神に愛された子

鈴木 カタル

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♛ 閑話

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『その時のアクリス』







 アクリスはリーンオルゴットの姉達と共に、領内を警邏する。小さな姿なので、姉に抱きかかえられて。

 移民の職を案内する時も、姉と女性しかいない騎士達の警備をしている。
 リーンオルゴットの姉は、アクリスから見ても実に優秀だった。
 騎士達への指示も的確で、混雑していた騎士の詰所だが、その指示で綺麗に捌けて行く。

 見事だ。人の子は色々と優秀なのが居るのだなと関心する。

 新しく来た人の中に、町で騒動を起こす人も居た。
 道具の値段が高いだの、武器防具の質が悪いだの、食べ物に虫が入っている...などの様々な文句を声高らかに話す。
 アクリスは騎士達と警邏中に、そんな騒ぎを幾つも見た。
 そして思う、人の子の嫌な感情は、故意にそれを容易く行うものだと。
 何故 故意なのかは、騒動を起こす人から放たれる、悪の気を感じたからだ。

 聖獣は、人の感情には敏感だ。それが近い場所での事ならば、尚更感じ取れる。
 感じた事を騎士達へ話す。連れて行かれる人は、時に暴力を振るう。しかし、聖獣を前に、全ての武力は力を失う。
 それは聖獣アクリスの持つ、生き物を抑える力の効力だった。
 武器は地に落ち、体の力も抜け落ちる。そんな人を軽く運ぶ女性騎士達。
 姿は小さいがやはり聖獣なのだ。その力に姿の大きさは関係無い。

 リーンオルゴットは聖獣を心配するが、心配されているのはいつもリーンオルゴットの方だった。

 聖獣は大きな姿の時、壁すら通り抜け、何の攻撃も受けない。触れる事を意識しなければ、聖獣から触れる事も出来ない。通過させるか触れるかは、聖獣の意識次第だ。故に、心配をする必要は無いのだが、リーンオルゴットは必要以上の心配をする。
 しかし、何時も何か仕出かすのはリーンオルゴットなのだ。なので、聖獣は自分の主の方が心配だった。

 今日も詰所で新しく来た人の職を案内していた。そんな時に、あの感情が走り抜けて行ったのだ。

 アクリスは誰の力で、どんな物なのか瞬時に理解する。そして、それを消すかの様に放たれた、神気も感じた。

 一瞬の出来事で終わったが、アクリスの視界には膝を付く人や、座ったままで胸を抑え込む人の姿が居た。

「今のは、何なの...」

「心臓が締め付けられなかった?」

「ね、一瞬だったけど…凄く苦しかった」

 まだ余韻が残っているのか...胸を抑えて話す人の子達にそう思うアクリス。

''早く続けるのだ''

「そ、そうね」

「よく分からないけれど、私達はやるべき事をやりましょう」

 先の出来事が何か分からないが、自分のやるべき事を優先させた様だ。それは夜まで続いた。今日は夜の警邏が無い日だった。

 そして夜が更けてから、聖獣は行動した。

 
 小さな姿では歩くのが遅い為、大きな姿へと変わる。静かな領主の館の中を、歩いて主の部屋へと向かう。フカフカな絨毯が敷き詰められた場所では、歩く足音はしない。

 そっと主の部屋へと忍び込む。
 寝室へと壁を通り抜けて行く。
 広いベットにそっと近寄ると、主の側に寝ている2匹が見えた。

 聖獣カルキノスはぴったり主に身を寄せている。それを片手でペシっと離す。広いベットの上で、ころころ転がると端で止まった。起きずにその場で寝息を立てている。

 聖獣イピリアは主の顔の横で寝ている。それを片手でポイっと飛ばす。ぽふんっと跳ねて、聖獣カルキノスの側へと止まった。やはり起きずに、その場で寝息を立てている。

 ベットの真ん中に寝る主を見ようと、大きな姿のままでゆっくりと忍び寄る。沈むベットを気にせず、主の真上まで歩くと、ピタリと止まる。

 そっと顔を寄せて主を見る。

 小さな主の顔は深い眠りに付いて居る様で、目を閉じ静かにすやすや寝ている。
 久しぶりに見た主の顔に安堵する。
 今日感じた哀しいと言う感情に、何か良からぬ事があったと思ったが、健やかに眠る主。その寝顔を、瞳に焼き付ける様に見詰める。

 次第に自身も睡魔に襲われてくる。嗅ぎなれた主の匂いに誘われるように、その上に乗る。ズシッと沈むが、安堵からの襲い来る睡魔には勝てず、そのまま眠りに落ちた。

 その後、起こされるまですやすやと寝てしまった様だ。


 主からの踠く気配に意識を取り戻す。

''あ る じ  主 すまん 乗っていたか''

 ごろんと横に転がり、主を解放する。まさか主の姿を見に来て、現在振りに安堵して寝るとは思ってなかった様だ。

 ホッと息を付く主を見て、自身も潰してしまわなかった事に安堵した。


「久しぶりだね。どうしたのアクリス。眠れなかったの?」

''どうしたは 我の言葉だ 主が心配で 様子を見に来たのだが 寝顔を見ていたら 寝てしまったわ''

「えっ?」

 きょろきょろと視線を動かし、他の聖獣を探す主。見つけてきょとんとする顔。
 それを見て、少しヒヤッとした。
 自分が遠くに追いやった事を知られたかと思った様だが、鈍感な主は気が付かない。

 くるりと回転して小さな姿へと変わると、主の腕の中に入り込む。

「わ、どうしたの。ふふ」

''寝るのだ 我は 今日は ここで寝るぞ''

「珍しいなぁ。でも嬉しい」

 ぽやっと主の体から溢れ出る、聖獣を愛おしいと思う感情。

 アクリスはそれを感じながら、自分の主の側で眠りにつく。

 久しぶりに揃う3匹の聖獣と、深い眠りに落ちるリーンオルゴット。

 朝早く目覚め、恥ずかしさからなのか誰も起きてない内に、その場を後にする聖獣アクリス。

 1人と2匹が目覚めるのはもう少し後になる。

 
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