殺し屋と行く、見習い黒魔導士が弱過ぎる件

幻月日

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第8話 アラクネーに負ける黒魔導士

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俺とローサは歩きに歩いた。

歩いて歩いて。
そしていつしか夜になっていた。

「今日はこのあたりで休もう」

砂利道の近くにあった、木の密集した場所。
森と呼べるほど大きくはない。

「キャンプね!」

「違う」

相変わらず目的が分かっていないのか、ローサはテントの中でごろごろする。

まあ、気持ちは分からなくもない。
どんよりとした雰囲気で夜を過ごすより何倍もマシだ。

俺は燃える薪に、また近くに落ちてあった木を放り投げる。

ローサも出て来て、周辺に落ちてある木を拾っている。

「きゃああ!!」

つい、余所見をした時だった。

振り向くと、ローサの頭上からキラリと光る長い糸のようなものが彼女の右脚を捉える。
逆さまになってしまい、ローサは必死に抵抗している。
しまいにはもう一方の脚も捕らえられ、ものは丸見えだ。

俺は跳躍して糸を切った。
子竜の爪だとしても、斬れ味は抜群にいい。

「うっ!」

ローサは尻から地面に落ちた。
頭から落ちなかっただけ幸いだ。

そして暗闇の木の上から降りて来たのは、8本の長い足が特徴的な蜘蛛のモンスター。
アラクネーだ。
上半身はどうみても人型ではある。

「何か用か?」

そう尋ねてみる。
人の顔だ。
話せるといいのだが。
むやみな争いは避け、ここは静かに安眠したい。

「わたしのテリトリーで火をたくな!!」

アラクネーは怒っていた。
前の2本の鋭い脚爪を向ける。

どうやら、入ってはいけない場所だったらしい。

そういうことだったか。
なら、倒す必要はない。

「ローサ、場所を変えよう」

「ええ」

倒してこの場で休息をとるのも良かった。
だが、俺は殺し屋だ。
モンスター討伐屋ではない。

スライムとゴブリンには天に召してもらったが、あれは仕方ない。
状況が状況だ。

テントをたたみ、砂をかけて火を消す。

そして赤い目が光るアラクネーにぺこりと謝るローサ。

場所を変えて、また歩き始める。

虫の声が響く中、夜の砂利道をまた歩く。

「ねえ、もうこの辺でいいんじゃない?」

「だめだ。こんなひらけた場所なんて狙ってくださいと言ってるようなもの」

俺は大丈夫だとしても、ローサがいる。
仮に酔拳ならぬ、眠拳が使えるならまだしも、元が弱い。
そんなもの大したことないだろう。
そんなことはどうでもいい。

いくら、さほど強いモンスターが出ないとは言われていても、夜になれば話は違ってくる。
恐らく、上級魔導士ではないと倒せないモンスターは出ないとは思うが、どうもこればっかりは分からない。

俺は殺し屋だ。
狙う対象が魔導士の時もあるから、多少彼等の知識はつけている。
そして、狙う対象がモンスターを飼っている時もある。
だから、少なくともある程度のモンスターに関する知識もある。

殺し屋としてやって行く為。言えばそうだ。
好き好んで魔導士やモンスターの知識を身につけたわけではない。
魔法はもちろん使えない。
ただ、それがどんな魔法なのか程度の知識。

ローサはもう疲れきった様子でさっきから早く休みたい休みたい! とうるさい。
本当に大陸一の魔導士を師匠に持つ黒魔導士とは思えない。
子供っぽく、わがまま。
それでいて、弱い。

もし、男なら放り出して1人行っているところだ。
俺は殺し屋だ。
甘くはない。

「あの場所は?」

ローサがそう言って指を指す。

「行ってみよう」

砂利道を外れて、草むらの中を進んで行く。
そうして見えて来たのは、夜の大地に忽然と現れた巨大な岩。
とても大きく、ここでなら一夜を凌げそうだ。

そこでテントをまた張って、その日は就寝した。



真夜中、何かの音で目が覚めた。

どすん、どすんと、体感に来る。
何か巨大な生き物が歩いている。
そんな感じだ。

そして、その何かは俺たちのいるテントに向かって来ているようにも感じる。

「ローサ、起きろ」

しかし、ぐーぐーといびきをかいて気持ち良さそうに寝ており、起きる素振りもない。

もう一度、肩を揺すってみる。

「セフ婆様~、もう許してください」

何の夢を見ているのか。
やはり、起きそうもない。

仕方がない。

「痛い!? 何!? 何何!?」

爪でゆっくりと腕あたりを少し刺激してやった。
仕方ないだろう。
こうするしか思いつかなかったんだから。

それも、今、俺とローサのいるテントに向って来ている何かから離れる為。

そしてローサも気づく。
どすん、どすん、と近づいてくる音に。

テントから出て、その方向を確認する。

「なんだあれは?」

夜の闇ではっきりとした姿は確認出来ない。
だが、間違いなく音の主はあれだ。

巨大な生物。
ゆっくりと。
ゆっくりとした動きで俺たちの方へ向ってくる。
あんな人間はいない。

シルエット的にも、何かのモンスターであることには間違いないだろう。
月の光が影を作り、はっきりと確認出来ないが、頭部あたりには2本の角がある。

早めに気づいて良かった。

俺とローサは隠れるようにその場から去った。




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