89 / 124
連載
♛閑話♛
しおりを挟む☆とある魔法師の嘆き
この世には、どうにも出来ない事がある。
それが今目の前の状況だった。
何度も何度も魔法をかけても状態が安定しない。ポーションを使っても回復しない。
正直、もう助からないと何度も思ってしまった。
国王ジールフィア様が「ワシが戻るまで、どうにかして持たせよ」との命令で、言われた通りにはしてはいるが……
「師団長、もう……」
「黙れ! 交代して休憩していろ」
代わりの魔法師が自分と入れ替わりで魔法を継続していく。
師団長も滝のように汗が出ている。
正直に「もう無理だ」と、どうして言わないのだろう?
ここまで酷いともう……
ジェンティーレ様も特別な方だと知っていますが、延命はもう意味がないかと。
どうにもならない状況に、自分はもう心が折れてしまった……
師団長がふらつきだした時、救護室の入口から物凄い魔力を肌に感じた。
カタカタと音が聞こえ、何の音だろう? と思っていたら、自分の足が震える音だと知った。
魔力を肌に感じることは殆どない。
魔法師なら強力な魔法を使った時に少し感じる程度だ。だが、今この感じる魔力は……
「待たせてすまんかった! 後はリーンに任せるから、皆少し離れとれ」
ジールフィア様の後ろから歩いてきた方の姿を見て、心臓が止まるかと思った!
ジェンティーレ様に魔法を行使していた仲間からも、驚きの表情が見えた。
魔法師団の中で、知らない人はいないだろう。ジールフィア様のお孫様のリーンオルゴット様のことを。
古に伝わる神が使用した魔法を使ったり、今までにない魔法を使う「魔法に愛されているお方」だ。
ジールフィア様がジェンティーレ様の状態をお伝えしている。
ほっとしたのも束の間で。
普段陰から見ていた愛らしい表情がない事に気が付いた瞬間、魔法を行使していたリーンオルゴット様の体から魔力が溢れだした。
ヒッと声にならない叫びが魔法師たちからも感じた。自分も同じように、息が止まるかと思うほど驚いた。
魔力を視覚で捉えることはない。魔力が見える者以外では。
自分は見ることが出来ない、にも関わらず見えているこの状況は恐怖でしかなかった。
魔力の暴走か⁉ とジールフィア様を見ると、何とも言えない表情をしておられた。
この子凄いじゃろ? とでも思っているんだろうなぁと、見てわかる程に崩れた表情をしておられるから。
「わわっ⁉」
部屋の中一杯に広がる魔力に、思わず声が出てしまった。
だが、この魔力に触れると感じるのは心地よい温もりだ。
「何でしょう、この……」
「凄い……」
部屋の中からは皆の驚く声が聞こえる。
ん? 体のだるさがない。
それに魔法を行使して疲労していた、あのだるさが……消えている⁉
ばっと顔を上げると、そこには信じられない光景があった。
なんてことだ‼
ジェンティーレ様が回復していく!
見る見るうちに今までと変わらない姿へと回復していく。
これは、奇跡としか思えない。
軽症者達がいる方からも傷が治っただの、消えただの声が聞こえているが。
ん? 消えた?
聞き間違いだったかな。
「奇跡ですね、師団長」
「口を開くな。ジールフィア様も後程話されると思うが、これは極秘項目に入る案件だ」
「はい」
師団長は今日も自分に厳しい……
ぎろりと睨まれて生きた心地がしない。
それにしても、さすがリーンオルゴット様だ。
そう思い、もう一度お姿を見ようとしたら――
「リーン⁉」
ジェンティーレ様のお声も聞こえたのか分からないほど、一瞬で視界から消えてしまわれた……
その後直ぐに意識を取り戻したジェンティーレ様が、ジールフィア様とお話をされている。
何やら声は聞こえないので、極秘の内容だと思いその場から離れた。
ベットの周りや散らかったポーションを片づけていたら、トスッと何かが落ちる音が聞こえそちらを見たら――
「リーン!」
「わーーーーん!」
いつの間にかお戻りになったリーンオルゴット様が。
一体何処にいたんだろう?
ふわりと微笑むと、倒れてしまった。
自分はあわてて救護室のベットへ寝かせようと抱き上げて感じた重さに、何故か涙が止まらなかった。
――軽い
こんなにも小さな体で、このお方は奇跡を起こしたのだ。
そう感じてはあふれ出る涙が止まらなかった。
この世には、どうにも出来ない事はある。だが……
そっとベットにリーンオルゴット様を寝かせて、少し離れて神へ祈る。
どうか神よ、リーンオルゴット様をお助けください。
自分は今日この日の為に魔法師になったような気がしてならない。
この日の奇跡を見る為に。
もう二度と折れない心を手に入れよう。
このお方の負担が、少しでも軽くなるように。
心にボッと炎が灯った気がした。
あぁ、自分も魔法師なのだと気が付き、ふうっと息を吐き出した。
心の中に「負けたくない」という炎が灯ってしまったのだ。
リーンオルゴット様から頂いたこの炎、二度と折れない心に変えて行こう。
自分はこの王国の治癒を担当する、魔法師なのだから――
55
お気に入りに追加
12,610
あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
転生したら幼女でした!? 神様~、聞いてないよ~!
饕餮
ファンタジー
書籍化決定!
2024/08/中旬ごろの出荷となります!
Web版と書籍版では一部の設定を追加しました!
今井 優希(いまい ゆき)、享年三十五歳。暴走車から母子をかばって轢かれ、あえなく死亡。
救った母親は数年後に人類にとってとても役立つ発明をし、その子がさらにそれを発展させる、人類にとって宝になる人物たちだった。彼らを助けた功績で生き返らせるか異世界に転生させてくれるという女神。
一旦このまま成仏したいと願うものの女神から誘いを受け、その女神が管理する異世界へ転生することに。
そして女神からその世界で生き残るための魔法をもらい、その世界に降り立つ。
だが。
「ようじらなんて、きいてにゃいでしゅよーーー!」
森の中に虚しく響く優希の声に、誰も答える者はいない。
ステラと名前を変え、女神から遣わされた魔物であるティーガー(虎)に気に入られて護られ、冒険者に気に入られ、辿り着いた村の人々に見守られながらもいろいろとやらかす話である。
★主人公は口が悪いです。
★不定期更新です。
★ツギクル、カクヨムでも投稿を始めました。
没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます
六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。
彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。
優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。
それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。
その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。
しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~
雪月夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。
辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。
しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。
他作品の詳細はこちら:
『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』
【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】
『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】
『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』
【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
聖女としてきたはずが要らないと言われてしまったため、異世界でふわふわパンを焼こうと思います!
伊桜らな
ファンタジー
家業パン屋さんで働くメルは、パンが大好き。
いきなり聖女召喚の儀やらで異世界に呼ばれちゃったのに「いらない」と言われて追い出されてしまう。どうすればいいか分からなかったとき、公爵家当主に拾われ公爵家にお世話になる。
衣食住は確保できたって思ったのに、パンが美味しくないしめちゃくちゃ硬い!!
パン好きなメルは、厨房を使いふわふわパン作りを始める。
*表紙画は月兎なつめ様に描いて頂きました。*
ー(*)のマークはRシーンがあります。ー
少しだけ展開を変えました。申し訳ありません。
ホットランキング 1位(2021.10.17)
ファンタジーランキング1位(2021.10.17)
小説ランキング 1位(2021.10.17)
ありがとうございます。読んでくださる皆様に感謝です。
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
ちっちゃくなった俺の異世界攻略
鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた!
精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。