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一章 伊達成実
第一話 恋の逃避行
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「で、あれ何?」
眼鏡をかけ直しながら、生徒会の風紀役員をしている近藤七海は言った。
その視線の先には、麻美が机に突っ伏し項垂れていて、理子はわたわたと麻美の世話をやく。同じく生徒会メンバーの石田は、七海にそっと耳打ちをした。
「……振られた、らしいですよ」
「へえ、その話……詳しく聞かせなさいよ」
七海は、にやりと笑い、石田に耳を近付けた。
***
「大好きですっ、付き合ってくださいっ」
二人が声を揃えると、予想だにしない返答が返る。
「別にいいよ、な、梵」
「俺もそろそろ彼女欲しかったところだし…ってか成、梵って呼ぶなって前から言ってるだろう」
「どうして。いいじゃないか語呂がよくて」
「俺は嫌なんだよ梵天丸なんて。母さんの見た夢からとられた幼名だぞ。成はいいよな、尊敬する坊さんの名前もらってさ……時宗丸なんて、かっこよくて」
口を尖らせて悪態をつく政宗を、成実はからかうように笑う。二人の姿を真っ赤な顔で見つめていた理子と麻美は、声を大にして尋ねる。
「伊達くん……今、なんて言った、の?」
またも声は、はもる。
「双子、おもしれえな」伊達家の二人は笑いながら「付き合ってやっても」……いいと言ったんだ。そう言いかけたときだった。
伊達の後ろにぬっと大きな影が聳えた。それは伊達家の家政婦の弟、三年の片倉景綱だった。またの名を小十郎という。
「いけません、おふたりとも」
野太い声が伊達二人をたしなめる。成実にからかわれて損ねた政宗の機嫌は、片倉の登場でコロッと好転したようだ。
「小十郎お前、今日どうしたんだよ。待ち合わせ場所にこないからどうしたのかと思ったよ。お前学校出てこないと、俺、力半減以下なんすけど。わかる?腹減るし、体育なんかやる気しないんだよ」
政宗ははじけんばかりの笑顔で、長身の片倉を見上げた。一転して成実は、頭をかきながら面倒なのが来たと言わんばかりの顔をうつむかせた。
「なんで片倉さんに俺らの恋愛の邪魔されなきゃならんのですか」
片倉は成実をじとっと睨み、ぴしゃりと言った。
「それでは成に聞こう。今はしたなくも貴方に好きだと告げたこの女の名をご存知か」
「えっと」
成実はしばし思案するも思い当たらない。仕方なく、麻美へと問いかける。
「お前、名は」
「大鳥麻美。二年E組」
麻美の心臓が音をたてる。それは果たして、想い人である成実と言葉を交わした高鳴りか、それとも成実の後ろで睨みを利かせる片倉の威圧によるものか。
「麻美、だってさ」
成実が笑顔で振り返ると、まるで今にも取ってくいそうな眼光で片倉は言う。
「いいですか、お二人とも。男女交際というものは、互いを知り、互いを好き合い、互いを慈しみ合ってはじめて成立する付き合いなのです」
「よく言うよ、童貞のシスコンが…喜多姉に言いつけるぞ」
「なっ」
成実に姉の名を出され、一度面食らった片倉だったが、次の瞬間には鬼の形相に変わっていた。
「やべっ」
青ざめた成実はそう言い捨てると、唐突に麻美の手をとって走り始めた。
「え、何!?」
「あいつ、怒ると怖えから!とりあえず来い」
「う、うんっ」
麻美は高鳴る鼓動に鞭打って、成実と共に走る。河川敷のその道が、麻美にはとても輝いて見えた。
「ま、まままま待って、待ってよう麻美ちゃあああん。ここに置いていかないでええええ」
後に残された理子は大きく叫んだが、幸せの道を走り始めた麻美には、届かなかった。
眼鏡をかけ直しながら、生徒会の風紀役員をしている近藤七海は言った。
その視線の先には、麻美が机に突っ伏し項垂れていて、理子はわたわたと麻美の世話をやく。同じく生徒会メンバーの石田は、七海にそっと耳打ちをした。
「……振られた、らしいですよ」
「へえ、その話……詳しく聞かせなさいよ」
七海は、にやりと笑い、石田に耳を近付けた。
***
「大好きですっ、付き合ってくださいっ」
二人が声を揃えると、予想だにしない返答が返る。
「別にいいよ、な、梵」
「俺もそろそろ彼女欲しかったところだし…ってか成、梵って呼ぶなって前から言ってるだろう」
「どうして。いいじゃないか語呂がよくて」
「俺は嫌なんだよ梵天丸なんて。母さんの見た夢からとられた幼名だぞ。成はいいよな、尊敬する坊さんの名前もらってさ……時宗丸なんて、かっこよくて」
口を尖らせて悪態をつく政宗を、成実はからかうように笑う。二人の姿を真っ赤な顔で見つめていた理子と麻美は、声を大にして尋ねる。
「伊達くん……今、なんて言った、の?」
またも声は、はもる。
「双子、おもしれえな」伊達家の二人は笑いながら「付き合ってやっても」……いいと言ったんだ。そう言いかけたときだった。
伊達の後ろにぬっと大きな影が聳えた。それは伊達家の家政婦の弟、三年の片倉景綱だった。またの名を小十郎という。
「いけません、おふたりとも」
野太い声が伊達二人をたしなめる。成実にからかわれて損ねた政宗の機嫌は、片倉の登場でコロッと好転したようだ。
「小十郎お前、今日どうしたんだよ。待ち合わせ場所にこないからどうしたのかと思ったよ。お前学校出てこないと、俺、力半減以下なんすけど。わかる?腹減るし、体育なんかやる気しないんだよ」
政宗ははじけんばかりの笑顔で、長身の片倉を見上げた。一転して成実は、頭をかきながら面倒なのが来たと言わんばかりの顔をうつむかせた。
「なんで片倉さんに俺らの恋愛の邪魔されなきゃならんのですか」
片倉は成実をじとっと睨み、ぴしゃりと言った。
「それでは成に聞こう。今はしたなくも貴方に好きだと告げたこの女の名をご存知か」
「えっと」
成実はしばし思案するも思い当たらない。仕方なく、麻美へと問いかける。
「お前、名は」
「大鳥麻美。二年E組」
麻美の心臓が音をたてる。それは果たして、想い人である成実と言葉を交わした高鳴りか、それとも成実の後ろで睨みを利かせる片倉の威圧によるものか。
「麻美、だってさ」
成実が笑顔で振り返ると、まるで今にも取ってくいそうな眼光で片倉は言う。
「いいですか、お二人とも。男女交際というものは、互いを知り、互いを好き合い、互いを慈しみ合ってはじめて成立する付き合いなのです」
「よく言うよ、童貞のシスコンが…喜多姉に言いつけるぞ」
「なっ」
成実に姉の名を出され、一度面食らった片倉だったが、次の瞬間には鬼の形相に変わっていた。
「やべっ」
青ざめた成実はそう言い捨てると、唐突に麻美の手をとって走り始めた。
「え、何!?」
「あいつ、怒ると怖えから!とりあえず来い」
「う、うんっ」
麻美は高鳴る鼓動に鞭打って、成実と共に走る。河川敷のその道が、麻美にはとても輝いて見えた。
「ま、まままま待って、待ってよう麻美ちゃあああん。ここに置いていかないでええええ」
後に残された理子は大きく叫んだが、幸せの道を走り始めた麻美には、届かなかった。
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