神に愛された子

鈴木 カタル

文字の大きさ
上 下
91 / 124
連載

190

しおりを挟む

 
ユズノハ様を先頭にし、僕達は王城の地下へ向かっている。
ただ階段があって降りていけば到着! って感じだったら早いのに、地下墓地へ行くには『正しい道順』で進まないと辿り着かないらしい。
何度も行った事のあるユズノハ様が先頭にいるのはそのためだ。

右へ左へ何度も曲がり、緩やかな下り坂を歩く。何度もそれを繰り返す。
進むにつれてゾワゾワとした何か……僕に纏わりつくような不快感が強くなっている。

【何だか嫌な感じがしますね 風がないです】

肩に乗っているイピリアがそう念話を飛ばしてきた。
確かに。人通りが無くても、空気は動く。まして、この人数での移動なら風を感じるはずだ。
なんか、空間がそのまま止まっているような感じ?

【空気があるので止まっているとは違うようです でも何かありそうですね】

先頭をじっと見ているイピリア。その表情はちょっと険しい。
大気を司るイピリアでも何かまでは分からないのかぁ。

【そうです ですから 十分に注意を】

視線を僕に移し、真顔で言われる。
イピリアにそっと頬擦りをして分かったと伝えた。

先頭の方ではユズノハ様の「こっちでこういって……こっちがこうで」と独り言が聞こえる。その声が聞こえるって事は、それだけ皆が静かなのだ。
布の擦れる音、足音、空気の異質感。きっとそれを感じているのだろう。

ピタリとユズノハ様の足が止まった。
木の扉の前でソワソワと視線が泳いでいる。なんとまぁ、分かりやすいんだろうか。
ロダンさんの大きな溜息が聞こえた。

「如何なさいましたか?」

ロダンさんは至って普通に話しかけた。でも、ユズノハ様は大きく肩が跳ねた。
そして分かりやすくオロオロとしだす。

「こ、ここは、アレが……アレなのだ。アレが……うむ」

良く分からないがアレと連呼する。
先程と同じ問いかけをするロダンさん。
下を向いていたユズノハ様は、すすーっとロダンさんの方へいく。そして、手を口元に添えるとロダンさんの耳に近寄った。
ロダンさんに内緒話をしているユズノハ様。でも、聞いているロダンさんの目はすっと険しくなった。

「出してきなさい」

「は、はい!」

ロダンさんの一言で、ユズノハ様はその扉の中へ慌てて入っていった。
こてんと首を傾けると、側にいたローレンさんが手をポンッと叩く。
そのままローレンさんの方を向くと

「あそこは宰相様が入っている牢屋でしたね」

今、思い出しましたって感じで、僕達がぎょっとするような事を言った。

「あの聖獣捕獲計画的なのに反対して投獄されたっていう?」

「……はい」

困ったように頷くローレンさん。
申し訳なさそうにしてるけども。君、今思い出したよね……僕の中ではまともそうな人ってイメージがついている宰相様を忘れててこの国大丈夫なの⁉
そりゃあ、ロダンさんも出してあげなさいって言うよ……

忘れていたことが恥ずかしかったのか、ローレンさんの耳が赤い。そのまま俯いてしまったので、見なかったことにした。

暫くすると扉が開き、中からユズノハ様とお爺様くらい背の高い人が出てきた。
その人は、仕立ての良さそうな服に身を包み、困ったように頬をポリポリを掻いている。
ぱっと見た感じでは投獄されていたようには見えない。
着の身着のままで、そこの部屋に閉じ込められていたって感じだ。

「さて、行くか」
「――待ちなさい」

そのまま進もうとするユズノハ様の首根っこを掴み止めるロダンさん。
一瞬の出来事だったけど、ロダンさん凄い早い動きだったなぁ。

「これっ、何をす」
「――黙りなさい」
「はい!」

不満そうにロダンさんを睨んだユズノハ様は、逆にロダンさんに冷たい目で見られピシッと固まった。
ユズノハ様の様子に、ロダンさんはまた大きな溜息を吐いた。
きっと、宰相様が増えて味方が増えた安堵感でも持ったんだろうなぁ。
出会った時のような態度に、ロダンさんの冷ややかな視線が矯正したって感じ?
駄目な子認定のユズノハ様だから、ロダンさんも容赦ないし。

「きちんとした紹介もせず、そのまま行けるはずないでしょうが。貴方は、ここにいる御方が他国の国王だと分かっていますよね? それとも、その頭は数分前の出来事さえ記憶していく事が出来ないのですか?」

ロダンさんの言葉は、馬鹿なんですか? って聞いているのと同じだ。
何を言われたのか分からず、きょとんとするユズノハ様。
少し間があったが理解したらしく、顔を真っ赤にして地団駄を踏んでいる。

「凄いな、僕達とユズノハ様の間には時間差があるみたい」

「ぶふっ」

隣から盛大な笑いが?
周りもユズノハ様から顔を反らして肩を揺らしている。
心に思っただけなのに、あ……

「今、声に出ちゃってた?」

隣でコクコクと激しく上下に動く頭を見て、僕は聞かなかったことにしてくれればいいのにと思った。
ユズノハ様の脳内に言葉が届くまで、時差があっただけだよ。
僕、悪くないし。だがら、そんな目で睨まれても……

ユズノハ様は真っ赤な顔で僕を睨んでいる。その目が若干うるうるしていたので、涙目なんだと分かる。

「サルエロ王国の宰相ガノス、ガノス・ストレイナだ!」

涙目のまま宰相様を紹介すると、腕を組んでそっぽを向いてしまった。
紹介された方は今までのやり取りをずっと観察していたけれど、紹介されるとすっと表情を整えた。

「この度は……誠に申し訳ありませんでした」

そう言いながら、するりと土下座をした。
突然の土下座タイムに、若干引いた。
今、そんなことをしている時間はないんだけどなぁ。多分、取り合えず謝罪をって思ったんだろうけれど。

何だか、進ませないように妨害されているように感じてしまうのは、この人を信用していないからなのだろうか。
プラスがマイナスになってもゼロになるはずなのに、信用がないとマイナスに落ちてしまうものなんだなぁ……
うんうん。信用って大切! と、改めて感じたよ。

【真面目な性格が仇となった瞬間だね】

腕の中にいるカルキノスが面白そうに呟いた。念話で良かった……

しおりを挟む
感想 237

あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅

あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり? 異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました! 完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。