涙目で可哀想。
「では、同行お願いします」
「はい!」
ビシッと背筋を伸ばして歩きだしたので、僕達も続く。
「噛んどっ――」
「駄目ですよ、お爺様~?」
「でも、かん――」
「お爺様~? 駄目でしょ~」
指差しして突っ込もうとするので、僕はまたお爺様の手を笑顔で叩く。
僕はいつの間にか、ロダンさんの立ち位置にいたらしい。
三日月な目になったお爺様をいつも止めているロダンさん、ほんっとに尊敬します!
数秒毎に響く、ぺちりペちりとお爺様の手を叩く音。
あの噛んだ方の人の耳が赤いのは、気のせいじゃ無いと思います。
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