百花繚乱 〜国の姫から極秘任務を受けた俺のスキルの行くところ〜

幻月日

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第247話 封神玉と世界の鍵

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黒龍の姿に変貌した魔王が天井を突き抜けた。
並ぶ柱は尽く破壊され、周囲は一瞬の間に一変してしまい、氷点下の冷気が一気に雪崩れ込んだ。
同時に穴の空いた天井が崩壊していき、完全に外と隣接する場所となってしまった。

魔王が空中で長い身体を揺らしながら浮遊し、俺たちを見下すように見ている。
俺たちが海から通じていた大渦を抜けて見た黒龍。
大きさこそ違うものの姿は同じ。さすがにあのサイズは洒落にならないが、それでも今俺たちの頭上にいる魔王は魔竜の数十倍の大きさはあるだろう。

黒龍の姿に変貌した魔王が海の天に向かって大咆哮。
下に見える森がざわつき、大きな揺れが起こる。
まるで天変地異の前触れ。

俺たちが落ちて来た場所にヒビが入り始める。
……まずいな。

この上にあるのは海。
となれば、俺たちを溺れ殺す気か。
そうはさせないと、撃技+7を解放して斬空波を放つ。
斬空波は魔王に直撃したことで、さらに威力を増す。

「……神龍の力を持つ忌まわしき剣よ。封印されても尚、我に歯向かおうというのか」

「神龍……」

黒龍の姿となった魔王が炎のブレスを放つ。俺たちは素早く回避、魔王との距離を取った。

「魔王が左手に握っている、あの紅い玉のことだ。正確には神龍の力を封じ込めた封神玉という」

俺の側にいたクランがそう答える。

「封神玉……」

神龍の力を封じ込めた玉。
あれこそが……

「っ!?」

左腕に発熱を感じた。
今ここで解放しろということか!?

熱さは収まっていくものの、若干熱さが残る。

「……まさかとは思ってたけど、やっぱり救世の籠手だったか」

「ーー救世の籠手……っ!?」

また発熱が起きた。
熱さは次第に強く、外そうにも外せやしない。

「何なの? その救世の籠手って?」

「メア、後にしてくれ」

左腕を押さえながら言う。
これは大火傷は確実。少しは盾になるかとずっと身に付けていたが、まさかこんなことが起こるとは。

「反応しているんだ、あの紅玉に」

クランはそう言って、魔王の方を指差す。

魔王が左手に握る紅玉が大小と光の大きさを変えて動いているように見える。
とその時、また燃え盛る炎のブレスが放たれた。
左腕も熱いが、あの炎のブレスはそれよりもさらに熱い。
魔王はその攻撃を止めることなく、炎のブレスは俺たちがいた場所を炎の海と化した。

「シン! 君は世界でたった1人の選ばれし勇者だ! その救世の籠手こそ、この世界を救う唯一の鍵!」

燃え盛る炎の海に何本も倒れる柱の一つの上から、クランが叫ぶ。

「ーーあの時」

サラが俺に言った言葉を思い出す。
発熱する籠手を右手で押さえつつ、能力を解放する。

……熱さがおさまった。
それに、一気に身体まで軽くなった感じがする。

サラは籠手の真の力を発揮する為には俺の能力の一つ、“解錠”が必要だと言っていた。そういや、アリス王女も似たようなことを言っていたな。
救世の籠手だけでも意味はない、俺の持つ“解錠”の能力があって初めて真の力を発揮する。
サラとルーヴァスが初代魔王と相討ち後、霊体となってウォールノーンへと向かった後の話。
別次元から出る前にルーヴァスは言っていた。
“解錠”の能力を持つ者をウィナードとサラと共に探し回ったそうだが、結局見つからなかった。

そうして時を経て、霊体のサラがいたウォールノーンの奥、開かずの扉を開けてやって来た勇者が籠手を持って行った。が、それは開かずの扉とした、守りの精霊獣カーバンクルの力を破った者が入って来たとしての確率。
だが、永きに渡る時を超えて、救世の籠手は俺の手にやって来た。
握る拳は強く、眼が火のように赤くなっている魔王に向ける。

「シン!! 行って!!」

セシルの声を合図に、速技を解放。
なんだこの速さ。自分でも驚くほどの速さ、身体が異常に軽い。
一瞬の間に魔王の元に着き、魔王が左手に握る紅玉に触れた。

なっ!?
すかさず、目を隠す。

紅玉は砕け散り、閃光弾の数十倍以上の光が発生した。
俺は感覚を頼りに下に着地。



ややあって、光が収束した。
周囲に特に変わった様子は見られない。
が、明かに魔王が動揺を見せる。

「ーーおのれ……、フォリスモスの王冠に次ぎ、封神玉までも……」

尋常な殺気。
魔王の身体に雷が纏う。

封神玉。
それは神龍の力を封じ込めたものであり、魔物時代に終焉が来ない最たる理由だという。
初代魔王を相討ちという形で討伐したルーヴァスやサラたちも、最後まで封神玉を破壊しようとしたようだが、傷の一つもつかず決着を迎えてしまった。

「……でも、本当にその神龍の力は戻ったの?」

と言いつつ、メアは空見えぬ上や地上を見渡す。

「そうだと信じるしかないだろ」

ただ言った本人が50年以上前の獣人。封神玉から神龍を開放すれば、魔王、魔人を含めた全ての魔物たちの力が弱体化する。
だが、その信憑性は高く、そう思うのは魔王の様子から。
封神玉が砕けた後、魔王が見せる様ーー黒い龍の鱗に纏う雷に、風まで強くなってきやがった。まるで静かなる怒り、それを表現しているかのようだ。
黒龍化した魔王なら、暴風竜の力を使うこともわけないということか。

魔王が纏う雷を周囲に撒き散らす。
飛ぶ魔物、地上にいる魔物、無差別攻撃は魔物とて容赦なく襲う。
もちろん、それは俺たちの方にも。

攻斬波、烈焔の塵。
塵状となった烈焔の攻斬波が雷と衝突。
烈焔の斬撃が塵となり、雷鳴を轟かす雷を焼き斬っていく。

お怒りモードだな。
雷などまだ序の口だろう。
俺たちがいる足元に降ろしたその巨体は、燃える炎の一部を消し飛ばすほどの風圧を起こす。

「我らを裏切った勇者、我らを撲滅せんとする勇者ーーそして、開の能力を持つ勇者……。憎っくき神龍の意を受ける申し子どもめ。我ら魔王族が森羅万象を支配する為にも、お主らは我の手で始末してやろうぞ」

「俺は死なない。死ぬのはお前だ、魔王」

アスティオンの切っ先を向ける。

「そうだ。魔王の時代は今日、この日をもって終わりを迎える。これで晴れて国の狗もやめれそうだよ」

「クラン、それ本気?」

アルギナの問いにクランは笑い、頷いた。

「ちょっとあんたたち! 話はあとあと!」

そうだと、メアに言われ気づいたようにクランとアルギナは魔王に視線を戻す。

「……我を前にその余裕。その意気や流石、神龍の意にそぐう者たちは違うようじゃ。ーーじゃがそれも、絶望に変わる刻は近い」

「言ってろ。封神玉を持たないお前に、俺たち5人は倒せはしない」

神龍の力というのがどれほど闇側の力を抑えていたのかは不明だが、勇者4人に獣人、負けが決まったわけではない。

その時、何度か感じて来た大きな揺れが起きた。
俺はそれを合図にするかのように、魔王の元に駆ける。
が、魔王は懐には入れさせまいと龍尾で辺りごと払う。倒れかけの柱は吹き飛び、崩壊している壁に衝突。
クランやアルギナも能力を駆使しつつ魔王に斬撃を繰り出すが、魔王を囲うように現れた6つの巨剣により防がれてしまう。
白、黒、それぞれの色をした巨剣が魔王の周囲を浮遊する。

「ーー勇者たちよ、たとえ我を倒したとしてもじゃ。この世には抗うことが出来ぬ未来があることを、直ぐに理解するじゃろう」

なんだ? 魔王のこの余裕は。

「その未来を変える為に、俺たちは来たんだ。魔王、今日をもってお前の時代は終わる」

俺がシーラ王国のアリス王女から魔王の城に眠る秘宝を盗み出すように頼まれた日。その時は正直な話、何処かで逃げてやろうと思っていた。
だが、旅の途中で俺の生きる旅は何なのか? と自問を繰り返し、そして行き着いた先はこの魔物時代を終わらせることだった。
その為に勇者として力を身につけ、協力してくれる仲間が集まり、最終的に挑むは魔王との決戦。
だから、魔王の城に眠る秘宝を見つけた時も、驚きはしたがそれだけだった。
今も見える紫黒の物体。それこそが、魔王の城に眠る秘宝だと魔王本人が言っていた。

「ーー融合石という。何人たりとも壊すことが出来ぬあの玉がある限り、お主ら人間共に平穏は未来永劫やっては来やせぬ」

「ーーなら」

撃技+5を開放。
攻迅斬波!!

「……な」

攻迅斬波は秘宝に直撃したが、それ以上のことは何も起きなかった。

「言ったじゃろう、壊せはせぬと」

魔王の余裕はこれか?
壊せないもの、そんなのどうすればいい?
そもそもだ、あの秘宝。融合石の存在が俺たち人類に平穏がやって来ない原因ならば、やることは一つしかない。

シーラ王国に送り届ける。
アリス王女から頼まれた任務を果たす時。
だがその前に、この強大な敵を倒すことが先決。
なんだそうか。結局俺は魔王と戦うことになっていたんだな。

秘宝を持って帰ることを考えるのは後回しだ。
それよりも今は全力を出し切り魔王を倒すことに集中する時!

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