神に愛された子

鈴木 カタル

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♛ 閑話

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『学園長とスミス』





 スミスが学園長へ呪いの件を話に、学園長室にやって来た。

「相変わらず狭い」

「悪かったですね。狭い所の方が落ち着くんです」

  五畳ほどしかない部屋の中は、とても狭い。何度来てもここは落ち着かないのだが、学園長はそれを好む。吾輩、狭い方が落ち着かないのだが……

「で? 何用ですか。ここに来るなど余程の事ですよね」

「見せた方が早い……」

 着ていたローブの左腕を捲る。

「!! おいっ! それは!」

 スミスの左腕に描かれていた紋様は無い。それを見て目を見開き驚く学園長。

「この度……吾輩の呪いが解呪された」

「どうやって! 何をどうしたんだ!」

 声を上げ、凄い勢いで聞く。
 呪いの解呪を喜ぶよりも先に、その方法を聞いてくる。やはりこの方も、研究者なのだな。

 スミスはリーンオルゴットの齎した、奇跡を語る。
 徐々に顔色が青ざめてゆく学園長に、構うことなく真実を語るスミス。

 話し終えた時には、昨日の吾輩の様な顔色となったが。

「吾輩は確かに感じたのです……彼の神の力を」

 スミスの言葉に口を閉ざしたままの学園長。
 彼の異質さはここまで来たのかと、学園長は思っていた。
 以前、聖獣様の告げた言葉が頭の中に蘇っていた。

「彼は、何だと思う?」

 学園長の問いに、スミスは考えていた事を述べた。

「彼は神の御使いなのです……人の姿を借り……人を……吾輩を救う為にこの地に舞い降りたのでしょう」

 リーンオルゴットは否定したが、全ての辻褄がそれで合うとスミスは思った。髪色も瞳の色も、その神秘なモノ全て。神が齎す、奇跡の力も。
 彼を怖がり、傷つけては行けない。神が消えた事があるこの世界で、神を傷つける行為はしてはならないのだ。吾輩はそう考え、彼の''人として生きる邪魔''はしないと決めたのだ。

 スミスの言葉に、学園長は感銘を受ける。

「今の言葉、私も心に刻もう」

「神の御使いが舞い降りた事を……感謝せねばなりませんな」

「教会に、彼の銅像を立ててはどうだろうか?」

「行けません……彼は''人の生を生きたい''のです……ここは学園の生徒として見守るべきかと」

「そうか! そうなのだな!」

 机の上に両手を付き、喜びに満ちた表情をした学園長。

 学園長は、彼がこの学園に入学した意味を理解した。人として生きる為に、その年齢に合う場所へ来たのだと。知識はもう我々を超えている。しかし、人として足りないものがある、それは友だ。
 友を作りに来たのだと学園長は確信する。
 ならば我々が何かする必要は無い。見守る事が我々のするべき事なのだ。学園には様々な人が居る。彼の友に相応しい人も見つかるだろう。

「この事は……我々教師達の秘密とし……吾輩達は彼を見守りましょう」

「うむ。分かった。私もそれが良いかと思う」

「彼を必要以上に怖がってはなりません……その様な存在では無いのですから」

「そうだな。聖獣様が側に居るのも、漸く納得出来た。スミス、君に感謝する」

 お互いに握手して、分かち合うスミスと学園長。

「遅くなったが、解呪おめでとう!」

「有難う御座います」

「顔色も良いな。これなら、その暗い雰囲気も良くなるだろう。はっはっは」

「これは……元からなのですが」

 機嫌の良い学園長は、その言葉を聞こえない振りをした。
 スミスはそんな学園長に構うこと無く言葉を続ける。

「それでは吾輩は……彼から受けた……使命を果たしに行きます」

 握られた手を離し、キリッとした表情で学園長を見詰める。

「使命?」

「ええ。吾輩に悪を調べよ……そう告げられたのです」

「悪を。そ、それはかなり責任の強い使命なのだな」

「全ては……神の指示なのでしょう……この世界の悪を……おっと、この先は吾輩だけの話です」

「彼は君を救い、神への使徒とさせたのか? 偉大な存在だ。本当に、彼は偉大だ」

「では……吾輩はこれで」

「良くやった! これからも君に期待する」

 狭い部屋の中で熱い想いを募らせる二人。
 スミスは学園長が、彼の事を理解し支援する事に同意した事に、同志だと感じた。
 学園長は彼が使命を受けた事に、この学園が更に有名になると喜んだ。

 スミスはリーンオルゴットを''神の御使い''と誤解したままだった。
 しかし、それが''人の生を全うする''その為に見守る事にしたこと。それが、全てリーンオルゴットには都合が良かったことになるのだが。

 勘違いが更なる勘違いをさせる。
 それが最早、勘違いと思えないのが、リーンオルゴットと言う不確かな存在だった。

 学園長もスミスも、リーンオルゴットを温かい目で見守る事にした。それは神の御使いと崇めたからだ。
 
 そうとは知らず、のほほんと普段通りに学園へやって来るリーンオルゴット。
 リーンオルゴットの周りに居る数人の友を見て、学園長は温かい目でそれを見詰める。

 もう既に、友を作る事に成功した彼を離れた場所から拝んだ。

 学園長は、リーンオルゴットがテールレア学園に来たことに感謝した。これで知名度は確たる物となったと。

 まだまだ色々と彼がやらかす事を、今は知らない学園長。
 
 
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