神に愛された子

鈴木 カタル

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 工学の授業でスミス先生に会った時、顔色が前と同じく悪かった事に驚いた。
 授業は作業が殆どで、ノアと組んで初心者用の革細工をしてたんだけど。
 先生の体調が戻ってなさそうで、不安になった。
 そんな時にイピリアが、ただの寝不足だと教えてくれたんだけど。寝不足なのが僕のせいだったら、申し訳ないなと思った。

 イーサンくんは鍛治系なので、僕達とは別の所に座っている。

「革細工だと、皮をくっつける錬成板貰えて助かるね~♪」

「ん? あぁ、錬成板が貰えるのは助かるね」

 皮で作る物はペンケースにした。理由はノアが作るから。同じ物なら、工程も同じで覚えやすい。革細工の先輩なノアの指導で、僕の作業は進むのです。
 スミス先生が気になって、時々手が止まっちゃうんだけどね。

「焼き印を付ける錬成板もあるね~? リーンはどんな焼き印入れる?」

「んー……星とか簡単そうじゃない?」

「じゃあ錬成板の上に乗せて、星のイメージをちゃんとするんだよ~?」

「はい」

 ノア先生の教えに従って、錬成板の上に乗せて頭の中に星を浮かべる。
 夜空の瞬く星たちをイメージした。

『錬成』

 錬成板の上ににあるペンケースが光ると、皮に星の模様が焼き印として入った。

「星ってこんなにあったっけ?」

「星ってこんなんじゃなかったっけ?」

 ペンケース全体に星の模様が入ったんだけど、ノアは不思議そうにペンケースを見てる。
 あれ、これって失敗なのか?

「一つの星が出ると思ったんだよ~こんなに星が出る日もあるんだね~♪」

「なるほど」

 焼き印だから、星一つが出ると思ったのかぁ! 沢山の星を考えちゃったよ。
 失敗では無い様なので、このままで良さそう。

「これ綺麗だな~♪ 僕も沢山の星が入ってる入れ物が欲しいな~」

「そ、そうかな? ノアの入れ物も可愛いよ?」

 ノアのペンケースは、皮にイピリアみたいな鳥の焼き印が入ってる。動物のペンケースなんて、可愛いよね。しかも、ちょっと格好いい感じな鳥さんだ。

「この前見た本に出てきた、ウサギを考えたんだけど。何でだか違う焼き印が入ったんだよ~」

 え。ウサギ? これが、ウサギだって? 
 ノアのペンケースを見る。そこにある焼き印は、どう見ても鳥なんだけど。

「ウサギ……の様な、鳥の様な? まるで僕の召喚獣みたいな、ねっ?」

「そっかぁ! これはリーンの鳥さんだ~♪」

 あれ? 鳥で良かったのかな?
 ペンケースをキラキラとした目で見詰めるノアに、何も言えなくなってしまった。
 ウサギはどこへ行ったのだろう? ノアの自由さには驚かされる。

「豚じゃなかったの?」

「ちょっと、酷いよイーサンっ」

 ひょこっと見に来たイーサンくんは、それを豚と言った。
 そう言われると、そう見えなくもない?
 結構細かい部分が潰れてるから、見ようと思えば豚にも見える……と言うか、豚に見えてきた。

「おっ。リーンのは綺麗に焼き印が入っているね」

 僕のペンケースの焼き印は、潰れた所も無く綺麗に入っている。
 見比べられて褒められると、反応に困るよイーサンくん。

「そうかな……ノアのも味があっていいと思うけど」

「いいと思うけど、焼き印を入れる時に色々と考えすぎたのが見て分かるよ」

 なかなか手厳しいイーサンくん。多分その通りだと思うけど。ノアはせわしなく色々と動くしなぁ。興味がある物へと、意識がコロコロと変わる。

「本のウサギを考えたんだけど、本の内容も色々思い出しちゃったんだ~そしたらこれになったの!」

 ノアの言葉を聞きながら、紙にサラサラとウサギの絵を書いた。簡単な普通のウサギの絵。丸に長い耳が二つあり、尾に丸をつけただけ。

「まだ時間はあるし。もう一度これを見ながら、焼き印入れをする?」

 書いた紙をノアに見せた。
 本当に簡単なウサギの絵だけど、ノアにはこっちの方がイメージしやすいんじゃないかな?

「わ~♪ ウサギってこんな形なんだね~可愛いなぁ♪」

 も、もしもし、ノアさん? ウサギの絵を見たんだよね?
 ウサギは耳が長くて、尻尾の丸いそんな姿だったよね。

「本当に本のウサギを見たの?」

「見たよ~でもね、リーンが書いたウサギの方が上手だもん~」

「えっ」

 大丈夫なのかな、その本の絵は。
 動物の中でも簡単な絵だと思うんだけどな。一体どんな本のウサギなんだろう? そっちに興味が湧くよ。

「へへへ~♪ よーし。これでもう一回作るね~♪」

「う、うんうん!」

 ノアが喜んでくれたし、ま、いっか~。
 そう思った時に、イーサンくんがまた様子を見に来た。

「ノアの話してるウサギが出てくる本って……もしかして、僕の書いた本の事?」

 イーサンくんが、書いた本? え? え?

「うん! イーサンが昔書いた話の本だよ~♪」

「「えっ」」

 イーサンくんと重なった僕の声。
 イーサンくんが書いた本って、どゆことだろう?
 色々と謎なんだけれども、それよりもイーサンくんの顔が気になった。
 ノアに向けている顔が、呆れた様な、何とも言い表せない表情をしている。

「ノア、あれは豚なんだ……」

「えっ? そうだったっけ?」

「しかも、豚を解体する方法をメモしただけのやつだから、本とは言わないんだよ……」

「あれ~? ウサギの話だと思って読んだのに~」
 
 あぁ、ノアだ。ノアはどんな時もノアだった。
 僕はポンっとイーサンくんの肩に手を乗せた。イーサンくんも苦労しますね……そんな視線と共に。
 
「ノアって凄い能力を持ってるよね」

「たまに、ノアが分からない時があるんだ……」

 うん。僕も今それを見た。
 二回目のペンケースは、ウサギの焼き印が描かれていた。
 僕が書いた様なウサギの焼き印。
 それを嬉しそうに見詰めるノアに、ふっと顔が緩んだ。本人が嬉しそうだから、僕達は何も言えない。


【主様には 私は豚に見えるのですか……】

【主もおかしいのだ 友もおかしいはずだ】

【おかしい方向は違うけどね】

 僕には、鳥に見えたんだよ……僕の目にも、問題はあるようです。

 
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