240 / 251
第239話 蝕みの咆哮
しおりを挟む上へ続いていた螺旋状の道の終わりが見えて、もう間も無くといったところで何かが鳴く声がした。
「ーーどうやら、何処かで戦っているようだな」
援軍。
マリウスが言っていたことを考えると、魔物撲滅本部の勇者たちかもしれない。もしくは、ロジェたちと同じ革命軍の勇者たちか。
何にしても、戦っているのは俺たちだけではないようだ。
「1、2、3ーーなるほど。此処から東に1つ、北と南にそれぞれ2つ大きな戦闘をしている」
ロジェが人差し指と中指をクロスさせ自身の額に押し当てながら言う。
「どうしてそんなことが分かるの?」
セシルがそんな様子のロジェを覗き込むような姿勢で本人に聞く。
「気になるか? これはな、“千里眼”と言って俺の能力なんだ」
“千里眼”
ロジェが覚醒した能力は遥か遠くの出来事も見通せる。
俺が訓練時代、森の中で迷ってしまった時、複数の魔物に囲まれて絶体絶命の時に真っ先に来たのはロジェ。
他にもカサルの地に向かって来ていた兵団を言い当てたり、草原の迷い人を直ぐに探し出した。
“千里眼”のことをロジェから聞いたのは、俺が“解錠”の能力を打ち明けた時だ。
カサルの地に住むある老婆が、倉に置いてある錠付きの箱の鍵を無くしてしまった話を俺が聞きつけ、箱の鍵を“解錠”で開けた話で、互いの能力の話になった。
「大した能力だぜ。あーあ、俺も何か能力でも目覚めればもっと強くなるのにな」
そう伸びをしながらテリーは言う。
「そう言えば、シンも能力を持っていたわよね?」
「ああ」
解錠の能力はロジェたちも知っているが、回り抜けのことは話していない。
「解錠ーー錠を外す“鍵”の役割を果たす能力」
ロジェが“解錠”について丁寧に解説をする。
「がはは、だがまあ実際ロジェの“千里眼”に比べれば役には立たねえ能力だぜ」
そう言うと思ったよ。
テリーは覚醒した者を嫌うわけではないようだが、その覚醒した能力の実用性に関してはやたらとごちゃごちゃと言って来る。
だから、自分が何か能力を覚醒するなら役に立つ能力だと、自己暗示のように1人ぶつぶつ言っていたのを見たことがある。
「そんなことはないよ。覚醒した能力は如何様にも使えるが、それを上手く扱うのは本人次第だ。もちろん、せっかく能力が覚醒しても本人が駄目にしてしまったらどうしようもない。だがシンは全く違う。テリーもそれは知っているだろう?」
「ふんっ、どうだかな!」
老婆の倉の箱の錠を開けた話はロジェを含めてテリーもラキもいた。
まあ、人それぞれ能力の捉え方は違うということだ。テリーにとっては“解錠”の能力は役に立たないものなのだろう。
「ーーさてと、この先に何があるか、俺の“千里眼”で見てやりたいところだが……そうもいかないんだ」
漸く辿り着いた鉄格子の大扉の先を見てロジェは首を振る。
"千里眼"でも見えないのには何か理由があるのだろう。
鉄格子の大扉の中央上部にはヴァレトスドラゴンがいた間の大扉にもあった紋章と同じ形が見える。
鉄格子の大扉の先は薄暗く、かろうじて10メートルくらいは見えるのだが、その先は全く見えないほどに暗い。
不気味なほどに静まり返っており、何か物が落ちた音でセシルがびくりとする。
「だったらただ進めばいいだけだろ?」
俺は鉄格子の大扉に手をかける。
大扉は見かけ通り重く、少しばかり力を入れて開いていく。
「誰か、何か光るものは持ってないのかよ?」
「それなら、シンが持ってるよ」
セシル……貴重な閃光弾なんだぞ?
「はは……頼むよ」
ロジェが苦笑いをしてそう頼んで来る。
まあいいか。ここで惜しむ物でもない。
取り出した閃光弾を投げた。
閃光弾は空中で弾けてあたり一帯を照らした。
やけに広い場所だな。
それでいて、魔物の一体たりともいやしない。
ただ、こういう時こそ慎重になれと教えてくれたのは今いるロジェその人だ。
魔物の気配こそないが、この隠しきれない気配……
「「いるな」」
思わず、声が出るとロジェと重なった。
ロジェほどの男だ、この気配の察知などとうにしていただろう。
「まいったなどうも。ーーラキ、あいつらとの交信は?」
「まだ遠いわ」
「そうか。ーーシン、短い間だったが、また再会出来て良かったよ。俺たちはこの先にいるのと一戦やるとするよ。後は分かるな?」
「……ああ」
テリーは特に何も言わず、ラキは俺の肩にそっと手を置いて先を歩いていくロジェの元に行く。
「ーーシン、仲間を大切にしろよ」
そう言い残し、ロジェたちは行ってしまった。
ややあって遅れて、俺たちは歩みを進めていく。
薄暗さもさることながら、時折視界を横切るのはオーブのようなもの。
魔王の城に取り残された人間の魂のようにも見えるし、どこかの隙間から入り込んだ外の光が屈折してそう見えるかもしれない。
「……ねえ、シン。あの人たちだけで行かせて良かったの? シンも気付いているんでしょ?」
「気付いてる? 何をだ?」
「とぼけないで! この気配、七星村に行った時のあの魔竜そのものじゃない! それだけじゃない。あの時よりずっと、ずっとパワーアップしてるわ。シン、あんたにとって大切な人たちは私たちも同じよ」
気付いていた。
この薄暗い場所の奥にいる気配の正体が俺を食った魔竜だということに。一瞬、また違う魔竜なのか? と思うほどに1度目の時よりパワーアップしていることにも。
敵の強さの把握は何も観察眼の発動によるステータスを見ることだけじゃない。
それが魔竜ほどの相手となれば、気配を比べることでパワーアップの上昇は感じ取れる。
「シン、セシルはいつでも覚悟は出来てる」
そう言って、斜め掛けの肩掛けの入れ物から青藍の球体をセシルは取り出す。
「なんだいそれは?」
そうか、テールはあの時はまだいなかったな。
手短にテールに七星村の時のことを説明した。
「ーー恐ろしい魔竜がいたもんだね。それで、その魔竜がこの先に?」
「ああ。随分強くなってな」
1度目でも馬鹿げたステータスだったってのに、まだ姿も確認していないのにこの気配。
魔竜という存在が古来より人々にとって災厄と呼ばれて来たわけがよおく分かる。
その時だった。
雷を裂く凄まじい音と共に、周囲が赤々とした世界に変わっていった。
地面や壁、天井を張り巡らせていくように走っていくのは無数の赤黒い触手。瞬く間に周囲一体は悍しい場所に変貌した。
張り巡らせている赤黒い触手が波を打ち、俺たちが通って来た鉄格子の大扉は見えなくなってしまって覆われた。
「……まさか、あれが魔竜なのかい?」
「らしいな」
らしい、そう言ったのは前回とまるで姿が違っていたからだ。
俺たちのいる場所から距離は相当あるが、それでも見える姿は巨大。
どす黒く紅い皮膚は前と同じだが、魔竜と呼べる部分は見た感じ頭しかない。
……ロジェ。
そして見える3人の勇者。
戦闘の様子はまだないようだが、今にも戦いそうな勢い。
どでかい斬撃音が鳴り響いた。
どうやら、テリーが一撃をかましたようだ。
「行くぞ!」
ロジェの計らいでやつとの戦闘をしなくていいと思った自分が恥ずかしい。それで何が勇者だ。何の取り柄もない俺に勇者の何たるかを教えてくれて、何の見返りも求めないで技能を教えてくれた。
そんな勇者たちを助けに行くなんて大きなことは言えないが、あの魔竜がやばい相手かどうかなんて戦闘せずとも見て分かる。
近くにつれて1度目の対峙よりも手強くなっているのは肌身を持って感じ取れてしまう。
魔竜イクリプスドラゴン。
空をも蝕む者の威を示し、紅き災害と謳われるのは魔竜の中でも桁違いに大きい。
その上にはファントムドラゴンなんて魔竜もいるが、幻想を見せない点で言えばイクリプスドラゴンが最大だろう。
0
お気に入りに追加
18
あなたにおすすめの小説
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

森の愛し子〜治癒魔法で世界を救う〜
碧
ファンタジー
始まりの舞台、【暗闇の森】。この森は危険とされているため、立ち入る人間は誰もいない。なぜなら、人が恐れる存在、魔獣と呼ばれる生き物が棲んでいるからだ。しかし、暗闇の森という名前とは裏腹に、澄んだ空気や水が流れ、朝は日に照らされてきらめく草木や花々が広がる、そんな自然豊かな場所でもある。
そんな森に暮らすただ一人の少女、レイ。彼女は幼い頃に、とある力を持って生まれたために、この森に捨てられてしまう。その力とは、聖獣や妖精、魔獣などの人ではない者の言葉が聴こえるというものだった。
しかし、彼女はこの力のおかげで、森に棲む生き物たちと関係が築け、彼らから森での生き方を教わり、彼女は今もこの森で暮らしている。
そんな彼女が、新たな出会いをきっかけに、世界を広げ、成長していく物語が今、始まるー

めざせ魔獣博士!!~筆は剣より強し~
暇人太一
ファンタジー
転校のための学校見学中に集団転生に巻き込まれた林田壮真。
慈悲深い女神様が信徒に会う代わりに転生させてくれ、異世界で困らないようにステータスの設定もさせてくれることに。
その際、壮真は選択できる中で一番階級が低い中級職業である【魔獣学者】を選んだ。
理由は誰とも競合しそうにないということと、面白そうだからという二つ。
しかも、ユニークスキルが【魔獣図鑑】という収集モノ。
無能を演じ、七人の勇者たちを生贄にして図鑑をコンプリートするための旅を謳歌する。
そんな物語である。
魔獣ゲットだぜっ!!!

帰還した吞兵衛勇者〜異世界から帰ってきたら日本がダンジョンだらけになっていたんだが?〜
まぐな
ファンタジー
異世界転移に巻き込まれた主人公、梶谷太一は無事に異世界の魔王討伐を成し遂げ、元の世界の日本に帰還した……はずだった。
だが、太一が戻った日本には異世界でよくみたモンスターが蔓延るダンジョンが発生。
日本には元々ダンジョンがあったかのように人々の生活に馴染んでおり、モンスターを討伐する専門組織、討伐隊ギルドなども設立されていた。
「とりあえず難しいことは置いておいて酒盛りだ!」
しかし、太一は何よりも酒のことで頭がいっぱいだった。
異世界で鍛え上げた能力を持つ太一を、人手不足に陥っている討伐隊ギルドは放っておくはずもなく……。
カクヨムにも掲載してます。

学校転移﹣ひとりぼっちの挑戦者﹣
空碧
ファンタジー
〔あらすじ〕
遊戯の神【ロキ】の気まぐれにより学校ごと異世界ノーストラムに転移させられてしまった。
ロキの願いは一つ、無作為に選ばれた人間が、戦闘技術も、何も知識もない場所でどう生き抜くかを鑑賞すること。
この作品の主人公であるはユニークスキルの【ナビゲート】と共に、巻き込まれたこの世界で生き抜くべく、環境に慣れつつも帰還の手掛かりを探していく。
〔紹介〕
主人公:相川 想良
作品:学校転移﹣ひとりぼっちの挑戦者﹣
作者:空碧
この度、初の作品となりますが、以前より個人で小説を書いてみたいと思い、今回の作品を書かせていただいております。
基本的に、9:00、21:00の毎日投稿となっております。
ご意見、ご感想、アドバイス等是非お待ちしておりますm(*_ _)m

元外科医の俺が異世界で何が出来るだろうか?~現代医療の技術で異世界チート無双~
冒険者ギルド酒場 チューイ
ファンタジー
魔法は奇跡の力。そんな魔法と現在医療の知識と技術を持った俺が異世界でチートする。神奈川県の大和市にある冒険者ギルド酒場の冒険者タカミの話を小説にしてみました。
俺の名前は、加山タカミ。48歳独身。現在、救命救急の医師として現役バリバリ最前線で馬車馬のごとく働いている。俺の両親は、俺が幼いころバスの転落事故で俺をかばって亡くなった。その時の無念を糧に猛勉強して医師になった。俺を育ててくれた、ばーちゃんとじーちゃんも既に亡くなってしまっている。つまり、俺は天涯孤独なわけだ。職場でも患者第一主義で同僚との付き合いは仕事以外にほとんどなかった。しかし、医師としての技量は他の医師と比較しても評価は高い。別に自分以外の人が嫌いというわけでもない。つまり、ボッチ時間が長かったのである意味コミ障気味になっている。今日も相変わらず忙しい日常を過ごしている。
そんなある日、俺は一人の少女を庇って事故にあう。そして、気が付いてみれば・・・
「俺、死んでるじゃん・・・」
目の前に現れたのは結構”チャラ”そうな自称 創造神。彼とのやり取りで俺は異世界に転生する事になった。
新たな家族と仲間と出会い、翻弄しながら異世界での生活を始める。しかし、医療水準の低い異世界。俺の新たな運命が始まった。
元外科医の加山タカミが持つ医療知識と技術で本来持つ宿命を異世界で発揮する。自分の宿命とは何か翻弄しながら異世界でチート無双する様子の物語。冒険者ギルド酒場 大和支部の冒険者の英雄譚。

異世界に転生した俺は元の世界に帰りたい……て思ってたけど気が付いたら世界最強になってました
ゆーき@書籍発売中
ファンタジー
ゲームが好きな俺、荒木優斗はある日、元クラスメイトの桜井幸太によって殺されてしまう。しかし、神のおかげで世界最高の力を持って別世界に転生することになる。ただ、神の未来視でも逮捕されないとでている桜井を逮捕させてあげるために元の世界に戻ることを決意する。元の世界に戻るため、〈転移〉の魔法を求めて異世界を無双する。ただ案外異世界ライフが楽しくてちょくちょくそのことを忘れてしまうが……
なろう、カクヨムでも投稿しています。

無人島Lv.9999 無人島開発スキルで最強の島国を作り上げてスローライフ
桜井正宗
ファンタジー
帝国の第三皇子・ラスティは“無能”を宣告されドヴォルザーク帝国を追放される。しかし皇子が消えた途端、帝国がなぜか不思議な力によって破滅の道へ進む。周辺国や全世界を巻き込み次々と崩壊していく。
ラスティは“謎の声”により無人島へ飛ばされ定住。これまた不思議な能力【無人島開発】で無人島のレベルをアップ。世界最強の国に変えていく。その噂が広がると世界の国々から同盟要請や援助が殺到するも、もう遅かった。ラスティは、信頼できる仲間を手に入れていたのだ。彼らと共にスローライフを送るのであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる