37 / 37
三章 片倉小十郎景綱
第七話 恋の矛先
しおりを挟む下校はひとりだった。こんなに独りが気楽だと思ったことはない。政宗も成実も、道場に小十郎が不在だった為に、早々と帰宅したらしい。
剣道部員に聞くと、女も一緒だったとか。言わずともわかる。理子と麻美だろう。四人プラス一人というのは、相当肩身が狭い。片割れの彼女に恋をしているというのに、一緒に登下校を共にするなんて……なんの罰ゲームだ。女々しいが辛い。
何かいい手はないものか。
小十郎は途方に暮れて息をつく。
「片倉」
己を呼ぶ声で振り返ればそこにいたのは、才蔵と佐助の忍部コンビだった。
「でっかいため息だな、どーしたの」
からからと笑いながら佐助は尋ねる。佐助は学園内で有名な情報屋だった。才蔵は小十郎が口ごもってしまったのを良いことに、しれっと佐助に耳打った。
「色恋沙汰」
「へええええー片倉がねえ、色沙汰たあね」
「相手……後輩」
「そら意外だ、お姉様大好きな小十郎ちゃんが後輩にねえ」
「片想いで不発玉砕」
「納得。硬派気取りは、今時モテないよ片倉ぁ」
「そして童貞」
「それは察し。そろそろ捨てとけ、な」
怖いもの知らずな佐助は、にやにやと笑いながら、怒りに震える小十郎の肩を叩いた。
ボソボソ呟く才蔵の言葉を逐一拾って、人間拡声器の佐助が面白おかしく叫ぶ。
この二人がタッグを組んだら、どんなにおしゃべりな九官鳥も黙り込むだろう。
小十郎の怒りはもはや爆発寸前だ。才蔵は片倉の心情を読んでそろそろと黙り込んだが、根っからのおしゃべり、佐助はとまらなかった。もうひとつ、口にする。
「あ、馬田目にやらせてもらえば」
「おい」
さすがに才蔵が制止したが、佐助は言葉を続けた。
「だってあいつ、片倉のこと好きじゃんか」
「……なっ、適当なこと言うなよ」
小十郎が驚いて目を皿のようにしていると、佐助はあんぐりと口を大きく開けて、呆れ顔だ。
「は、知らなかった?あんなにわかりやすいのに」
「一般人にわかってたまるか……忍部でもあるまいし」
焦って言霊を吐けば、小十郎は佐助に更に切り込まれた。
「いや、いやいやいやいや、わかんないの相当鈍感よ、な、才蔵」
「……俺に振るな」
才蔵が黙り込むと、佐助はあれこれと語り始めた。
「馬田目が剣道部に入った理由知ってる?」
「家が道場やってるからだろ」
今朝、楓花に聞いたばかりのことだ。どや顔で言ってやる。
「いや、家がやってる道場って剣道じゃなく空手ね。馬田目って一年の一学期まで空手部だったの覚えてないわけ?」
「い、いちいち覚えてるもんか」
「無頓着なんだよなあ~片倉は」
「……悪かったな」
小十郎はからかわれることに限界を感じて、土手上を足早に歩み始めた。空気を読めないのか、空気を読んで敢えてなのか、佐助は喋り続けながら小十郎の後を追う。
「空手部の馬田目が二学期入ったら剣道部に転部した理由があんた、片倉だよ」
「どうして俺が」
「夏休みのトーナメント戦で、片倉一位獲っただろ、二、三年押し退けて」
小十郎は、はたと思考を巡らせた。
三年前の夏休み……。あの頃はまだ先輩方を立てるだの、年功序列だの、そういう頭はなかった。喜多仕込みの独学の剣道。それまでは相手が喜多しかいなかった。
だから単純に嬉しかったのだ。誰かと打ち合えることが。目の前に立つ者を、ただ、敵として、討ち続けていくうち、気がつけば夏期休暇トーナメントの覇者となっていた。
「ああ、そういえばそんなこともあったか」
「それ見て惚れちゃったらしいよ馬田目」
「どうして」
「さあ?したたる汗がかっこいいーとか、そんなとこじゃない」
だとすれば、実に下らない理由で好かれたものだ。小十郎はそう思ってから、はたと、自分が理子を思い始めた理由も同じくらい下らないのかもしれないと考えて、笑いかけた口を結んだ。
0
お気に入りに追加
1
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
真夏の温泉物語
矢木羽研
青春
山奥の温泉にのんびり浸かっていた俺の前に現れた謎の少女は何者……?ちょっとエッチ(R15)で切ない、真夏の白昼夢。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
[1分読書]彼女を寝取られたので仕返しします・・・
無責任
青春
僕は武田信長。高校2年生だ。
僕には、中学1年生の時から付き合っている彼女が・・・。
隣の小学校だった上杉愛美だ。
部活中、軽い熱中症で倒れてしまった。
その時、助けてくれたのが愛美だった。
その後、夏休みに愛美から告白されて、彼氏彼女の関係に・・・。
それから、5年。
僕と愛美は、愛し合っていると思っていた。
今日、この状況を見るまでは・・・。
その愛美が、他の男と、大人の街に・・・。
そして、一時休憩の派手なホテルに入って行った。
僕はどうすれば・・・。
この作品の一部に、法令違反の部分がありますが、法令違反を推奨するものではありません。
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
私たち、博麗学園おしがまクラブ(非公認)です! 〜特大膀胱JKたちのおしがま記録〜
赤髪命
青春
街のはずれ、最寄り駅からも少し離れたところにある私立高校、博麗学園。そのある新入生のクラスのお嬢様・高橋玲菜、清楚で真面目・内海栞、人懐っこいギャル・宮内愛海の3人には、膀胱が同年代の女子に比べて非常に大きいという特徴があった。
これは、そんな学校で普段はトイレにほとんど行かない彼女たちの爆尿おしがまの記録。
友情あり、恋愛あり、おしがまあり、そしておもらしもあり!? そんなおしがまクラブのドタバタ青春小説!
彼氏と親友が思っていた以上に深い仲になっていたようなので縁を切ったら、彼らは別の縁を見つけたようです
珠宮さくら
青春
親の転勤で、引っ越しばかりをしていた佐久間凛。でも、高校の間は転校することはないと約束してくれていたこともあり、凛は友達を作って親友も作り、更には彼氏を作って青春を謳歌していた。
それが、再び転勤することになったと父に言われて現状を見つめるいいきっかけになるとは、凛自身も思ってもいなかった。
[1分読書] 高校生 家を買う そして同棲する・・・
無責任
青春
≪カクヨム 部門別 日間7位 週間11位 月間12位 年間90位 累計144位≫
<毎日更新 1分読書> 親が死ぬ。運命の歯車が変わりはじめる
ショートバージョンを中心に書いてあります。
カクヨムは、公開停止になったのでこちらを一気に公開します。
公開停止になるほどではないと思うのですが・・・。
今まで公開していた所が5章の最後まで・・・。 7/29中に全て公開します。
その後は通常連載通りに・・・。
両親が死んだ。
親戚もほとんどいない。
別にかっこいいわけでもない。
目立たない、ボッチの少年。
ただ、まじめなだけ・・・。
そんな少年が家を買う。
そして幼馴染との距離が近づいていく。
幼馴染の妊娠による裏切り、別れ。ひとりぼっちに。
新たな出会いが・・・。
最後はハッピーエンドを予定しています。
紹介文などはネタバレしないように少しづつ更新します。
1章:家を買うまでを描写します。
主人公は、最初、茫然としているので淡々と・・・。
2章:幼馴染に告白して・・・寝取られ・・・別れ。
3章:新たな出会い
転校生の星山星華との出会い
そして彼氏、彼女の関係に・・・。
4章:新しい高校生活(前編)
4.5章:とりあえずのエピローグ
当初のエンディングをそのまま掲載したいと思います。
4.6章 田中めぐみ
あたしがセックスしたときの裏話から・・・。
3話でひとつの作品だと思っています。
読者の皆様からは、あまり良いイメージを持たれていない章になります。
4章:新しい高校生活(後編)
5章:大学生活(楽しいの大学生活)
5章:大学生活(妊娠、そして・・・)
5章:大学生活(子供がいる大学生活)
5.5章 田中家の両親
6章:めぐみのいる新生活(めぐみとの再会)
6章 めぐみのいる新生活(めぐみの仕事)
もっと書きたいと思ったのでできる限り書きます。
こういう展開が良いなどあれば、教えて頂けると助かります。
頑張りますのでよろしくお願いします。
まだまだ、投稿初心者なので投稿予定の話を少しずつ手直しを頑張っています。
カクヨムで公開停止になる前の情報
ブックマーク:1,064
PV数 :244,365PV
☆星 :532
レビュー :212
♡ハート :5,394
コメント数 :134
皆さま、ありがとうございました。
再度アップしましたが、カクヨムを撤退しました。
ブックマーク:332
PV数 :109,109PV
☆星 :183
レビュー :68
♡ハート :2,879
コメント数 :25
カクヨムではありがとうございました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる