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一章 伊達成実
第三話 お前なんか
しおりを挟むこれまで、政宗や片倉とべったりだった。
政宗は、片倉フェチで、感情の起伏が激しく手のかかるいとこだったし、片倉はといえば、喧嘩の腕のたつ頼りがいのある男だが、口うるさい。伊達二人に近づく者あれば、女こどもでも警戒の対象だ。まるでボディーガードのようだった。
そんな二人と常に一緒にいると、世界は自ずと狭くなる。それは決して悪いことではないし、固い友情の中に身を置くのはとても心地がいい。
だが、成実は時折思うのだ。
もっと、広い世界が見たい。
「伊達……君?」
麻美のくるんとした目が、成実を見つめる。成実は無意識に言葉をこぼす。
「お前は、俺に……」
息を吐くように、当たり前に。
「新しい世界を、見せてくれるか?」
ざっと吹く暖かな風。
緑の葉がさらわれていく。
鳥は鳴き、声楽部の歌声が美しく響いた。
体育館では朝練のバスケ部がボールをついているのだろう。テン、テンと音がする。向こうのフェンスから登校中の生徒たちの声がした。時の流れは、ゆっくりと麻美に向かい舞い降りる。スローモーションの光景全てが、宝物のように感じられた。
行き場をなくした頬の熱は、涙となって麻美の目にたまる。寝転んだ麻美のそれは、重力に逆らうことなく、アスファルトめがけて滑り落ちた。
「え……あ、なんで、泣くんだよ」
まるで、自分が泣かせてしまったようで。
成実は、激しく動揺した。戸惑い、そして苛立つ。
「わかんない」
まるで、自分が泣かせられているようで。
麻美は戸惑い、笑った。涙が出るほど成実にときめかされたことがただ、嬉しい。
麻美の笑顔に、ことさら苛立ちを覚えた成実は、表情を曇らせる。それは自分が馬鹿にされたと思ったからか。それとも麻美の笑顔にときめきを感じたからか。
どちらともわからない。
自分の気持ちが見えない。
沸き上がる苛立ちをもてあました成実は、突然に立ち上がる。驚いた麻美も成実に倣うようにして起き上がった。成実は拳を握って、麻美に言い跳ねる。
「わけのわからねえ女は嫌いだ」
と
「すぐに泣く女も嫌いだ」
と、叫ぶように。
その言葉は当然のことながら杭のように、麻美の心に突き刺さった。
「伊達、くん……あの」
続く言葉が見つからない。未だ睫毛を濡らすその涙は、決して悪い意味ではないはずだから……。謝るのも何か違う気がして、麻美は口をつぐんだ。
口を結んで悲しげな目で見つめる麻美に、成実はとめどない罪悪感を覚える。その場に居続けることが憚られて、成実は駆け出した。
麻美のそばを離れるその際……。
「お前なんか嫌いだ」
そう告げてしまったのは、きっと。
成実の心の中で、何かが音を立てたから。
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