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六章・理由
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「おもらしかよ」
「赤ん坊みてえだな」
「これで漏らしたの拭いとけよ」
雑巾が放物線をえがいて、私の頭に落下した。古い牛乳と汚水の混ざった強烈な匂いがして、私は、込み上げる汚物を床に吐き出してしまった。
「うわ、今度はゲロかよ」
「きったねえ」
それは小学校、3年生のある日のこと。私は、トイレに間に合わず粗相をしてしまった。それだけならまだしも、拭けと放られた雑巾の匂いにあてられて、嘔吐するという大惨事。
田舎の小学校だ。すぐさまガキ大将に目をつけられて、私のあだ名は、ゲロリンやら、しっこちゃんやら、人間ではない、何かになった。
最初は呼び名だけだったイジリが、次第に物を隠されるようになり、壊されるようになり、机への落書きや時には暴力を振るわれるようになった。
先生は休みがちになった私を、毎日迎えに来て、「頑張れ、頑張れ」と、声をかけながらぎりぎりと引きずるように学校へ連れていく。
今となれば先生も必死だったことはわかる。
ただ、当時はまるで自分が
「頑張らなければ生きる価値がない」と、言われているようで、とても苦痛だった。
その頃だ。私の手首に傷が出来はじめたのは。記憶も曖昧なほど疲れきっていた。
惰性で行き続けた学校。汚いものを見るかのようなクラスメイト。押し付けがましい教師。まるで、腫れ物に障るかのような親。
それらに触れるたび、私の心は悲鳴をあげて、そのたびにひとつ、ふたつと傷は増えていった。
どうやってその行為をやめたんだっけ。私はそれすらも覚えていない。
「おもらしかよ」
「赤ん坊みてえだな」
「これで漏らしたの拭いとけよ」
雑巾が放物線をえがいて、私の頭に落下した。古い牛乳と汚水の混ざった強烈な匂いがして、私は、込み上げる汚物を床に吐き出してしまった。
「うわ、今度はゲロかよ」
「きったねえ」
それは小学校、3年生のある日のこと。私は、トイレに間に合わず粗相をしてしまった。それだけならまだしも、拭けと放られた雑巾の匂いにあてられて、嘔吐するという大惨事。
田舎の小学校だ。すぐさまガキ大将に目をつけられて、私のあだ名は、ゲロリンやら、しっこちゃんやら、人間ではない、何かになった。
最初は呼び名だけだったイジリが、次第に物を隠されるようになり、壊されるようになり、机への落書きや時には暴力を振るわれるようになった。
先生は休みがちになった私を、毎日迎えに来て、「頑張れ、頑張れ」と、声をかけながらぎりぎりと引きずるように学校へ連れていく。
今となれば先生も必死だったことはわかる。
ただ、当時はまるで自分が
「頑張らなければ生きる価値がない」と、言われているようで、とても苦痛だった。
その頃だ。私の手首に傷が出来はじめたのは。記憶も曖昧なほど疲れきっていた。
惰性で行き続けた学校。汚いものを見るかのようなクラスメイト。押し付けがましい教師。まるで、腫れ物に障るかのような親。
それらに触れるたび、私の心は悲鳴をあげて、そのたびにひとつ、ふたつと傷は増えていった。
どうやってその行為をやめたんだっけ。私はそれすらも覚えていない。
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