神に愛された子

鈴木 カタル

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僕は禁書も開けたし、資格があるんじゃないの?
僕、ローレンさんと一緒にこの世界の危機を救うんじゃないの?
彼の魂も救うんじゃないの?
一体、どういうことだろうか……

「じゃからの、リーンは負の耐性がなさ過ぎるんじゃて……弾かれた者達はそういうことなんじゃてな」

「それは……確かに、サルエロ王国に入ってからずーっとずっと嫌な感じが纏わり付いてて、正直、今すぐ家に帰りたいくらいだけどさっ。でもでも、僕約束したし……頑張ってるのに」

まさかの、ここに来て僕いらない子だったなんて。思わなかったよ?

「あのあの、行けないものは仕方ないです」

ローレンさん、その優しさ、つらいです。身に染みますからぁ。

「耐性が必要って事は……」

え、待って。それだけヤバいって事じゃない?
彼の魂がそれ程までに負の状態ってことだよね。分かっていたけれども、思っているよりももっと最悪の状態ってことだよね。

【主様……世界が崩壊しそうな程なのです それに 私達聖なる者とは真反対なのですから 拒絶されても仕方ないです】

イピリアの念話だった。世界の崩壊って言葉があるから念話にしたのか。
そうは言っても彼の魂をどうにかしないとなのに、会うことも出来ないってどうしようも出来ないって事なんだよ?

「どうにか、出来ないかな……」

っていうか、僕も聖なる者の方なんだね。そんな気はしていたけれどね!

「負の耐性が無いから、それ程までに的確に相手の居場所が分かるのよねぇ」

「あぁ、やっぱりそうなのか。それが呼ばれていることなんだと思っていたんだけど、拒絶されていたってことだったのか」

「あらぁ? 見方を変えれば、そうとも言うわね」

言葉って不思議ね~? じゃないですよジェンティーレ先生!
一人だけとても楽しそうなのがイラッとした。

「ふんっ、俺が入れるのは当たり前の結果だな、です」

いや、楽しそうな人もう一人いた。
ユズノハ様は確かに入れていたけど。きっとユズノハ様は子孫だからでしょう?
あー、でもこの国の人は入れるような気がする。彼の魂がある状態で今まで生きてきたのだから。
この気配の中、生きていくって相当だよ。歪んだ感情が育ってしまうのも仕方のないことだと分かる。
でも、そう威張られるのもなんだかなぁ……けしていいことでは無いと思うんだけど。

「しょうが無いじゃてな。降りられん者達は、一つ前の部屋で待機するしかないのぅ」

「でも……」

僕はローレンさんを見る。
僕が行けないとなると、彼女の負担が大きくなるだろうし。
かといって、行けない僕は何も出来ないのだけれども。
そんな僕の気持ちを感じてくれたのか、ローレンさんはやんわりと微笑んだ。

「大丈夫です。きっと私達が救ってみせますから」

「そうよ? あたしだっているのだから、大丈夫よん」

「ワシらに任せて、リーンは少し休むとええ。ロダン」

「分かっています。ジールフィア様も程々にしてくださいね? 決して、この国を壊さないようにしてくださいよ」

「分かっておるわ! ひひひっ」

「その笑い方は駄目です! ティーレ、あなたがしっかりと制御するのですよ! 絶対にあば……んん、暴走することのないように」

言い直したけど、暴れると暴走はほぼ同じような気がするんだけど。大丈夫なのか一気に不安になったじゃないか!
お爺様もウキウキ感ださないで。ロダンさんめっちゃ睨んでいるからね?

「んもぅ、またあたしが貧乏くじ引いちゃった感じ!?」

嫌だわ~って本当に嫌そうな顔しているジェンティーレ先生。
お爺様とジェンティーレ先生がいれば大丈夫な気がするけど、なんだか不安にもなるのは何故だっ!

〈何かあってからじゃ困るから 僕が守りの魔法をかけておくよ〉

「カルキノス?」

お爺様の腕からぴょこんと降りると、ローレンさんの前で何か唱えだしたカルキノス。
神聖な魔法の気配に僕の体がふっと軽くなる。
きっとこの感じは、聖獣だけが使える神気ってやつだろう。

〈では 私も〉
〈我も〉

カルキノスに続いて、イピリアもアクリスも神気を解放した。
一気に神聖な気配に覆われたお爺様達。僕もさっきよりちょっと安心出来るかな。

「これが聖獣の祝福なのかっ!?」
「――違います。ただの守りの魔法です」

「……ふんっ、魔法でもしゅく」
「――魔法です。それ以上でも以下でもありません」

「……」
「……」


祝福だと騒ぎ出したユズノハ様にきっちりと即否定する僕。
ギッと僕を睨んでくるけど、怖いとは一切感じない。
若干口調がきつくなってしまうのは、さっき見たあの姿のせいじゃないと思いたい。
国王とは一体。この人と一緒にいると、この疑問がちょいちょい顔を出す。

「兄様、もう黙っていてくださいまし。ついでに息もしないでくださいましっ」

「お前ごときが俺に話しかけるんじゃ……ん? 今なんと言ったのだ?」

ローレンさん早口でめっちゃ怖いこと言うから、何を言われたのか気がつけなくてユズノハ様聞き返しちゃったよ……
しかも、ローレンさん返事する気ないし。
僕達も聞かなかったことにしているけどね。だって、とてもいい笑顔なんだもの、ローレンさん。目は笑ってないけど。

「じゃあ、お任せ、するね? でも、状況とか聞きたいから、コレを渡しておくよ」

僕はインベントリから出した通信機を皆に渡しながら説明をする。

「親機はカルキノスに渡しとくから、魔力登録しといてね? 今回は貸しとくだけだから、使用後は回収します。降りた先でもちゃんと話すことが出来るのかは、やってみないと分からないけど多分使えるはず」

さっきかけた聖獣の神気もあるし、通話はできるはずだ。
今回は人しかいないから、耳に装着するイヤリングタイプの通信機。
皆の親機への魔力登録が終わるのを確認した僕は、お爺様から聖獣達を返してもらった。
聖獣達に触れ僕の状態も落ち着く。もふもふは最大の癒しだ。

誰も怪我をしませんように。何事も無く、上手くいきますように。
ローレンさんが正しく力を使えますように。
不安をかき消すように、僕は沢山祈る。階段を降りて行くお爺様達の背を見ながら。
僕は彼に会えないけれど、大丈夫、きっと上手くいくさ……

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