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第15話 殺し屋VS殺し屋ハンター

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漸く、通路の奥に扉が見えた。

近づいて行き、音を確認するように扉に耳をあてる。
だが、何も聞こえない。

気配を感じながら、少し扉を開ける。
開けた瞬間、生々しい匂いが漂って来る。

生き物の匂いや汗の匂い。
そして薬品の匂い。

俺は確信する。
この工場は黒だと。

部屋へ入ると、工場に入った時に3人の男が運んでいた同じ木箱が置いてある。
それよりかは小さいが、人1人入る分には問題なさそうだ。

恐らく、俺が聞いた音はこの部屋からだと思う。
俺がこの場所に来る前までは、何かがここにあった。
そしてそれを何処かに移動した。

この工場に俺が来た事は当然バレているだろう。
念の為移動したか、既に何処かに送った可能性もある。

間に合わなかったか?

周囲を見渡しながら進んで行く。

「ハラショー、ハラショー」

そう言って、手を叩きながら男は現れる。
黒のギザギザ頭に、髑髏の連なるネックレスが悪趣味だ。
そのネックレスを触りながら、男は立ち止まった。

俺はこの男を知っている。

「ルアード」

言葉に怒りを込める。

俺をモンスターの姿に変えた張本人だ。

「久しぶりだなあ、殺し屋。元の姿に戻って良かったじゃないか! それで、心置きなく殺し屋稼業も続けられるだろう?」

「黙れ。ローサは何処だ? それに、他の人間もいるはずだ」

「ローサ? ああ、あの女のことか。ーー安心しろ。まだ、モンスターにはなっていない」

やはり、ローサはこの工場にいるようだ。
しかも、まだモンスターになっていないときた。
と言うことは、そのつもりがあるってことか。

「おおっと! 野暮なことをするな。まだ、俺たちの手の中にお前の連れはいるんだ。ほら、あそこに監視カメラがあるだろう?」

ルアードが指指す方向を振り向くと、球体を半分に割ったようなカメラが天井に固定されている。

「どうやってこの場所を知ったのか。洗いざらい吐いてもらおう。そして、お前も連れの女もただじゃあおかない。俺たちの組織はあくまで秘密なんだ」

「こんな堂々と町中にあって、よくそんなことが言えるな」

「表向きは、ただの加工工場だ。そりゃ、堂々だってする」

ルアードは内ポケットを探り出した。

俺は身構え、直ぐに対応出来るようにする。

ルアードはその俺の動きに気づき、もう片方の手の平を向ける。

「まだ、何もするなよ? 殺し屋。これから、楽しい楽しいショーの始まりだ」

ルアードは一本の注射針を手に持っている。

それをーー

「お前にはこれから俺と一戦してもらう。拒否権はないからな。殺し屋なんて職業の需要は、これからますます後退の一途を辿ることになる。それを、証明する為の一戦だ」

ルアードは自身に打った注射針を投げ捨て、上半身の服を破り捨てた。
血管がはっきりと浮き出て来て、ルアードの呼吸が重くなる。

どうやら、自分が何かのモンスターに変身するようだ。

全く、次から次へと。

ルアードの周囲から風が湧き起こって、木箱が移動する。
そして、みるみるモンスターに変わっていくルアード。

赤いごつごつとした皮膚に、両角が二本。
口元を引きつらせて見える鋭い牙。
巨大な四つ脚を成しており、尾には棘が無数にある。
そして見えるのは、巨大な翼。

「はぁああーーどうだ? 勝てる気はするか? 殺し屋」

声も変っている。
とても低く、口からは何か出そうな感じだ。

紅い龍。

俺がなった子竜とは、まるで比べ物にならない大きさだ。
部屋が広かったからまだ良かったものの、とても翼を羽ばたかせて飛べる広さではない。

尾の一振りで、木箱が破壊され散乱する。

ぐぐっと、持つ拳銃に力が入る。

「いいぜ、撃ってみろよ」

照準をルアードの頭にあてる。

引き金を引いた。2度。

だがーー

「かゆいなあ。殺し屋は、そんなボンクラ銃を使っているのか? 音が無いのは珍しいが……。ただ、そんなことでは、この鉄の体を持つ“ハルトドラゴン”は貫けない」

本当に。
面倒な相手だ。

ゾンビ人間といい、ドラゴン人間といい。
この工場は変身するのが流行っているのか?

いや、望んでそうしている人間ならともかく、そうじゃない人間もいるんだ。

こんなドラゴン相手に時間をかけている暇はない。

視線を部屋の奥へやった。

ルアードの背後に窓が見える。
しかも、よく見ると木箱を運んでいる。

「何処いく!? 殺し屋!!」

ドラゴンの手が勢いよく振られた。

それを屈んで避けて窓を目指す。

跳躍し、その勢いで窓ガラスを割って外へ出た。




「……」

俺は言葉を失った。

工場の外には、何十人、へたをすれば何百人といるであろうモンスターに変えられた人間が、次々に無理やり木箱に入れられている。

この何処かに既にローサが?

いや、ローサはルアードによると、まだ人間のままだ。
だが、ルアードの言うことだ。信用ならない。

「待てえ!! 殺し屋!!」

壁を豪快に破壊し、ドラゴンになったルアードが飛び出して来る。

「「「ルアード様!」」」

と、同じ組織の者だろうか、そう言う。
様なんてつけるくらいだ。
それなりの立場の人間なんだろう。
今はドラゴンだが。
そんなことはどうでもいい。

「おーおー、順調に運んでいるねえ。このペースだと、早朝の便に間に合いそうだ」

マメルの町を出て西の方角に行けば、海がある。
俺の予想は見事に当たっていたというわけだ。

本当に、えげつないことをしている。

俺は木箱を運んでいる人間を撃った。

「お前の相手は俺様だ!!」

「くっ!」

背後から容赦なく巨大なドラゴンの手が飛んで来る。

俺が撃った人間は、倒れ痛そうにしている。

これでは、どちらが悪者か。

まあ、殺し屋に良いも悪いもない。
今回ばかりは俺は救う側の人間。
悪者退治を遂行しようじゃないか。

狙いを定め、あった支柱の留め金部分あたりを撃った。

「どこを撃って……いるんだ!!」

振られたドラゴンの棘の尾をさっと避ける。
そして、その尾から棘の弾が無数に飛ぶ。

「ルアード様! ここで暴れられたら大事な商品に当たります! 我々にも当たりますし……」

ぎろりと睨むルアードに、少しずつ声が小さくなっていく。

「だったら、俺様の戦闘の邪魔をしないようにさっさと移動させるんだ」

「「「はいいい!!」」」

木箱を抱えて、急いで移動をする。

ルアードは俺の方に体を向ける。

俺は工場に向って走り出す。

「何処へ……行くと行っている!?」

「なっ!?」

ルアードはドラゴンなんだ。
不思議でもなんでもない。

だが、こうしてあらためて見ると迫力が違う。

口を大きく開いたドラゴンから、燃える火炎が向かって来る。
どんどん熱くなる体感温度。

そして、防護服の端が焼かれる。
その焼かれた箇所を素早くナイフで斬り落とし、工場に向かって走る。

登って行き、パイプの上に飛び乗る。

下を見るとドラゴンのルアードが、翼を広げ動かしている。

「やっぱり、飛ぶのか」

彫刻のように、飾りではなかった。
翼を大きく動かし浮く。

その様子を見ながら、また上へ上へと登って行く。
その最中、支柱の留め金をまた狙撃。

悲鳴を上げ、工場広場から移動するモンスターに変えられたであろう人間。
ルアードと同じ組織の人間に必死に抵抗を見せるような者もいる。
そうだ、戦え。
こんな、馬鹿げた組織などあってはいけない。

リザードマン、エルフ、キマイラ、グリフォン……

色んなモンスターに変えられた人間が交戦している。

それを、何も言わないで見るルアード。
上空から眺め、何を考えているのか。

口を開け、胸のあたりがどんどん膨らむ。

俺はまた支柱の留め金を狙撃した。
そして、とうとう留め金は外れぐらつき始める。
支柱を支えていた二本の棒もぐらつく。

「ルアード!!」

俺は助走をつけ空中に飛び出した。

ルアードは俺の方へ向き、赤くごうごうと燃える火炎を放った。

これは……効く。

咄嗟に防護服を盾にした。

そして、ドラゴンのルアードの背中に着地し、至近距離で高威力銃“サタンゼクス”をぶっ放す。

1回、2回、3回、4回、……5回。

その最後に撃った5発目で、勢いよくジャンプ。
空中で素早くリロードし、“バレットサイレンス”と“サタンゼクス”での連射。

落ちて行くドラゴンのルアードをさらに狙撃。

そして、全体重を重力に任せるように乗せ、加速した勢いで背中を思いっ切り踏みつける。

「こいつはあ効いた!! 伊達に殺し屋やってねえなっ!!」

「ルアード、お前は自分の身を心配した方がいい」

「お前!!」

ようやく気づいたのも時すでに遅い。
ドラゴンの視力はどのくらいなのかはわからないが、落下する下にはバランスを崩して今にも倒れそうな支柱がある。

「あばよ、ルアード」

強く跳躍し、“バレットサイレンス”を静かに放った。

そしてーー

「ぐあああああああああああああああ!!!」

支柱は真っ直ぐにドラゴンを貫いた。
ドラゴンの背中から縦に支柱が飛び出した。
かろうじて支えていた棒は地面に落下。

すっと地面に着地する俺に、ドラゴンのルアードは手を伸ばしてくるが、間も無く……力尽きた。









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