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しおりを挟むコウキ・ユズノハと書かれている墓石の所で、僕は仕方なくあの古典的な一文を唱えなければいけない訳で……
ひっそりと小声で『開けゴマ』と唱えてみた。うんともすんとも言わない、無反応な墓石に僕の心がダメージを受けた気がする。
はぁ、仕方がないかぁ。これはもう諦めるしかない!
腹を括った僕は、おなかに力を込めて唱えた。
『開けゴマ!』
――ゴゴゴゴゴ
と、大きな地響きと共にゆっくりと墓石が移動し始めた。
「な、なにをしたぁぁぁぁぁ!!」
「――あ」
地面が揺れているのに、ドタドタと足音をたてながらユズノハ様が走ってくる。
が、しかし。僕にたどり着く前に、揺れに足をもつれさせたと思ったら、もつれた足につんのめりそのまま横にすっ飛んだ。
それは、とても、見事な横っ飛びで――
綺麗なアーチを描いた後、ドサッと大きな音を出し着地した。着地の瞬間に肘をぶつけ小さくウッと声を漏らし顔を歪めていたが……
普通、地面が揺れている時に走ろうと思うかな? 危ないとは、思わないのだろうか。
お爺様達はその場にしゃがみ、騎士達はお爺さま達を守るように周りを警戒しているのに。
そんな中、一番真っ先に走り出す国王ってどうよそれ。
僕はユズノハ様の行動にあっけにとられ、ただ呆然と一部始終を眺めているだけだった。
ゴゴゴと響いていた音も止み揺れも収まってきた頃、自分に何が起こったのか理解したユズノハ様は横に倒れたまま――
「う……うわわわんん!!」
と、大泣きしだした。両目からは止めどなく流れ出る涙。
まるで小さな子が転んだ時に、びゃっと泣き出すような姿だ。
ユズノハ様の泣き声に反応した宰相のガノスさんが、慌てて周りをキョロキョロとし声のする方へと歩き出す。
走らず歩いて行くんだな……と、ちょっと意外だった。普通は、国王様に何かあったら困るからっていうか、泣いているんだし、駆け寄っていくよね。
ここではこうなのか? と思い、ローレンさんの方を見て、僕は固まってしまった。
それはもう、顔に何やってんだこいつって書いてあるかのようで。死んだ魚のように濁った目でユズノハ様を見ているし……僕はとても怖くて声をかけられない。
「ダメダメな子ねぇ……」
ジェンティーレ先生、今、その言葉は余りにも当て嵌まりすぎて不憫。
グズグズと鼻を啜る音が響いている。
どう声をかけていいのか分からず、僕は――
「あ、探していた下に続く階段が見つかりましたね!」と声を出し、今のことは何も見なかったことにした。
「そ、そうね? おかしな仕掛けね~声……いや、言霊で発動したのかしら? ちょっと、ここの魔法の仕組みを解析してみたいわぁ」
キョロキョロと墓石と地下に続く階段を見ながら、ジェンティーレ先生は今の魔法の仕組みを調べたいようだ。
「それは後日に改めて行ってくださいね。今は他にやることがあるので」
「んー……それもそうね! さっと先に行きましょう」
名残惜しそうに墓石を数秒見た後、ジェンティーレ先生はお爺様達と話をしにいった。
僕は下に続く階段をボーッと眺める。
随分と綺麗な階段だなぁ。見た感じだと埃が無いんだよね。多分、何十年かはたまた何百年か経っているはずなのに。もっとこう、埃っぽい所を想像していたんだけどな……
至る所で感じる異様なまでの綺麗さが、何故か不思議と落ち着くのだけど。
なんていうんだろう、この感じ……
「本当に下へ続く階段があるのですね……」
「あ、あぁ。うん、あったねぇ」
ボケッと考え込んでいたら、ローレンさんがすぐ隣にいてちょっとビックリした。
あっちは大丈夫なのだろうか?
先程まで倒れていたであろうその場所の方をコソッと見てみる。
「……」
子供のようにガノスに抱っこされているユズノハ様を見て、すんっと表情が顔から抜け落ちた。
国王とは一体。あれが国王様なのか、全くもってこの国は大丈夫じゃ無いと思う。
さすがに僕でもこれじゃ駄目だと分かるよ。
横目で見たローレンさんは目が死んだままだった。少し前から感じていたけれど、ローレンさんはユズノハ様に対して、結構冷たいというか何というか。
「アレは気になさらないでください。甘やかされて過ごしてきましたから」
「……うん。そうするね」
「ええ。それで問題ないです」
ローレンさんは笑顔なのに、目が全く笑っていなかった。僕もきっと同じ顔をしていたのかもしれない。でも、気にしないことにした。
「ほうほう、この先が目的の場所なんじゃな?」
「お爺様!」
魔法師と騎士達を連れ、お爺様達が聖獣達を抱えてきた。
どことなく、ユズノハ様とガノスさんを見ないようにしているような気がする。
「この階段を降りた先にいるはずです」
「やっとですか。随分と厳重に扱われていますね」
ロダンさん、本音ダダ漏れです。確かにやっとつくけれども。
「この先にいる者が、どういう状況かは分からないので。皆さん、十分に注意してくださいね」
〈主様 その先に私達は進めそうにありません〉
「「「えっ!?」」」
イピリアの言葉で、僕とロダンさんとジェンティーレ先生の声が揃った。
「やはりそうか……」
「え? お爺様?」
お爺様だけはそう分かっていたような感じだ。
僕はお爺様のそばにいる聖獣達をじっと見つめる。
〈穢れが 酷すぎる 我でも近づけん〉
〈僕も その先にはいけないなぁ〉
アクリスとカルキノスも?
階段の先を嫌なものを見るように歪んだ顔をして眺める聖獣達。
「もしかしたらじゃが、ここにいる何人かは弾かれるかもしれんの。お前達、ちいと階段を降りてみよ」
「え」
どういうことだろう? 弾かれる?
お爺様のいっていることがイマイチ分からず、魔法師と騎士達を連れたジェンティーレ先生が階段を降りていくのを見てみた。
「ええええええ?」
ジェンティーレ先生と魔法師の一人だけしか階段から先に進めなかったことが判明した。
騎士は全滅。誰一人として降りることが出来なかった。
「階段があるのは見えているのですが、階段を降りている感覚はありません……」
僕達にもその場で足踏みしているようにしか見えなかった。
「ど、どうして……」
「取りあえず、誰がいけるのか確認じゃな!」
お爺様のその言葉で、僕達はひとまず階段を下れるのか確認することとなった。
結果、階段の先へ行けたのは、お爺様とジェンティーレ先生、魔法師一人とローレンさん。そして、ユズノハ様とガノスさんだけだった。
なんと、聖獣達だけじゃ無く、僕もいけなかったのだ。
「リーンは、負への耐性がなさ過ぎるからのぅ……そんな気がしていたんじゃが、無理だったか」
「うそおおおおおおおん!?」
またしてもガックリと膝から崩れ落ちたのは仕方ないと思います。
そんな、馬鹿な……僕は、どうしたらいいんだろうか。
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