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しおりを挟むお爺様達と合流したから早く話を聞きたったけど、もう夜だからとその日は夕食を食べて寝ることになった。
ユズノハ様達にお世話になってしまったが、思っていたよりも疲れていたみたいで、ぐっすりと寝てしまったのだ。
ユズノハ様なんて、夕食中なのに食べながら船をこぎ出してしまい、ガノスさんが一生懸命に起こしていたっけ。
夢の中で、見たことの無い人達に「ありがとう」と言われた。
他にも何か話をしたような気がする。でも、起きてから覚えていたことはそれだけだった。
夢の中じゃ分からなかったけど、あれは彼等だったのだろう。そう思いたい。
ほんの一瞬だったような気もするし、とても長い夢を見たような気もする。
でも、彼の魂を消すことなく救えたのは、僕にとって一番の朗報なのだ!
僕がなんとかしないとと思っていた黒い魂も、ローレンさんに力を借りれば、ちゃんと救える。
足取りも軽く、昨日ユズノハ様に言われた部屋に向かう。
因みに、アクリスがまだ起きないからリュックに入れて連れてきている。
カルキノスもイピリアも定位置にいるよ。
「あらぁ~? おっはよ~ん」
「あ、ジェンティーレ先生、おはようございます」
ひらひらと舞う手が気になるけど、気にしたら負けな気がするから突っ込まないよ。
聖獣達もジェンティーレ先生に手を上げて挨拶を返す。
こんな挨拶をすると思い出す。学園の日々を。早く皆に会いたいなぁ……
懐かしさに浸りつつ、部屋の中へと足を進める。
――バッチーン!
入った瞬間に大きな音が聞こえて、進めていた足が止まった。
「お前がしゃしゃり出るせいだっ! このっ!このっ!」
「ユズノハ様! いけません!」
僕の目には、暴れているユズノハ様を止めようとしているガノスさん。と、床に倒れているローレンさんが見える。
見えているこの出来事が何なのか理解出来ず、呆然と立ち尽くす。
後ろから聞こえたジェンティーレ先生の「屑だわ」の一言で、瞬く間に我に返った。
「だ、大丈夫!?」
床に倒れているローレンさんに駆け寄って声をかける。
頬を押さえて俯いていたが、僕の声に一瞬肩を震わせた。
ローレンさんがゆっくりと顔を上げると、僕の耳がキーンと耳鳴りを起こした。腕からボトッとカルキノスが落ちる。
ローレンさんの頬は、見るからに痛そうな程真っ赤に腫れ上がっていた。
涙を流すことも無く、ただ痛みに耐えているように見える。
「……っ」
何か言おうとして開いた口の端から、つうっと流れ出た血。
慌てて口元を隠したローレンさん。
僕は無言で治癒魔法をかける。笑顔を作ることも出来ないや。
「もう、痛いところはないかな?」
「……はい」
口元を隠しながら、申し訳なさそうに微笑んでいる。
僕は腫れが引いている頬から視線を外すと、じっとユズノハ様を見た。
「ひっ!」
顔を青くしているユズノハ様と目が合う。よくよくユズノハ様の姿を確認する。と、その手に握られている物を見て何をしたのかが分かった。
「それ、なあに? どうしてそんな物を、持っているのかなぁ」
どう見ても鉄製の扇子だ。重そうな鉄の扇子だよねそれ。
そんな物で、女の子の顔を殴ったのかな? 口の中が切れるくらい強く。
屑と言ったジェンティーレ先生の言葉に同意してしまう。
〈ちゃんと答えないと 主様に消されますよ? ほっほっほ〉
やんわりとイピリアの羽毛が頬を掠める。
きっと羽を動かした時に頬に当たったのだろう。フワッとした物を感じた時に耳鳴りが止まった。
そわそわとしているユズノハ様の言葉を待つ。
「こ、これは、国王だけが持つ、武器の一つで――」
「なんじゃ? 武器と聞こえたんじゃが。ワシ、耳が遠くなったのかのー?」
「お爺様……」
遅くなったか? とか言いつつも、ゆっくりとした足取りで部屋の中に入ってきたお爺様とロダンさん。
サッと部屋の隅へ移動する騎士達と、その後に続く魔法師達。
「まさか、そのような無礼な行動など……しとらんよなぁ?」
「っつ!」
ドサッと床に鉄の扇子を落とすユズノハ様。その落ちた扇子をサッと拾うガノスさん。床が毛足の長いカーペットで良かったね?
ユズノハ様はお爺様に睨まれて、ガタガタと震えている。しかも、小さな声で何かブツブツと言っているが、何も聞き取れない。
「ほんっと、分かりやすい……屑ね」
ジェンティーレ先生、多分それ……この場にいる当人以外は皆思っているけど、敢えて口に出さなかった言葉だよ。
魔法師さん達、ジェンティーレ先生の言葉に思いっきり吹き出していたのを見た。だって、ぶふぉって言ってたもの……
アルペスピア王国勢が揃ったせいか、若干ガノスさんの顔に緊張が見える。……ユズノハ様の悪態のせいじゃないはず。と、思いたい。
「申し上げにくいのですが……」
「そう言われると、聞きとうないんじゃが」
ガノスさんの言葉をバッサリと切ったよ。お爺様の言葉にプッと笑いが漏れる魔法師達。
ねえ、魔法師って笑いのツボが浅い人が多いのかな?
逆に騎士達はちゃんと……うん、笑いを堪えてた。
足を引っ張られて下を向くと、カルキノスが抱っこしてのポーズで待っていた。
可愛くてぱぁっと顔が緩みつつ、直ぐさま抱きかかえる。
「あの、率直に申し上げますと!」
「ロダン、なんとかせい」
またしてもガノスさんの言葉を聞かなかった事にしたお爺様。
溜め息しつつスッとロダンさんが前に出る。
「そちら側の話を聞く前に、先ず言わせてもらいますが。何時まで私達は立ったままなのでしょうか? 経験不足なのでしょうね。ええ、理解しております。最低限の迎え入れ態勢もままならないのでしょう? ええ、理解しておりますよ」
理解していると二回も言った……
にっこりと微笑んでいるけど、ブリザードが舞っている。これは、間違いなくロダンさんは怒っています。
ロダンさんに言われて、ハッとしたガノスさんがキビキビと動き始めた。
僕は大人しいローレンさんが気になりつつ、案内された席に向かう。
ローレンさんはユズノハ様達からは距離を取った所へ移動している。その時、彼女の付き人っぽい人が何か話しかけていたが。
離れているから、何を話しているのかは聞こえないけど。
「ようやく話し合いの場になったか。まだまだだがのぅ……」
渋い評価と渋いお顔なお爺様。サルエロ王国の評価は上がることは無い、下がる一方だと思うけどな。
ここは会議室なのだろう。長方形のテーブルで、入ってきた扉が見える方にアルペスピア王国。扉を背にしているのがサルエロ王国と、分かれて座っている。
若干、この向きに違和感を感じるんだけど。
いや、でも、普通はこうなのかな? ん? 普通って何だっけ……
出入り口の扉を眺めながら、そんなことを考えていた。
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