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しおりを挟む僕の鼓膜を揺らしたその言葉は、とても柔らかな音色。どこか懐かしさを感じ、心が震えた。
【彼の魂よ――静まりたまえ】
何故か脳裏に浮かんでくるローレンさんは、巫女装束を纏い舞を踊っている。
震える手を口元に添え、声が漏れないように息を殺す。
頭の中で鈴の音がリーン、リーンと鳴る。これは……禁書の反応?
その鈴の音が響く度、そばにいない筈のローレンさんを直ぐ側にいるように感じた。
これは……どういう事なのだろうか。
ぽわぽわと心が温かくなり、でも鼓動はとても静かで。ゆっくりと目を閉じれば、見えない筈の彼の魂が真っ黒な闇に覆われているのが見えた。
黒に染まった魂は、神様でも消すことは出来ない。でも、諦めたくない!
頭の中に様々なパズルのピースが浮かんでは消え、浮かんでは消えを繰り返し……やがて、一枚の姿絵を組み立てた。
【我が名はローレン・サルビエラ――巫女が問いかける――名はコウキ・ユズノハ――選ばれし者の役目を終えた者よ――荒ぶる心を静め――安寧を取り戻されたし】
ローレンさんの言葉に、強制力を感じる。言霊……巫女とは言い得て妙な。
お爺様達もユズノハ様達でさえ、静かに見守っているように感じる。
何故だかそう感じるのは、僕はが今、ローレンさんと同調しているせいなのかも。
見えない向こう(ローレンさん)側をハッキリと感じるんだ。
ぐにゃぐにゃと動いていたあの魂は、ローレンさんの言葉でピタリと止まる。
少しの静寂の後、彼の放つ言葉に全身に鳥肌が立つ。
――か え り た い
――か え し て
――き え て
――き え ろ
心臓が抉られるような言葉の重さで、彼が放つ言葉の一つ一つが呪いなのだと思う。
きっと僕だけでは……一瞬で意識が飛ぶような気がするよ。
世界を……神を恨み、壊し始めている程の呪い。
分かるよ、全ては駄目神のせいなのだから。でも、このまま君が世界を壊してしまうと困るんだ。だから先ずは、その闇を払おうか。
僕の意思なのか、ローレンさんの意思なのか分からないけれども、思いは一つ。
彼を救いたいってこと。
【彼の御霊を――祓えたまい――清めたまえと――お祈り申し付ける】
ローレンさんの言葉は、彼に良く効くようだ。巫女様命令だし、それに……日本語だからだと思う。
この魂を、世界を救うのは……ローレンさんだったようだ。
災悪の巫女だなんて、よく言えたよ。聖なる巫女じゃないか。
この場にいる殆どの人が、彼女と彼が何を喋っているのか分かっていないけれど。
ローレンさんの言葉は光の矢のような形になり、彼の魂に住み着く悪だけを打ち抜く。
それを見た僕は、それってもう破魔矢じゃんかと微笑みながら――閉じていた目を開けた。
何故聖女じゃなくて巫女なのか、僕はその理由に思い当たる所が多すぎた。
悪にだけ作用する言霊に、悪を祓う破魔矢。聖女として神様に召喚された人の中に、神社の巫女さんがいた。
禁書のおかげなのか、ローレンさんを通してだけど魂の浄化も見られた。
後は――
心の中で神様にお願いをする。
彼の魂を、ちゃんと回収してくださいと。出来れば、魂の送り先があるのならば……地球の日本の方へ送って欲しい。
世界を壊してまでも、帰りたいと願っていたのだから。
輪廻の輪へ、連れて行って欲しい――そう願わずにはいられなかった。
「きっともう大丈夫。お爺様達ももうすぐ戻ってくるよ」
自分に言い聞かせるだけじゃ無いけど、ちゃんと言葉に出したかった。
僕がそう言うと、感じていたのか見ていたのかは分からないけど、聖獣達は僕にすり寄ってきた。
「ロダンさんも、心配しなくて大丈夫ですよ」
「ふふ……どうなっているのでしょうね。リーンオルゴット様がそうおっしゃると、そのような気が致します」
「うん、だいじょーぶっ!」
にかっと笑えば、ロダンさんもクスッと笑う。
ロダンさんの張っていた気が緩んだのが伝わったのか、他に待っていた人達も談笑し始める。
場が、一気に緩まったのを感じた。
プリンを食し、ロールケーキに口を付け始めたカルキノス。口元を拭っていると、念話がくる。
【主は導けた きっと辿り着くよ】
ん? えーっと、何が辿り着くのさ、カルキノス。
【魂の回収です この部屋からは見えませんが 先程光の柱が降りました】
えっ!! イピリア、それって……
イピリアが僕を優しく見つめる。でも、きた念話はアクリスからだった。
【一瞬だが 神の気配もしたぞ 主が祈るから迎えに来たのだろう】
アクリス……僕、何も感じなかったけど?
【はっはっは 主は鈍いからな! あの巫女は気がついたのになっ】
アクリスの愉快そうな顔がとっても憎いです。
ゲンコツしても良いでしょうか。
でも、さっきとても頼りになったので……グッと我慢しましょう。
神様の気配ってなんぞや?
ふんっ! 僕だって、僕だって、負の方は敏感だもん!
【耐性がないと言われていたがな】
「……」
耐性が無いの言い方を変えれば、敏感ってことでしょ? 同じようなもの!
ちょっと、どうしてアクリスがそんな目で見てくるのさ。
我が儘で駄目な子扱いが定番なのは、アクリスの方でしょ!
それに、聖獣達だって負への耐性が無いじゃ無いか。
【我は聖獣だからな 聖なる者なのだから当たり前だろう 主は まだ人間なのにな?】
「……ふんっ」
アクリスの鼻先をギュッと指で摘まんだ。
【ぎゃあっ】と悲鳴を上げ、両手で鼻を隠した。
まだって何さ。僕は、間違いなく人間だよ!
ちょっとだけ聖属性が強いだけだよ! 言うなれば、勇者のような存在でしょ!
【勇者ではないですけど 主様がそう望めば そうなるかも知れませんね】
いやいやいや、勇者にはなりたくないよ!?
イピリアも物騒なこと言わないでね。
僕はのんびり、まったりと日々過ごしたいの。勇者、駄目。勇者、お断り。
【のんびりまったりとは ほど遠い日々な気がするよ?】
カルキノス……素で言わないで。せめてブラックカルキノスで言って欲しかったな?
その言葉、とても心に刺さる。
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「おおーーーーいっ! ワシ、帰還」
「お爺様だ!」
カルキノスの念話に被って、お爺様が大きな声で叫んだ。
聞こえなかったからカルキノスに聞き直したけど、首を振るだけで何も言わなかった。
僕は立ち上がり、部屋に戻ってきたお爺様達の方へ駆け寄った。
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