神に愛された子

鈴木 カタル

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2巻

2-3

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「こんなところかな……」
「どれどれ~?」

 ヴィーが僕が書いた用紙を覗き込んで来た。

「本当にこれでいいの?」
「うん。僕はこれに決めたよ」

 心配そうに僕の方を見るヴィーに、頷いてはっきりと意思を伝える。
 僕は剣に槍、体術も専攻せず、魔法学と工学と薬学に決めた。
 魔法学は元々、色々と調べてきた事もあるし。それに色んな魔法を使ってみたいから。
 工学は、錬金術の使い道に興味がある。薬学も錬金術を使うけど、工学とは別のやり方みたいだから、こちらも習っておきたい。
 自分としては、結構満足出来る科目を選んだと思うんだけどな。
 すると、リアムやノアもヴィー同様に難色なんしょくを示した。

「いいのか? 本当にそれなんだな?」
「ええー!? 本当に何も入ってないじゃん、僕も体術やめたいのにぃ……」

 そう言われてもなぁ。僕はコツコツと、地味に何かをやる方が好きだし。兄様に、魔法を使うのは極力避けるようにって言われてるけど、授業くらいでは使いたい。

「僕はソフィー先生に紙を出して、もう帰るね」
「え? もう帰るの?」
「学園内の探索たんさくとかしないのか?」

 うーん、困ったなぁ。そう言われると、うろうろしたい気もするんだよねぇ。でも、早く帰らないとイピリアが飛んで迎えに来そうだし、兄様と姉様も多分僕の帰りを待ってる。

「ごめんねぇ? 僕は帰るよ」

 気になると落ち着かないから、僕は謝りつつ断る。それに、ここは人が多過ぎるから疲れるんだよね。僕って、たまに外に出ていたとはいえ、軽い引きこもり生活を送っていたからさ。さすがにそこまでは言わないけど。
 僕の様子を見て、皆は残念そうに声を上げた。

「そうか。じゃあまたな」
「えええー。リーンと行けたら面白い事になりそうだと思ったのに~」
「はーい。またね。科目同じなのあるから、会えるの楽しみにしてる~」

 皆から離れて、ソフィー先生の所へ用紙を提出しに行く。皆はまだ残るようだ。
 僕が近寄ると、先生達から緊張した雰囲気を感じた。僕相手に緊張してる? ただ用紙を提出するだけなのに、何故だ。

「書き終わりましたので、これをお願いします」
「はい」

 そんなに硬くならなくても良いのに。きっと僕が国王の孫だから、先生は緊張してるんだろうなぁ。用紙を受け取ったソフィー先生の眉間みけんに、しわが寄った。

「これでいいんですか? 一度受領じゅりょうすると変更出来ませんよ」
「それでいいです」

 ソフィー先生も心配なのかな? 隣のエヴェリーナ先生も用紙を覗き込んだ。

「ぬ? 本気か?」

 あ、このエヴェリーナ先生って体術担当って言ってたっけ。

「あぁ、武術が無い事ですか? それは大丈夫です」
「本当にいいんですね?」
「はい。それでお願いします」

 それが僕の希望だと分かってもらえるように、にっこりと微笑む。と、先生達はやっと受け入れてくれたみたいだ。エヴェリーナ先生はまだ若干難しい顔をしてるけど。

「では、これを受理じゅりします」
「はーい。お疲れ様です」

 ソフィー先生達に一礼して、その場を後にした。
 何だかんだで時間使ったなぁ。紙を出すだけだったのに。
 さて、家に居る聖獣達が気になる。皆、いい子にしていただろうか? 僕の帰りを待っててくれるかな?
 学園の出入り口に迎えの馬車を見つけ、僕は足早に乗り込む。
 揺られる間、ずっと手持ち無沙汰ぶさたで落ち着かない。いつもならカルキノスかアクリスを抱っこしてるから。実は聖獣達よりも、僕の方が寂しいのかもしれない。
 家に着くまで、そんな事をぼんやり考えていた。


 バン! と音を立てて僕は自室の扉を開いた。

「只今帰りました!」

 元気よく挨拶したものの、返事は無い。
 あ、あれ? 誰も居ないのかな?
 馬車が着いた後、急いで家に入って、僕の部屋まで走って来たのに。僕の部屋に聖獣達が居ない。
 あれれ? てっきり部屋の中で遊んでるか、寝てるかしてると思ったのに。
 部屋の中を歩きつつ、キョロキョロと見渡したけれど、影も形もなかった。

「アクリス~? カルキノス~? イピリア~?」

 しんっと静かなままの部屋の中。僕は机の下や、ベッドの下まで見た……が、やっぱり居ない。
 あ、ちょっと悲しくなってきた。僕の帰りを待ちびてると期待してたんだけど……

「ここに居ないってなると……庭?」

 庭に出て遊んでいるのかも! 遊びに夢中になっていて、僕の帰る時間を忘れてたりして……
 そうと決まれば庭に行こうと、ベッドから離れようとした時に、少し違和感を覚えた。
 広いベッドの真ん中辺りが、不自然にモコッと膨らんでいたのだ。
 ん? こんな所にクッションなんか入れてたっけ?
 ひょいっと掛け布団を捲るとアクリスが現れた。

「居た」

 ぷーぷーと寝息を立てて、仰向けに寝ているアクリス。その寝姿が可愛くて、胸がキュンッとなる。それに、ちゃんと僕を待っててくれて少し安心した。
 しかしこの子ライオン、本当によく寝るな……
 こんなに布団の奥までもぐってしまうなんて寝相ねぞうが悪い。
 アクリスはどうしてここに居るんだろう。他の二匹が騒がしくて布団の中に逃げたのかな?
 お腹を優しく撫でると、ふわふわっとしたその撫で心地ににんまりする。あぁ、僕の癒しの毛だ。
 さわさわと撫で過ぎたのか、アクリスが寝返りを打つ。ふさっとした尻尾が数回動いた。
 はわわ……こりゃたまらんです。

〈ん あうじ におひ〉
「え?」

 い、今の寝言? 可愛いいいい‼
 余りの可愛さに抱っこしようとするが、アクリスを起こさないようにやるのが難しい。苦戦しつつも横になったアクリスの体を持ち上げる。ぷらーんと下がる前足と後足をそっと支えた。

〈ん……〉

 僕の腕の中に収まる小さな姿。その姿は愛らしい。
 口の辺りに両足が当たっていて、寝息で毛がふよふよと動く。こんな可愛い子ライオン、きっと他には居ない。まるで猫だ。うん、ネコ科だったね、ライオンは。

「こんなに寝ても成長はしないんだけどね。このサイズに指定して小さくなってるんだからさ」
〈ん? 主……? 帰ったのか〉

 あちゃー。起こしちゃった。まばたきを数回して起きようとするアクリス。

「ただいま、アクリス。まさか、ベッドをひとめしてるとは思わなかったよ?」

 寝起きだからか、いつもなら抵抗するのに抱っこされていても嫌がらない。ぷぷぷと笑うと、パチパチと瞬きしたアクリスが、珍しく可愛い事を言った。

〈ベッドに主の匂いがあった 我は 会いたかったのだ〉

 えっ、僕の匂いに釣られてベッドで寝てたの? プライドの高いアクリスが「会いたかった」なんて言うと思わなかった!

「僕も会いたかったよ~♪」
〈主 やめんか くる し〉

 ぎゅっと抱きしめるとアクリスのぬくもりを感じた。嫌そうに体をよじるんだけど、可愛いから離せそうにない!


 その後カルキノスは、厨房でアイスクリームを食べてたところを捕獲ほかくした。口の周りにアイスクリームを付けてて、僕は食べ終わるまでぬぐうのを待ったよ……
 すっかり目が覚めたアクリスが抱っこを嫌がったので、床に降ろした。そして、代わりにカルキノスを抱いて、二匹と一緒にイピリア探しを始めたんだ。
 このイピリア探しが大変だった。全然見付けられなかった! かくれんぼの天才だよ!
 庭にも兄様や姉様の所にも居なくて、こんなに悩まされるとは思わなかったです。
 結局何処に居たかって言うと、僕の鞄の中だ。その鞄は持って行かないやつだったのに。イピリアはこれを学校に持って行くのだと思い込んでいたらしく、朝早くからずっと待機してたらしい。見付けた時には寝てたけど。

〈だから姿を見なかったのだな 呆れるわ〉
〈居ないはずだよ 学園に行ったと思った〉
〈恥ずかしいです もう言わないでください〉

 僕は項垂うなだれるイピリアに申し訳なくなった。そしてこんなにも思ってくれるイピリアを、僕の〝召喚獣〟として連れて行く事に決めた。
 会話は念話限定にすれば、何とかなる気もする。他はどうにかして誤魔化ごまかそう。
 この決定のせいで、アクリスとカルキノスも順番に連れて行く事になったけど。僕も寂しかったから、そこは仕方ない。

「皆『大人しくいい子』にするの、約束だからね」

 僕の強い念押しに三匹とも分かったと返事をしたけど、アクリスは特にやんちゃだから不安なんだよねぇ。明日からの学園生活を考えると、ちょっと悩むけど、ここは僕が何とかせねばならんのだ。

「ねえイピリア。召喚獣って扱いで、本当に大丈夫かな」
〈出したり閉めたり出来ませんから ちょっとその辺りをどうにかしてくだされば 問題無いかと〉

 イピリアはそう言うけど、そもそも召喚獣との違いが分からないんだよねぇ……ここは一つ、イピリア先生、解説お願いします!

かしこまりました 〝召喚獣〟とは 呼び出すものなので 基本何か用が無い時は 姿を閉じてます 見えなくさせるという事ですね 一方私達は〝眷属〟なので それは出来ません また〝召喚獣〟は主の命令が無ければ 何も出来ません ですが私達にその制限はありません〉

 んー……じゃあ召喚獣には自我が無いって事?

〈召喚する主人によって異なりますが 基本そうですね〉

 ふーん。眷属には自我があると。
 イピリア達のような眷属は他にも居る?

〈主様は特別なので私達は眷属になりましたが 普通は出来ませんから 他に眷属は存在していないでしょう〉

 ん⁉ 今なんか、聞き捨てならない発言があったんだけど。出来ないってどゆこと?

〈主様のような特別な力が無ければ〝眷属〟は作れませんよ 動物も魔物も契約したら つまり 召喚したら 従魔じゅうまになりますから〉

 従魔……確かカールベニット先生の話にも出てきた言葉だ。召喚獣と従魔は同じものなのかな。

〈そうです 正確には 従魔の一種に召喚獣が含まれます 魔物を従える方法は色々ありますが 召喚魔法はその一つという事ですね〉

 なるほど。だとしたら、召喚獣を呼び出すには契約が必要って事? イピリア達に契約は無いの?

〈最初の召喚の際は必要ありません 自分の属性に合った魔物を 外からランダムに呼び出します そこで従魔の契約を結べば 以後好きな時に召喚出来るようになります 私達に契約は無いです〉

 ふむふむ。つまり、召喚魔法とは、契約したい魔物を呼び出す魔法なんだ。呼び出された魔物を〝従魔〟に出来れば、自分専用の召喚獣として扱える。好きな時に呼び出せて、用が終わると消す事も可能になる。また同じ魔物を呼び出すには?

〈名前を付ける事が 最初の契約の際に必要となりますので 名前を呼べば 再召喚出来ます〉

 召喚獣にするのに必要なのは、名付けなんだね。契約の元、新しい名前を付ける。そうすると従魔になるのか。従魔は召喚獣として再召喚出来るって事ね。
 イピリアの説明を聞いていたら、カルキノスが話に加わった。

〈僕達には神が付けた名がある 主が僕達を作り替えた時に 別の名前を付けてたら 従魔になっていたかもよ〉
「えー! それは知らなかった」

 そもそもあの時、召喚魔法を使うなんて事、思いつけなかった。最初のイピリアの時はこの世に呼び戻す事しか考えられなかったし、魂の再誕だってやれると思わなかった。考えて魔法を使わないと、こーゆー事になるのか。

〈結果的には眷属で良かったですけどね 従魔になっていたら 大気の管理は出来なかったので〉
〈我らは元が特別な存在 主は主そのものが特別なのだ〉
〈特別の中の特別 召喚獣に似た新しいものも作っちゃいそう でも僕が居れば 他に召喚獣は必要無い 僕の主なんだから〉

 んんんん。話がややこしくなった気がする。でも、皆眷属でいいみたいだから、いっか~♪ 
 いや、考える事を放棄してはないよ。
 召喚獣かぁ……他にも契約出来たら、もふもふパラダイスが作れるんじゃない? 好きな時に呼べるし。便利だよね。ふわっふわの可愛い魔物が居ないかな?
 考え込む僕に、カルキノスが不満そうなオーラを発してる……気がする。聖獣は僕の心を読めるからね。

〈僕達だけでいいでしょ これ以上動物増やしたら 僕の事撫でてくれなくなる〉
「え……」
〈我らよりもすぐれた種族は居ない 召喚獣は念話は出来るが 我ら程堪能たんのうに喋れぬわ〉
「えー! そうなのかぁ」

 カルキノスのお腹をさわさわと撫でつつ、お爺様の召喚獣である鳥のボッチを思い出した。確かにボッチと会話した記憶は無い。ピィッて鳴いたけど、言葉はイピリアが通訳してくれてたっけ…… 

〈そもそも召喚獣と眷属じゃ違い過ぎます ですが 主様が召喚獣を呼び出したら 何が出るか分かりませんね〉
〈それはあるな 主は何をするか分からん〉

 ちょっと言い方が酷い気がするんですけど。僕だってそうしたくてしてる訳じゃ……勝手にそうなっちゃうんだよ。

〈主 もっと撫でて〉
「あ、はい」

 手が止まっていたのをカルキノスに指摘された。
 撫で撫でを催促さいそくするのはカルキノスだけだよね。君は僕ごのみ過ぎるよ。
 ともかくこれで召喚魔法にちょっと詳しくなった、気がしなくもない。イピリア先生って凄いなぁ。僕の先生だね。 
 改めて、聖獣達に出会えて良かったと思う。こんな愛らしい聖獣をくれて、ありがとう神様。
 学園生活に不安はあるけど、これからは聖獣のうち誰かが側に居てくれる。
 どうやってこの子達の事を説明するのか考えるのは大変だけど。

〈ほっほっほ 主様が 浮気うわきしないように 監視ですね〉
〈我は 主が召喚魔法を使おうとしたら 常に姿を大きくして威嚇いかくしてやるわ〉
〈僕は僕は えっと 泣いちゃう〉

 こそこそと話し合う聖獣を眺めていたら、急に悪寒おかんを感じた……
 気のせいかな? さて、明日からの事を考えよう。


         †


 翌日、早速イピリアを連れて工学の授業がある教室に入ると、ノアが声をかけてきた。

「おっはよ~、リーン」
「おはようノア。やっぱり君も工学を取ったんだ」
「うん~、今日は何だか、皆にぎやかだね~」

 ノアの言う通り、教室の外に生徒達が詰めかけている。教室の中の皆も、心なしかそわそわしているようだ。
 すると、肩の上に乗ったイピリアが念話で言った。

【ここは騒がしい所なのですね】

 授業初日だし、仕方ないよね。皆緊張してるんじゃないかな? 何故か皆僕の方を見てるけど、どうしたんだろう。
 席に座ると、イピリアは僕のひざの上にちょこんと乗った。大人しくてとてもいい子にしてる。そんな様子にホッと一安心。軽く羽毛うもうを堪能しつつ、隣に座ったノアに話しかける。

「今日の授業、楽しみにしてたんだ」
「僕もだよ~、工学の先生はどんな人なのか、気になってたんだよね~」

 ノアは授業内容より、先生の方を気にするんだね。僕は内容の方に興味があるんだけどさ。そんなノアにちょっと笑うと、ノアの視線がイピリアに向いた。

「えっと、それで、さっきから気になってるんだけど、それは……召喚獣?」
「うんと……召喚獣だね。大人しいから、普段から一緒に行動してるんだ」

 色々考えてたのに、上手い事言えなかった! いつも通りだと強調したかったんだけど、いざとなると全然言葉が浮かばない。

「ええええ! 召喚魔法を使ったの?」
「うん」

 ノアは召喚魔法の事を知っている様子。僕とイピリアを見るその瞳が、上下に揺れる。

「リーンは結構魔力量が多いんだね~。しかもこの鳥さん、何だかリーンに似てる~♪ 召喚獣は主人に似るって言うもんね!」
【まあ この方は良い目をしてますね そうですそうです 私は主様に作られましたからね そうなる──】

 あらら、イピリアのマシンガントークが僕の頭の中で響いてるよ。僕に作られた経緯を、ノアに向かってずっと語りかけてる。でもね、その話はノアには聞こえないんだ。

「ん~? この鳥さん、僕の事見てる。何か言いたそうにしてない?」
「どうだろう? ノアの事を気に入ったのかもね」

 さすがにずっと話しかけてるよとは言えないから、ちょっと顔が引きつった。

「そうかなぁ? そうだと嬉しいなぁ~」

 キラキラした瞳で見られて、心苦しいです。ごめんね、いつか本当の事を話せたらいいんだけど。
 今は、話せる気がしない! 実は喋れますなんて言ったら、騒がれて授業すら受けられなくなりそうで怖い……
 喋り続けるイピリアに、落ち着くようにと言い聞かせる。気が付いたイピリアは念話を止め、【取り乱しました すみません】と謝った。
 ノアが瞳を輝かせて聞いてくる。

「僕も撫でてみてもいいかなぁ?」

 イピリアに目を向けると、念話で返事をした。

【はい】
「うん。優しくしてくれれば、大丈夫だと思うよ」

 ほら、どうぞ。って感じでにっこり微笑み、ノアの方に膝を向ける。そんな僕を見て安心したのか、そっとイピリアを撫でるノア。イピリアも大人しく受け入れている。

「はぁ~……凄く柔らかくて気持ちいい~」

 ノアはほっこりとした表情で、優しく撫でている。何だか、彼との距離が縮まった気がした。
 きっと優しい男の子なんだろうな。人柄の良さそうなノアへの僕の好感度はぐんっと上がった。
 そこへ、聞き慣れない声が浴びせられた。

「遊びに来ているのか。ここは、動物を見せびらかす所じゃないんだがな」

 えっ?
 驚いた僕達は、声のした方をぱっと見る。すると、知らない三人の男の子達が僕達の後ろに立っていた。同級生……にしては、身長が高いような?

「ふは! 可哀想かわいそうですよ、オーウェン様」
「そうですね。まだ子供なんでしょう。動物を連れて歩くくらいには」

 そのうち二人が真ん中の男の子に向かって言う。
 えっと、誰なんだろう? 突然話しかけられて、かなり驚いた。
 ノアの知り合い? でも、僕を見て話してるよねぇ。
 知らない人なんだけどな……

「君達は誰かな?」
「はあ? 君は~、こちらの御方おかた、オーウェン様を知らないのか?」

 男の子達の一人が、片眉を上げて言う。
 いや、初対面だよね。君もそのオーウェンって人も。だから聞いたんだけど……
 取り巻きらしきもう一人の男の子もあざけるように吐き捨てる。

「やっぱり、世間知らずのお子様ってところですよ。オーウェン様には遠く及ばない」

 そこまで聞いたところで、ノアが声を上げた。

「えっと~、あ! オーウェン・ウィルソンとそのお供達ともたち、じゃなかった! お友達だよね?」

 あれ、ノアの知り合いだったの?
 てっきり全然関係無い人達なのかと思ったじゃん!

「何だと? オーウェン様って言えよ! 俺達よりも一つ先輩なんだぞ」
「そうです。年上を呼び捨てにするなんて無礼です!」

 何か始まった? まるでお芝居しばいにありそうなやり取りだなぁ。
 威張る人と、その取り巻きじゃんか。ノアが「お供達」って言ったのも、あながち間違いじゃなさそうだ。

「話の邪魔をして悪いけど、君達は誰? 僕は君も、君も、そして君の事も知らないんだけど」

 一人一人を見てそう言うと、オーウェンと呼ばれてる真ん中の人が僕を睨む。

「人気があるようだが、それも見た目が良いだけか」
「こんな見た目してるだけはありますね。無知。見た通りにひ弱。オーウェン様とは違い過ぎて、可哀想な人ですね」

 僕を見ながら、はんっと鼻で笑うこの人達。何か、いけ好かないなぁ

【主様を愚弄ぐろうするとは 私 許しませんよ】
「あ」

 イピリアは突然僕の膝の上から、彼等に向かって飛び掛かった。
 ちょっと、大人しくするって約束忘れたの!?

【この無礼者 恥を知りなさい】
「いた、ちょ、いたた!」

 払いける手を避けながら、くちばしで器用に取り巻きの一人の頭をつついてる。
 あわわ! ダメダメ!
 慌ててイピリアを確保して、腕の中に閉じ込める。
 ノアはぽか~んとした顔で、隣でそれを眺めてた。

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