神に愛された子

鈴木 カタル

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アレに頭を悩ませている間に、どうやら話は結界の事になっているようだ。

「リーンと巫女の話だと、元凶はいなくなったと言うことじゃ。あの結界もなんとかせんとのぅ」

「結界の装置を停止するのは構わないのですが、結界があるとそんなにも問題があるのでしょうか?」

「今の結界ですと、そうですねぇ……問題しかないかと思いますが?」

「そ、そんなにもですか……」

お爺様とロダンさんに言われて、悩んでいるガノスさん。
あの結界は、元凶の被害を抑えるためだったと説明しても、常にあった物だから無くなる事に不安があるのだろう。でもあの結界だと、元凶を抑える為のものだから、普通のとは違うんだよね。

〈結界の方は私達でどうにか出来るでしょう〉

「せ、聖獣……様」

イピリアの言葉に、ユズノハ様は驚いた反応をした。ガノスさんも目が点になっている。
いつも静かにしているから、急に言葉を発した事に驚いたみたい。

〈問題は地脈の方ですが そちらはカルキノスがお役に立てるでしょう〉

〈結構大変なのになぁ イピリアは大気だから楽そうでいいよね~〉

〈そこは我も力を貸そう! 我がいれば問題ない〉

〈じゃあ、アクリスがやって~〉

〈むむっ そこは大地を担当しているのだから カルキノスの領分だ〉

〈言うのは楽で良いよね~〉

三匹の言い合いが始まったので、僕は緑茶っぽい飲み物をゆっくりと飲む。
いつものことだと思うのは僕達だけで、サルエロ王国側はオロオロとしているけどね。

「果ての事もありますし、結界は聖獣様方にお願いしましょう」

「!」

なーんか忘れていると思っていたら、そうだった。ロダンさんの言葉で、世界の果てって所が残っていた事を思い出した。
確か、あの時はもう崩れ始めているように見えたんだけどな……

〈あぁ 穢れの溜り場ですね〉

「イピリア、穢れの溜り場ってなあに?」

なあにそれ、聞いてないよ。詳しくお願いします! イピリア先生。
僕の問いかけが嬉しかったのか、すんっとし澄し顔で教えてくれた。

〈ここの結界のせいでもあるのですが ここは特に穢れの多い土地でして どうしても溜まり場という所が出来てしまうのです〉

「うーん、実際の目で見てみないと分からないけど、世界に影響を与えているんだよね?」

〈この世界と言いますか 世界を構築している神の魔法に影響を与えていますね〉

「ふんふん、なるほどね~」

今さらっと流したけど、この世界って神様が魔法で作ったんだ?
冷や汗がぱないんだけど。魔法だったの? 世界構築ってヤバ。神様の魔法ヤバ。
アレなのかな……聖なる魔法、仮に神聖魔法として。穢れって悪だから、相反する存在が反発し合い、神聖魔法に影響がでるって感じ?

【あーぁ 多分そのことは禁止事項なのに 主の眷属になっているから 神との契約が破棄されちゃって 大分口が軽くなっているね】

カルキノス、今、それ、追い打ちかけてます……

【主様ですし 問題ないかと思いますよ】

いやー……イピリア、今の話、念話じゃ無かったんだよ?

【念話じゃ……なかったようですね 私としたことが おっほっほ】

笑って誤魔化せるレベルじゃないと思う。
でも、皆聞いてこないから、セーフって事にしよう?
うんうん、そうしておこう。

「いや~、果ては確認しに行かないとだね? 今の状態は分からないし!」

「そのことですが、私から皆様へお話があります」

「?」

今まで話に加わって来なかったローレンさんが、急に立ち上がって話しだした。

「私も信じられないのですが……その果てについて、神からお言葉を承っております」

「っ!」

一瞬でこの場の時間が止まったかのように、皆息を飲んだ。僕はそっと皆の様子を観察する。
今ローレンさんが発した言葉が、顔の周りを駆け巡っていて、それがじわじわと耳に入って行く感じだなぁ。皆の顔の周りに「神? 神? 神って言った?」って言葉が浮かんでいるようだもの。
分かるよ、その信じられない様子。神様って響きがもう、胡散臭いしね。
でも、称号……じゃなかった、アレがあるから真実を言っている訳で……

「その話は信用に値しないと言っただろう! 大体、お前なんかが何故――」
「黙っとれ」

お爺様の落ち着いた低いお声が、ユズノハ様の言葉を遮る。
不満そうではあるが、お爺様に睨まれて渋々黙るユズノハ様。
やっぱり先に話を聞いていたんだなぁなんて、ぼんやりとどうでも良いことを考えて現実逃避しそうになる僕。

「気にしなくていいから~続きが気になっちゃうから、お話してくれるかしら?」

「あ、はい」

ナイスです、ジェンティーレ先生。
現実逃避しかけた僕の思考も戻ってきましたよ。

「その、神は……私に果ての修復の仕方を教えてくださいました。言葉で、と言いますか……修復が行われる様子を見せてくれてた、という感じです。それ以外でも神託というか、啓示的な言葉も貰いましたが……」

「その行われている様子とは?」

ロダンさん、神様からって所は一先ずスルーしたな?
皆聞きたい事は色々ありそうだけど、取り敢えずそこは飲み込んだんだ?
僕はスルーしてるそこがとても気になるんだけどね……

「リーンオルゴット様が……その、映像化出来るような魔法を使用できると伺っているのですが」

「へっ?! そんな魔法作ったっけ~?」

むむ? 急にそう言われても、特に思い出せる魔法はないんだけど。
「魔法……作る……魔法を……作る?」と、ユズノハ様がブツブツと呟いている。
魔法は自由に使える便利なものですよ。

〈あぁ あれじゃないかなぁ~? 主が映画みたいっていってた魔法〉

「あー! あれか……あれは」

クレイモル王国でお爺様の姿を盗み見た、あの魔法は現在の状態を写す魔法だけど、出来なくはなさそう? な気がする。

〈念話と似た方法だよ~ ローレンからその映像を送って貰うの 接触魔法とも言うね〉

「カルキノス先生!」

うちの子、可愛いだけじゃ無い! 頼もしい先生だな。

〈ローレンと接触してみて〉

「え、接触って……手を繋ぐ? とかで良いのかなぁ」

カルキノスを椅子に置き、僕も立ち上がってローレンさんの方へ移動する。
ローレンさんも僕の方へ来てくれたから、丁度テーブルの誕生日席って言うのかな? 両王国メンバーの真ん中になった。

ローレンさんと両手を繋ぎ、カルキノスの方を見る。

〈ローレンはその時の様子を思い出して〉

ギュッと目を閉じて、見た内容を思い出しているようだ。

〈主はローレンと繋いでいる手に意識して 相手の魔力を貰う感じでイメージするといいよ〉

「はい!」

カルキノス先生の指導の元、僕とローレンさんは必死に言われた通りに行う。
あれ? 何だか手が温かくなってきた。
そう感じた瞬間に、僕の脳裏には見たことの無い映像が流れてきた。

〈主は貰った映像を あの魔法に変換して〉

「ちょっとまって! うんと、うんと……」

言ってくることが無茶ぶりなんですけど! カルキノス先生スパルタだよ!
映画館でみるような大きなスクリーンを思い浮かべ、僕は魔法を作る。

『広域化』
『映像化』
『転写』

広域化は大きいスクリーンにする魔法。
映像化は見た内容を動画のように再生できるようにイメージして、転写でそのスクリーンに映し出す。
これでどうだっ!

――ガタン!

椅子の倒れる音が聞こえたけれども、僕は一生懸命に魔法を発動した。


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