殺し屋と行く、見習い黒魔導士が弱過ぎる件

幻月日

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第9話 殺し屋VSオーガ

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巨大な何かから逃げるように、草むらを進んで行く。
俺もローサも身をかがめて、時折後方を確認する。

テントは置いて来た。
簡易性の片手持ちサイズになる便利なテントだったが、仕方ない。

「ヴォオオオオオオオオオオ!!!」

雄叫びが響く。

どすん、どすん、どすんと。
次第に体感する音と地面から伝わる揺れが大きくなってくる。

これはまずい……

その巨大な何かが気づいたようで、明らかに俺たちの方へ走ってくる。

「ローサ! 森まで走れ!」

位置がバレているのなら、草むらで隠れている場合じゃない。

アラクネーがいた場所までは遠い。
だが、巨大岩に向かう途中に森があった。

「分かったわ!ーーなんで逃げないの!? 」

ローサは走り出したが、ついて来ない俺の方を振り返った。

「囮になってやるから、行け!」

「ゔ~、だったら私も!」

「お前相手をよく見ろ! 今度こそいたずらじゃすまされないぞ! 早く行け!」

そう強く言った。
ローサもそれを理解したようで、森がある方角へ走って行った。

その間も、どんどん俺の方に向って来ていたデカブツ。
そしてどすん! と大地を踏みつけて俺の目の前に立ち塞がる。

一体、俺の何倍、いや、何十倍あるのだろう。
見上げてもなお、月の逆光のせいで姿は確認できない。

「ヴォオオオオオオ!!」

巨大な手が俺めがけて飛んで来る。

ばっと躱したつもりだったが、見事にクリーンヒットしてしまった。



軽い身のこなしで躱せたと思っていたが、やはりこの子竜の姿では無理があった。

受け身はした。
ダメージを軽減する為に。

「……オーガ」

飛ばされたおかげで、月の光がそいつを照らした。

オーガ。
モンスターの中でも巨大な部類に入る。

下級の魔導士1人や2人、3人程度では倒せないモンスターだと聞く。

せめて、中級魔導士を含めて3人、そのくらいの人数はいる相手。

ただ、俺は殺し屋。
単独での行動を最も得意とする。
違うのは相手が人間ではないということだけ。

……さて、どうしたものか。

この動かそうにも1ミリも動いていない翼は役に立つのだろうか。

翼に意識を集中してみる。

が、やはりぴくりともしない。

飾り物ならつけるな!

そう心中で叫ぶ。

こんな如何にも危機的状況なんだ。
せめて、飾り物でも動いてほしかった。

オーガは俺の方へ向って走ってくる。
あんな巨体なのにいやに早い。

そしてーー片足を大きく上げた。

一層巨大な足音が大地に響く。
危うく、踏みつけられそうになった。

間一髪避けて、倒す方法を考える。

そしてなんだと気づいた。
俺は殺し屋なんだ。
持っているじゃないか。
拳銃を。

殺し屋たるもの、たとえモンスターの姿になったとしても拳銃は持っている。
硬い皮膚に巻かれたベルトに吊るされている拳銃を抜く。

弾丸速度、威力共に申し分ない拳銃。
俺の長きに渡る相棒だ。

そしてーー

「ドン!!」

1発。
肩にお見舞いしてやる。

オーガは少しばかり後退する。

さすがに爬虫類の手じゃ持ちにくいが、撃てないことはなかった。

「ドン!!」

もう1発。

今度は右足に。

片膝をつき、オーガは俺の方をぎろりと睨む。

おーおー、怖い怖い。
怒っておられる。

そして照準を高く上げていく。

引き金を引こうとしたーー

「待ってください!」

とても小さな声が聞こえた。

何処からだ?

辺りを見渡すが、声の主は見当たらない。

「ここです、ここ!」

また、声がした。

下の方だ。

「……フェアリー」

「そうです、わたしはフェアリー。どうか、どうかオーガを殺さないでください」

と、小さなモンスター、フェアリーはそう懇願する。

だが、あんな危険なモンスター野放しで寝られるはずもない。
俺だけならまだしも、ローサもいる。

「出来ない頼みだ」

照準を、また上げる。

その時、草むらをかけてくる影があった。

「ローサ! 何故戻って来た!?」

「だってだって銃声が聞こえたんだもん! 何事かって思って!」

だとしても、普通来る奴がいるか?

俺は殺し屋だ。
発砲くらいする。

拳銃を使う相手は人間が多いが、今回ばかりはそうも言っていられない。

「……ほら、向ってくるから撃つしかないじゃないか」

痛むだろう右足を立ち上がらせて、俺の方へ向って来る。
照準をオーガの頭に合わせた。

「待って!」

銃口の前に立ち塞がったのはフェアリーーーではなく、ローサだった。

「何故、そこに立つ?」

「もういいじゃない!? その銃で散々撃ったんでしょ!? だったらもう、向って来ないよ!」

ローサの言っていることは的外れだ。
現に今、オーガは足を引きずりながら俺の方へ近づいている。

俺は拳銃を降ろさない。

だが、それでもローサは唇を噛み締めて退こうとしない。

怖いのだろう。
逃げたいのだろう。

後方から足を引きずって来るのは巨人とも言えるオーガ。
スライムやゴブリンでさえ怖いと言うのだ。

体を震わせて、真っ直ぐに俺を見る。

すると、フェアリーがオーガの方へ飛んで行く。

オーガはフェアリーの飛ぶ方へ頭を向ける。

何をしているのか?

まさか、説得でもしているのか?

ーーそして、戻って来た。

「オーガに事情を話しました」

「何をだ?」

どすん、どすんと。
オーガは去って行く。

「もうここには来ないって」

「……テリトリーだったのか」

こくこくとフェアリーはうなづいた。

動物は自分のテリトリーにうるさいと聞くが、どうやらモンスターもそれは変わらないようだ。
アラクネーにしてもオーガにしても、邪魔をしたのは俺とローサの方だったか。

オーガには悪いことをした。
だが、急所は外してやった。

感謝しろとは言わない。
これでおあいこだ。

右腕の激痛。
恐らく、骨が折れた可能性がある。

痛む右腕を押さえながら、月のある方角へ行くオーガを見えなくなるまで見ていた。
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