六芒星の奇跡

あおい たまき

文字の大きさ
上 下
4 / 10

四章・障られた傷

しおりを挟む
  ***


 明くる日も私は、いつも通りの時間に、いつも通りのダサい格好で、いつも通りの壊れかけたサンダルをはいて、いつも通りのゴミ袋を抱えて、いつもの砂浜に出掛けた。


 男のことはすっかり忘れていた。どうせ、一度のすれ違い。覚えていたところで、どうなるものでもない。


 コンクリートを山に流しただけの、でこぼこしたコンクリ坂をトトントト……と下れば、すぐに砂浜にたどり着く。

 粗末なサンダルを脱いで浜の砂を踏む。さらさらと足にまとわりついて、足を埋めていく。埋まりかけたら、また歩を進めて、その様子を見つめて……。



 今日も砂浜は、ゴミがたくさん。



 どこから流れ着いたのか流木。どこゆくの船から落ちたのか浮き玉。どこぞの川から歩いてきたやら長靴。そして、誰の手を離れたか、空き缶の山……。

「バイバイ」
いつも通りの台詞で、袋にいれていく。この瞬間はいつも、何か切ないけれど、じんわりと沸く期待感の方が強い。

「サンタクロースももしかしたら
こんな気持ちなのかな」
ひとりごとをぽつんと宙に投げた。

 
 その時だ。視界の端に動くものがある。


 視線をそちらに向けると、昨日の男が袋を担いで、砂浜を見回しながら歩いていた。


 どこかで聞いた警告音。テリトリーへの侵入者発見。


 私が眉をひそめて観察していると、時期に男はこちらに気がついた。

「おはよう、お嬢さん」
そして、私にゆっくりと歩み寄る。
「ここゴミすごいんだね。いつもこんな感じ?」
私が何も答えずに、男が抱える袋を見ていると、彼は、言った。


「ああ、昨日お嬢さんを見て、すごいなあ。えらいなあと思って。触発されたんだ。俺も今日からゴミ拾い手伝うよ」


 手伝うという言い方が癪だった。
「別に……手伝いが、必要なわけでも手伝ってほしいわけでも……ありません、から」
 すると男は困ったように頭を二度掻いて笑う。


「ごめん、嫌な言い方だったね……ええと。俺もゴミ拾いすることにしたので、これからよろしく」


 なんだろう、この屈託のなさは。悩み事なんか、全く無さそうな笑顔が癪に障り、私は無言で彼を背にして、ゴミを集め始めた。

 男の視線を背中で感じる。流木のかけらをつかんだ手が緊張で震えた。私はもう一方の手で、震える手を包んだ。その時、裏返された手首に男は反応した。


「……その、傷……星……」


 見られた。カッと体の中が熱くなる。触れられたくない傷に塩でも、塗り込まれたかのように、心に痛みが走った。反射的に男を睨み上げる。


 すると男は、何故だろう。にっこりと笑って私から視線をずらし、ゴミを拾いはじめた。



  私のテリトリーはこの日から、わずかずつ……形を変えていくことになった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜

月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。 だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。 「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。 私は心を捨てたのに。 あなたはいきなり許しを乞うてきた。 そして優しくしてくるようになった。 ーー私が想いを捨てた後で。 どうして今更なのですかーー。 *この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

どうやら貴方の隣は私の場所でなくなってしまったようなので、夜逃げします

皇 翼
恋愛
侯爵令嬢という何でも買ってもらえてどんな教育でも施してもらえる恵まれた立場、王太子という立場に恥じない、童話の王子様のように顔の整った婚約者。そして自分自身は最高の教育を施され、侯爵令嬢としてどこに出されても恥ずかしくない教養を身につけていて、顔が綺麗な両親に似たのだろう容姿は綺麗な方だと思う。 完璧……そう、完璧だと思っていた。自身の婚約者が、中庭で公爵令嬢とキスをしているのを見てしまうまでは――。

好きな人がいるならちゃんと言ってよ

しがと
恋愛
高校1年生から好きだった彼に毎日のようにアピールして、2年の夏にようやく交際を始めることができた。それなのに、彼は私ではない女性が好きみたいで……。 彼目線と彼女目線の両方で話が進みます。*全4話

優しく微笑んでくれる婚約者を手放した後悔

しゃーりん
恋愛
エルネストは12歳の時、2歳年下のオリビアと婚約した。 彼女は大人しく、エルネストの話をニコニコと聞いて相槌をうってくれる優しい子だった。 そんな彼女との穏やかな時間が好きだった。 なのに、学園に入ってからの俺は周りに影響されてしまったり、令嬢と親しくなってしまった。 その令嬢と結婚するためにオリビアとの婚約を解消してしまったことを後悔する男のお話です。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

今日は私の結婚式

豆狸
恋愛
ベッドの上には、幼いころからの婚約者だったレーナと同じ色の髪をした女性の腐り爛れた死体があった。 彼女が着ているドレスも、二日前僕とレーナの父が結婚を拒むレーナを屋根裏部屋へ放り込んだときに着ていたものと同じである。

処理中です...