上 下
23 / 37
二章 伊達政宗

第一一話 勇気と葛藤

しおりを挟む
「理子……」
 口をついて出たのだろう。しかしすぐに片倉との約束を思い出し、政宗は気まずそうに理子から視線を反らす。


「ととととと、隣、いいかな」
 理子はひとにぎりの勇気を声にする。


 政宗はしばらく悩んだが、やがて己の左側にあった荷物を無言で避け、理子の座るスペースをあけた。


 理子は心底ほっとして、政宗の隣へと腰を下ろす。


「こんなとこで油売ってねえで行けよ。もうすぐ朝礼はじまるよ……遅刻するぞ」
「伊達くんこそ、いいの?」
「俺は、うん。いい。でも理子は……」
「ううん、じゃあ、私もいい」


 理子は青空に両手をかかげ、空を仰ぎながらそう笑った。その横顔を見つめると、政宗は一気にのぼせ上がる。

 胸が高鳴った。会わなければ忘れられると思っていたのに。想いは膨らむ一方だ。胸の奥が苦しい。

 自覚する……理子が自分にとってどれだけ大きな存在になりつつあるかを。



「理子……」
「ん?」
 ふいに理子の名を呟いてしまった政宗は、しばし焦って話題を探し、今、思い付いたかのように言った。


「あ、この間……小十郎が余計なこと言ったみたいで、ごめんな」
「ううん……いっぱい考えさせてもらったから、片倉先輩には感謝してる。でも」
「ん?」
 理子を覗き込んだ政宗と、ふいに視線がぶつかる。


 理子は膝の上で拳を握る。勇気を出せ、勇気を出せと何度も自分に言い聞かせて叫ぶように言った。



「わわわわわ私っほほほほほほんとに申し訳な、ないんだけどっ」
 喉がかわく。ひとつ音を出すたび、内臓が飛び出しそうなほど理子の心臓は内側からどんどんと叩かれた。


「片倉先輩の気持ちより……伊達くんの気持ちが知りたいっ。」

 伝えたい想い。聴きたい気持ち。大切な、こと。

「考えて考えて考えて、片倉先輩の言うように諦めようって思っても見たし、片倉先輩は私を見て半端に好きって言ってるって思ってるかもしれないけど、違うの……。半端な気持ちじゃない。ずっとずっとずっと、好きだったから」

 強い決意。

「……伊達くんの気持ちを知るまで、私、諦めないことにしたっ」

 理子は政宗を見つめていた。極度の緊張で手のひらが震え、涙が浮かんだ。能面のように不自然な笑顔が張り付く。それでも笑いたかった。涙より笑顔。ひとつでも多く、政宗の中に残したい。そう思う。


 政宗は衝動に苛まれた。

 抱き締めたい。抱き締めて一緒に泣いてしまいたい。だけど……。


 衝動的に理子を抱き締めようとした手を政宗の理性が押さえつける。この笑顔を、いつか己が潰す日が来るかもしれない。それだけは嫌だ。複雑な心中を抱え、政宗はたまらずに立ち上がった。


 もう理子の顔は見られない。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愛されていないのですね、ではさようなら。

杉本凪咲
恋愛
夫から告げられた冷徹な言葉。 「お前へ愛は存在しない。さっさと消えろ」 私はその言葉を受け入れると夫の元を去り……

2番目の1番【完】

綾崎オトイ
恋愛
結婚して3年目。 騎士である彼は王女様の護衛騎士で、王女様のことを何よりも誰よりも大事にしていて支えていてお護りしている。 それこそが彼の誇りで彼の幸せで、だから、私は彼の1番にはなれない。 王女様には私は勝てない。 結婚3年目の夫に祝われない誕生日に起こった事件で限界がきてしまった彼女と、彼女の存在と献身が当たり前になってしまっていたバカ真面目で忠誠心の厚い騎士の不器用な想いの話。 ※ざまぁ要素は皆無です。旦那様最低、と思われる方いるかもですがそのまま結ばれますので苦手な方はお戻りいただけると嬉しいです 自己満全開の作品で個人の趣味を詰め込んで殴り書きしているため、地雷多めです。苦手な方はそっとお戻りください。 批判・中傷等、作者の執筆意欲削られそうなものは遠慮なく削除させていただきます…

Hand in Hand - 二人で進むフィギュアスケート青春小説

宮 都
青春
幼なじみへの気持ちの変化を自覚できずにいた中2の夏。ライバルとの出会いが、少年を未知のスポーツへと向わせた。 美少女と手に手をとって進むその競技の名は、アイスダンス!! 【2022/6/11完結】  その日僕たちの教室は、朝から転校生が来るという噂に落ち着きをなくしていた。帰国子女らしいという情報も入り、誰もがますます転校生への期待を募らせていた。  そんな中でただ一人、果歩(かほ)だけは違っていた。 「制覇、今日は五時からだから。来てね」  隣の席に座る彼女は大きな瞳を輝かせて、にっこりこちらを覗きこんだ。  担任が一人の生徒とともに教室に入ってきた。みんなの目が一斉にそちらに向かった。それでも果歩だけはずっと僕の方を見ていた。 ◇ こんな二人の居場所に現れたアメリカ帰りの転校生。少年はアイスダンスをするという彼に強い焦りを感じ、彼と同じ道に飛び込んでいく…… ――小説家になろう、カクヨム(別タイトル)にも掲載――

ナナイの青春生存戦略

しぼりたて柑橘類
青春
 至って普通の男子高校生、和唐ナナイは平和な日常を求めている。天才にして破天荒な幼馴染、西上コズハの好奇心に振り回される毎日だからだ。     ようやく始まった高校生活こそは守り通そうとしたその矢先、またもコズハに押し切られてエイリアンを捕獲しに行くことに。    半信半疑で乗り込んだ雑木林、そこにはUFOが落ちていた。

小学生の時にかけた恋のおまじないが、さっき発動しました。

サイトウ純蒼
青春
「恋のおまじないだよ」 小学校の教室。 片思いだった優花にそう言われたタケルは、内心どきどきしながら彼女を見つめる。ふたりの間で紡がれる恋まじないの言葉。でもやがてそれは記憶の彼方へと消えて行く。 大学生になったタケル。 通っていた大学のミスコンでその初恋の優花に再会する。 そして発動する小学校時代の『恋まじない』。タケルは記憶の彼方に置き忘れてきた淡い恋を思い出す。 初恋と恋まじない。 本物の恋と偽りの想い。 ――初恋が叶わないなんて誰が決めた!! 新たな想いを胸にタケルが今、立ち上がった。

女執事、頑張る

桃青
青春
大学を卒業して、就職が決まらないひろみは、なぜか執事の仕事をやることに。仕えるご主人の正道に、ぶんぶん振り回されながら、仕事を頑張る、ちょっぴり恋愛テイストのお話です。  夜にアップロードします。

【アルファポリスで稼ぐ】新社会人が1年間で会社を辞めるために収益UPを目指してみた。

紫蘭
エッセイ・ノンフィクション
アルファポリスでの収益報告、どうやったら収益を上げられるのかの試行錯誤を日々アップします。 アルファポリスのインセンティブの仕組み。 ど素人がどの程度のポイントを貰えるのか。 どの新人賞に応募すればいいのか、各新人賞の詳細と傾向。 実際に新人賞に応募していくまでの過程。 春から新社会人。それなりに希望を持って入社式に向かったはずなのに、そうそうに向いてないことを自覚しました。学生時代から書くことが好きだったこともあり、いつでも仕事を辞められるように、まずはインセンティブのあるアルファポリスで小説とエッセイの投稿を始めて見ました。(そんなに甘いわけが無い)

握手会にハマったバツいちオジ

加藤 佑一
青春
握手会とはビジュアル国内トップクラスの女性が、自分の為だけに笑顔を向けてくれる最高の時間である。 ルックスも性格も経歴も何もかも凡人のバツイチのおじさんが、女性アイドルの握手会にハマってしまう。 推しが人気者になるのは嬉しいけど、どんどん遠くなっていく推しに寂しさを覚えてしまう。 寂しさをを覚えながらも握手会を通して推しの成長を見守るお話です。 現在国民的アイドルグループになったグループを結成初期からヲタ活を続けた方をモチーフにしてます。 真実が7割、記憶があやふやなので創作したが3割ほどと思って楽しんで頂けたら幸いです。

処理中です...