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一章 伊達成実
第九話 紡がれる想い
しおりを挟む残された成実と麻美は、見つめ合う。腕に感じる成実の熱。麻美の心臓は内側から激しく叩かれた。
「あの、伊達……くん」
しばしの沈黙。何か様子がおかしい。麻美はうつむいた成実を心配そうに見つめた。
「……なんでだよ」
「え」
「なんで忘れろなんて」
「え、あの、伊達くん……?」
麻美の声にはっとした成実は、言葉を吐こうと口を開いたがその寸で、躊躇してそれを閉ざした。やがて麻美をとらえていた手をも、成実はゆっくりと離してしまう。
すると、今度は麻美が逃げていく成実の手首の裾を摘まんだ。
「伊達くん……私、なんでも聞く」
「は」
「だから伊達くんは、我慢しないで」
いつも見てきた。
楽しそうな成実も、嬉しそうな成実も。だが、ふとした時の成実が、麻美の目にはとても寂しそうに見えたのだ。
その寂しさは、成実が空を見つめて笑うとき、青に溶けて消えていく気がして。
ずっと、ずっと、空が羨ましかった。
いつしか
「付き合ってくれなくていいよ」
麻美はそう
「私のこと嫌いでもいい」
思っていた気がする。
麻美は、真っ直ぐに成実を見つめた。
その熱いまなざしは成実の心に火傷を残す。胸が、痛いくらいに叩かれた。
「だけどなんでも話してほしい。私は伊達君の……空になりたいから」
麻美は成実を癒せるような、疲れを吸いとれるような、笑顔に出来るような、そんな存在になりたかったのだ。
成実は、しだいに高揚していく頬を隠すように俯いて、大きく息を吐く。そして、静かに笑い出した。
くくくっと肩を揺らしながら「お、お前さ」と前置いて、成実は麻美を見つめる。成実の優しいまなざしに麻美は射抜かれた。ときときと、止むことのない鼓動が耳にうるさい。
「恥ずかしくねえの、そういうこと言うの」
成実は言葉尻をあげて、穏やかに微笑む。
「恥ずかしいよ、でもきっと一番伝えたかったことだから、いいの」
麻美が照れくさそうに笑うと、成実はそうかとひとつ呟いて、躊躇いながら麻美の頬に触れた。
麻美の心臓が縮み上がる。
口角に痙攣すら覚えた。
「あ、あああああの、だ、伊達くん!?」
まるで理子のようにどもって、豆鉄砲をくらった鳩のような目で成実を見つめた。
「ごめんな」
優しい響きが、麻美の心に届く。
「なんの、こと……?」
麻美が聞けば、成実は頭をかきながらばつでも悪そうに呟くのだ。
「嫌いだ、なんて言ったから」
「ううん……私が泣いたりしたから。考えてみれば男子はうざいと思う」
「いや、関係ねえよ」と、成実は首を振る。
「俺、どうしたらいいかわからなくて、つい心にもないこと言っちまったみたいだ」
「え」
カタンと、麻美の心が音を立てた。
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