百花繚乱 〜国の姫から極秘任務を受けた俺のスキルの行くところ〜

幻月日

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第240話 侵食者の先へ

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イクリプスドラゴンに何が起こったのかは定かではないが、以前の身体をしていない。
頭部のみがイクリプスドラゴンそのものだが、身体は重力に従うように形を崩している。

「シン! 何故来た!?」

「説教は後にしてくれ。その前にこいつを」

次のフロアの方向が分からないほどに、地面や壁、天井が赤黒い触手で張り巡らされてしまっている。
こんなことが出来るのは目の前にいるこの魔竜だけだろう。だったら話は簡単だ。

「バカね、せっかくロジェが道を作ってくれるって言ったのに」

「ちげえねえ。それよりよ、こいつ本当に魔竜なのかよ? アンデッド族の間違いなんじゃねえのか?」

身体に見える無数の斬り傷、えぐれた斬り跡から見える中の様子はとてもじゃないが本来のイクリプスドラゴンの姿とは思えない。

「観察眼の表示に嘘はないよ。ステータスが確認出来なくなってるのは不可解だがーー何かがこの魔竜と戦闘したのは確かだろうな」

観察眼の発動は既にしているが、ロジェの言うようにステータスが確認出来ない。
身体の造形を崩すほどの戦闘。仮にそうだとしてイクリプスドラゴンをここまで追い詰めることが出来る相手は限られて来る。

「来るよ!」

セシルが後方に大きく跳ぶ。
イクリプスドラゴンの身体から無数に飛んで来る触手の先は鋭利な形状をしている。
魔竜というより魔物、今はそう言ったほうがしっくり来る姿。

迅斬波、破砕の斬撃。
飛んで来る触手を斬り裂き、迅斬波の性質を持つ破砕の斬撃がイクリプスドラゴン本体を揺らすほどに直撃した。

「強くなったなシン。もう俺と同じくらいなんじゃないのか?」

「がはは! シンがロジェと同じだって? 確かに今の技は大したもんだがよ、ロジェはシンを買いかぶり過ぎだぜ」

「そう? 私は実際そんなことないと思うけど?」

こんな敵の前でまだ余裕が感じられるのは、ロジェたちだからこそだろう。

「ロジェ、やらないなら俺が始末するぞ」

出ないと、これ以上広間が触手だらけになるのは御免だ。
イクリプスドラゴンの割れるような咆哮は、ますます地面や壁、天井を赤黒い触手で張り巡らせていく。
石並に固く、これだけ多いと脱出も後々面倒になって来る。

「まあここは、俺たちの戦いぶりを見物してくれよ。と言っても、そう保たなさそうだな」

碧の刀身。
フリーデンで初めて見たが、まさかアスティオンと同じ神剣だったとは。
神剣フォスロウ、確かそう言っていた。

迅斬波、それも一発や二発ではない。数秒足らずの間に20放たれた。
その間、イクリプスドラゴン本体から伸びる触手はテリーとラキが全て斬り落とした。
改めて見ると、如何にロジェの迅斬波の凄さが分かる。
迅斬波は斬撃を高速で放つ剣技で、試したことはないが俺でも連続して10くらいが今は限度だろう。
もともと迅斬波はロジェから教えてもらった剣技で、後の派生技は俺のオリジナルだ。

「しぶといな。だが、これで大人しくなった」

触手はイクリプスドラゴン本体だけではなく、辺りの触手までが襲って来ていたが、スピードが極端に遅くなった。

「それが、ロジェの神剣の力か?」

「そうだ。だが、今はそんなことはいい。ーーシン、もう一度言う。ここは俺たちに任せて先を行け」

「とは言うがなロジェ。道が」

ないと言おうとした時、ロジェがイクリプスドラゴンの方を指差す。

「魔竜の後方に道が見える。だが気をつけろ。奥にいるのはこの魔竜の比じゃない」

「ロジェ、それはあいつのことか?」

イクリプスドラゴンを確かめるようにして現れたのはいつかの勇者。

「吾輩はどうもこの日は勇者と縁がある」

「ベリアル……」

3階にて魔人を誕生させた勇者であり、第4の魔剣を持つ魔王軍側の勇者。
イクリプスドラゴンが唸るようにベリアルを見る。

「まだ、前戦の傷跡が癒えぬのだな。まったくもって、勇者とは末恐ろしい奴らよ」

「それはお前もだベリアル」

「左様。勇者とは戦いの中に身を置き、己自身の価値を証明する為に剣を振るい続ける。それがこんな醜き魔竜ともなれば、容赦の一つもしないのだ」

「お喋りはお終いだ。ベリアル、お前が魔王軍に入ったという噂は聞いていたがまさか本当だったとはな。何がお前をそうさせたのかはとっ捕まえてからゆっくり聞くとしよう」

どうやら、ロジェはベリアルのことを知っているようだ。
過去、有名な勇者が失踪した話がギルドでも回って来て耳にしたことがあり、その時同時に魔竜の目撃談もあったのだという。
それが誰だったのかは俺は知らないが、少なくともその時から何かが動き出していたということだろう。
魔王軍側に付いた勇者たちの意図は不明だが、魔物撲滅本部の勇者アルギナのように自ら入った者がいたことを考えると、目的は違えど深い理由がありそうだ。

「出来ぬ。何故ならお前たちはここで死ぬ運命にあるからだ。蝕の竜よ、吾輩と一つになり、この者たちに真の恐怖を」

ベリアルが腕を上にかざした。
その瞬間、イクリプスドラゴンの身体が渦に混ざるように形状を変化させ、ベリアルまでもが渦の中に入っていく。

「シン! ここは俺たちに任せるんだ! お前はお前が今やるべきことをやれ! 君ら、シンのことを頼んだぞ!」

「あなたたち、死んだら承知しないわよ!」

「がはは! また生きて何処かで会おうぜ!」

渦は大きく、轟々と鳴り響く音は次第に大きくなるばかり。
ロジェたち3人はそんな渦の中に突っ込んで行ってしまった。


そして、ロジェが言った方向へ行って見ると、入って来た時と同じような鉄格子状の大扉があった。
それほど触手の侵食はなく、斬れば問題なかった。

……ロジェ。

後方から無数の触手が向かって来ているのが見えるが、スピードが遅い。
渦の中では融合を阻止するかのように火花が散っている様子が見える。

俺たちがやるべきこと。
それをやる為にも俺たちは大扉を開け先を行く。

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