神に愛された子

鈴木 カタル

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連載

♛ 閑話

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『あの日あの時』



 世界は理不尽で出来ている。きっと、どこの国も同じなんだろう。
 魔法発祥の地で賢王のいた国。この国もどこも一緒だ。世界は理不尽で、悪が広がっている。
 明日に希望なんてない。ただ、生きている。それだけだ。
 そう思って過ごしていた日々に、今の俺は笑ってしまいそうになる。

 俺は今日も薬草採取の依頼をしてる。
 世界は理不尽で悪だと思っていた事を、思い出してはスピアの顔が頭の中を過る。
 何でもない普通の一日を、特別な一日に変えるスピア。

 あの量の薬草や魔物の死体を「自分には必要ない」そう言ってから俺を見て「必要なモノは、必要としてる人が貰ってこそ意味があよ」とよく理解出来なかった言葉を言ってたな。

 ギルドのおっさんは直ぐに理解して俺の背中をバンバン叩いてた。理解出来ずに困惑してたら、スピアは冒険者じゃなくて一日だけの仮の冒険者だと教えられ俺はさらに困惑した。
 仮の冒険者なんて聞いたことがない。俺の頭の中にはずっと「?」しか無かった。

 ギルドのおっさんは袋から取り出した薬草を見て「おお! 流石だ。こんな状態の良いやつは専門家レベルだ」そう言ってから、俺の前に根元から抜かれた薬草を出して「この状態をよぉーく見とけ。な? 薬効が高い採取後つーのはこの状態だ。ジーンもこれを目指せ」と言った。
 俺も根元から抜いてるのに、俺のとは違う状態だった。抜いたはずの薬草が生き生きとしていた。
 スピアを見ると「生きている事を考えて、優しく丁寧に抜けばいいよー」と軽い口調で教えてくれた。
 ギルドに居た他の冒険者達も口々に「この状態の良さは久しぶりに見たな!」とか、「最近すっかり忘れてたぜ~」とか言っていた。
 ただの薬草採取なのに、俺とは違う薬草。一瞬で冒険者たちを虜にしたスピアの技術。

 魔物の死体も首を切り落としてるだけで、他の傷が少ない。
 あれも俺が傷をつけなければ、ほぼ無傷で倒せていたのだろう。
 それと見た事の無い血抜きしてやがるらしい。これもギルドのおっさんがそう言っていた。

 俺は兎の魔物、ランクFのホーンラビットしか倒した事ないから、血抜きしてやがるは経験がない。

「こいつぁ、どうやってんだ? 解体したが中の血が一滴もでねぇの! まだってからそんなに時間経ってねぇんだろ? おい、どんな血抜きしてやがる!」と凄い勢いでスピアに言ってたな、と思い出す。

 冒険者達からは色々と質問されていたスピアを俺はただ見ていた。
 誰もが、スピアは凄い冒険者だと口にしていた。仮の冒険者だとは知らずに。
 この日から、ベテラン冒険者でも新人の頃を思い出すという意味の『初心忘るべからず』と言う言葉がスピアから冒険者達へと告げられた。

 その言葉にベテラン冒険者達も思い当たる所もあり、スピアは神の子供だと密かにされる様になった。
 俺も、そう思う。神の如く高度な魔法を簡単に使うんだ。皆がそう思っても不思議じゃない。


 それから数日後にギルドのおっさんから渡された俺のカードには、記された金の表示がおかしくなっていた。

 「その金はスピアの稼いだ一日分が足されて表示されている」とおっさんから教えられたが、何でスピアの分が俺のカードに入ってるのかが分からない。
 おっさんに聞いたらあの時理解出来なかった言葉を理解した。そしてスピアからだと渡された紙には、こう書いてあった。


『神は全て見ている。いつも君の傍に』


 神。そう書かれた言葉に、口元が緩んだ。
 偉大なる魔法師はその領域が神と並ぶ。そんなことわざをギルドで聞いたことがある。
 スピアは「偉大な魔法師」なんだと思う。その領域は神と等しい程の。

「ふふふ」

 世界は理不尽だけど悪ではないらしい。もうあの日の様に嘆く事は無い。俺は、俺の話す言葉を、懸命に理解しようとしてくれる親友が出来た。
 生きてきて一番、今が楽しいと思う。友と過ごした短い時間は、何日経ってもポカポカとしたまま心に残っている。
 俺は、スピアの力になれるように、一流の冒険者になるんだ。
 そう考えただけで、体に力が漲ってくる。

「また、会える。スピア。俺と、冒険行く」

 頭の中に浮かぶのは、あの日森であった時のスピアと俺が、大きく成長して笑い合いながら二人で魔物を倒す姿だ。
 大人になったら、俺はスピアと冒険の旅に行くんだ。
 大きな夢を俺にくれたスピア。俺の過ごす日々は、毎日が特別になったんだ。

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