百花繚乱 〜国の姫から極秘任務を受けた俺のスキルの行くところ〜

幻月日

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第245話 氷スキルの真価

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魔王が腕を振ると、空間が裂け一本の剣が降りて来た。
刀身は長剣の二倍ほどに太く、紺碧の剣は魔王が手にした瞬間、絡みつくような紅紫のエフェクトを発生させる。

「フォリスモスの結界を破ったのは予想外じゃったが、所詮はそれまで。お主らが此処で死ぬという事実は変わりはせぬ」

魔王がもう片方の手を剣に触れた途端、リング状の波動が発生する。

「魔力を……」

魔力が一瞬のうちに半分以上も減少した。
およそ70%の減少。
リング状の波動は蒸発するように消えていった。

「能力の覚醒者にとって魔力は必須不可欠なもの。お主がさっきフォリスモスの結界を破ったのも何かの能力。違うか? 勇者」

「だったら何だってんだ」

能力が個人に目覚めるのは運命的要素が強く、どんな能力が目覚めるかも不明。
だが、一つ言えるのは目覚めた何かしらの能力には意味があり、それを見いだす為に覚醒者は能力を発動させる。
俺の場合はそう、一つの可能性でしかなかったが、フォリスモスの結界を解くという能力の真価が発揮された。
一か八か、斬撃に“解錠”の能力を合わせるのは初めての試みだったが、それは見事的中したというわけだ。

「潔い。それに神剣を持っているところを見ると、ますますお主には死んでもらわねばならん」

魔王が剣を垂直に上げた。とすれば、まるでブラックホールのような黒い球体が出来上がっていく。それは四方に黒い雷を散らせ、膨れ上がるように巨大になっていく。
魔王が剣を傾けると連動するように漆黒の球体も動く。

「触れたが最後。無の衝動は心を深淵に落とす。避けられれば良いのじゃが」

そう言って、不気味な笑みを浮かべながら魔王は剣から漆黒の球体を突き放した。
まずい!

放つ斬撃も効果なし。
テールも矢を打って止めようとしているが止まる気配はない。
漆黒の球体は直線上に進んでいくと、収縮するように消滅した。

「そんな! ラピス!?」

避けれなかったのか!
目が虚になっていくラピスは床に倒れてしまう。

「ううっ!」

それでもまた目に生が戻るが、再び生気がなくなっていく。

「無駄な抵抗じゃ。言ったじゃろう? 触れたが最後、無の衝動は心を深淵に落とすと。身体にダメージを与えなくとも殺す方法はいくらでもあるんじゃ。……学ばぬ奴じゃ」

テールが分身するほどの速度で矢を連射する。
しかしそれは魔王が振った剣の一振りで弾き飛ばされる。

「弓の勇者よ。お主の力はまだまだ我に届かぬ。それこそじゃ、先代魔王の手脚を射抜いたファルコメンでなければ、我に傷を付けることは叶わぬ。そこの剣の勇者は少しはやるようじゃが、弓の勇者、お主からは我を射るという覚悟が見えぬ」

「くっ!」

「気にするな。真に受けてたら奴の思う壺だぞ」

「分かってるさ!」

本当に分かっているのか?
テールの息は乱れ、持つ弓を握っている様子が強い。
まあそうだな、分からなくもない。
奴が魔王などと言わなければ、何処ぞ国の王女にしか見えないのだから。
国の王女に武器を向けるなど、本来であれば死刑に当たる行為。
それでも俺はシーラ王国の王女に剣を向けたわけだが、結果はこの魔王と戦うまでに至った。
だが実際今思うと命知らずの行為だったな。

「テール、お前はラピスを連れてここから離れてろ」

「そういうわけにはいかない! ……分かったよ」

俺が何も言わずにテールを見ると彼は静かにそう言った。
テールは横たわるラピスを抱えて移動する。

「……我がそれを了承するとでも思うたか?」

床から現れた龍のような巨大な手がラピスを背負って移動するテールの行く手を阻む。

「俺が許したんだよ! テール行け!」

龍のような巨大な手が大きく後ろへ曲がる。
破砕の斬撃がいつにも増して強くなった気がする。ルーヴァスの力か。

「……勇者よ、どの道お前も死ぬ運命じゃ。あの2人も逃げたとていずれ死ぬ」

「死ぬ死ぬうるせえな。その前にお前を倒せばいいだけの話だろ?」

アスティオンの切っ先を真っ直ぐに魔王に向ける。

「……我を前にまだ折れぬその心意気は褒めてやろう。そこの青髪の勇者も獣人もじゃ」

「そりゃどうも。もとより俺たちはお前を倒す為にここまで来たんだ。それにあの2人は逃げたんじゃない、役目を果たしたんだよ」

「同じじゃ」

「同じじゃねえ」

ラピスは上昇の能力を発動させ、今も俺たちをサポートしている。
その点で言えば、テールは違うが彼がいなければラピスを離れさせれなかった。

遠くでは戦闘音が聞こえる中、俺たちと魔王の間に一時静寂がやって来る。

「ーーもう、遊びはお終いじゃ」

魔王が着るドレスが形状を変化させていく。
一部、露出している箇所はあるが、ドレス姿に比べて戦闘向きの姿。
それに先ほどよりさらに圧の気配が上昇した。

魔王の戦闘モード。
俺たちはこいつに勝てるのか? ……いや、俺たちが勝つ!





魔王との戦闘が始まってから10分ほど。魔王は俺たち3人の攻撃を全て受け切っていた。
まるで剣の道を極めた達人のような滑らかな動き。魔王が動くのに従うように紅紫のエフェクトが周囲に漂う。

「いいのか? そんなに魔力を使ってしもうて」

「あんたを倒せるなら惜しみなく使うわ!」

氷虎を2体作り出したメアは、さらに魔王の頭上に特大の氷塊を生成する。

魔王が剣に触れて発生させたリング状の波動によって、俺たちの魔力は大幅な減少をしてしまっている為、能力を発動出来る回数は残り僅か。
が、残る回復アイテムはまだある。

「……それは、いつぞやの記憶で見た光」

光はセシルを包み込み、蒼く神々しい姿へと変えた。
その初動は早く、魔王をも圧倒するような勢いの突きが間近で打たれる。

「恐ろしい力を持っておるのう。が、我には後一歩届かぬ」

セシルの拳は魔王に掴まれ止められてしまう。
そのままセシルを氷塊の方へ放り投げる。が、セシルは向きを変えて蹴り上げていき氷塊の上に乗り、あろうことか氷塊を砕いてしまった。
呆気に取られるメアだったが、作り出した氷虎を走らせる。

「小癪な真似をーー!!」

魔王は砕けて落ちて来る氷塊を剣で払いつつも、突進して来た氷虎を吹き出した炎で燃やす。
だが、尚も溶けない氷虎が魔王に激突する。

「炎は対策済みよ! 氷結界!!」

魔王を囲うように正方形状の白緑色の氷が生成されていく。
その中の2体の氷虎が魔王を押し倒す。
が、剣から出る紅紫のエフェクトが二体の氷虎を包み込んで塵状にしてしまった。
その上、魔王が高速で剣を振るった瞬間、氷の結界に斜めや縦横に線が入り、バラバラに崩壊した。

「我を閉じ込めておくにはあまりにも緩すぎる。せめてこれくらいでなければな」

「な、何!?」

メアを囲うように縦と横に黒の柵が出来上がっていき、ついには黒い正方形と化した。
何を……する気だ!

攻斬波、破砕の斬撃。

「……下らぬ」

そう呟き、俺の斬撃を遮るように、魔王の前に突如出現したのは浮かぶ口。

……なんでもありかよ。
その口は破砕の斬撃が乗る攻斬波を、噛み砕くように食べてしまった。

見てる場合じゃない、メアを!
まだ、声が聞こえるうちに何とかあのブラックボックスから!
だが、そんな俺を嘲笑うかのようにブラックボックスは収縮した。

嫌な音がした。
砕ける音……メア!


そんな時、魔王向かって飛んでいく氷の矢。
魔王は氷の矢を受け止めるものの、気体化した氷の矢は魔王の手を氷結させた。

「警戒しておいて正解だったわ。私の能力の真髄を見せちゃったのは悔しいけどね」

身代わり。それも精巧に作られたメア本人のような氷の身体だったのか。
消えたブラックボックスの跡から氷の残骸が残っていた。
やるなメア。

正直な話、グレイロットでヴィンスとの修行でメアやセシルがどれほど強くなったかは分からない。この浮遊島の森で、不死竜タイラントと戦闘した時も、メアには援護させていたことではっきりとした強さは分かっていなかった。
ただ、魔王の城に来て分かれて進み、その後合流したことを考えても、実力は相当付いていることは理解出来る。
そんな実力の一部を今まさに垣間見た。

「余所見するなよ、魔王」

迅斬波、破砕の斬撃。
通常時の迅斬波より3.5倍の威力を誇る上、撃技+7を付加させた。

くっ!
撃技を使い過ぎたか。技の解放による身体的ダメージは回復薬で表面上は治癒されるものの、内側からの修復は時間がかかる。ただ、この城に入って何度か撃技を解放してもまだ問題なく使えるのはヴィンスとの鍛錬のおかげだ。
それがなければ技の解放によるダメージは今の倍以上大きいのは確実。

破砕の斬撃を乗せた迅斬波が剣ごと魔王に直撃。
魔王の表情が歪み、その勢いは止まず、壁に衝突してもなお破砕の斬撃が繰り返すように放たれた。

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