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第238話 神剣の真髄
しおりを挟む「シンの仲間には優れた白魔導士がいるな」
「そ、そんなことないです……」
ロジェの言葉にそう謙遜しながらラピスは言う。
向かいから来る風は冷たく、ラピスが前方にバリアを作った。
「いいえ凄いわ実際。シンたちじゃなく、私たちの仲間にならない?」
ラキがラピスの両肩を後ろから掴みそう誘う。
ラキは微笑をラピスに見せているが、俺から見たらその笑顔が怖い。
「ご、御免なさい! 私、そういうつもりは全くなくって……」
ラピスは自分の言った言葉を気にするように、ラキの方を恐る恐るといった様子で見る。
そんな様子を見て、ラキはラピスの頭をくしゃりとする。
「冗談よ。でも、本当に珍しい力だわ。私たちも長く革命軍としてあちこち行って来たけど、こんな能力を見るのは初めてよ。ねえ、ロジェ」
ロジェが頷く。
「ラピスちゃんはどこかの末裔か?」
「とんでもないです! ーー私が生まれたのはごく普通の小さな村、パニムの村と言います」
「……パニムの村、懐かしいな。ラピスちゃんは其処の出身だったんだ」
「行ったことあるの?」
「ラキたちと会うかなり昔の話だ。パニムの村の近くには教会があって、世話になったもんだ」
そしてまた懐かしいと1人呟き、ロジェはその時のことを思い返しているようだ。
俺の知らないロジェの過去。ロジェだけじゃない。ラキやテリーの過去も多くを知らない。
その後、ロジェはラピスと話をしていた。聞こえて来るのは村の近くにあった岬がどうだの、誰々は元気かなどのたわいもない話のようだ。
「ロジェのあんなに嬉しそうな顔、久しぶりに見たわ。彼、あまり昔のことを話したがらないから、なんだか新鮮な気分だわ」
訓練時代、ロジェが言っていた言葉の一つ。
”勇者たる者、過去に縛られることなく己の信じた道を突き進んで行け“
過去という名の鎖は自分自身を最も強く縛るものであり、自分の本来行く道を強固に縛り付けるものになりうる。そうならない為にも”今“に集中することの大切さを教えてくれた。
中でも瞑想は”今“に集中するのに適したものであり、物事を俯瞰的に見る力も養わせてくれる。
そのように教えられ、草原の中で座禅を組んでいた時もあった。
瞑想はメアたちとの旅の時も密かにしていたことで、物事を俯瞰して見る力が養われていたのは言うまでもない。
「……確かにそうだな」
そのパニムの村にロジェが何故行ったのかは知らないが、ラピスと話す様子を見ている限り良い旅だったのだろう。
「御免なさい、話し込んじゃった」
そう言ってラピスが戻って来る。
「いいよいいよ、そんな謝らなくても。どうせ、聞こえてただろう?」
「少しだけね」
ラキは摘むように指をロジェに見せる。
「がはは、ロジェともあろう男がお気楽なもんだぜ。俺たちが今いるのはかの魔王の城だぜ?」
「そう言うなテリー。ずっと緊迫した空気も良くないだろう?」
そう言われ、テリーはやれやれといった様子だ。
そうして登っていく螺旋状の道はまだまだ続き、俺たちはラピスのバリアによる防寒の元に歩みを進めていく。
◇
螺旋状の道はまだ続いているが、それも間も無く終わる。
中央に吹く風は一層強く、氷結している部分も随分増えた。魔王の城の外は緑が溢れているというのに、此処だけまるで別の世界のように気温が低い。
寒さだけじゃない。魔虫の間やヴァレトスドラゴンがいた間のように、蒸し暑さや灼熱といった気温の変化が激しい。
魔物のレベルは100を越える奴らばかりで、その上、魔竜までいる場所なんて此処しかない。
魔王の城が独立した全く別の世界と言われていた意味が、此処に来て嫌というほどに理解した。
だが、この城に入って今まで通って来たどの道よりも、この上にする気配は異常なほどに冷たく重い。
「シン、そんなに張り詰めてちゃ気が持たないわよ。もっと楽にして」
そう言っては腰元あたりに後ろから腕を回して来るのはラキ。
「ちょっとあんた! 何してんの!? シンから離れなさいよ!」
なんでメアがそんな風に言う?
「あら、そんな風に言われるなんて。昔は……」
「言わなくていい!」
言うと同時にラキの背後に瞬時に移動する。
「何を?」
が、メアがそう疑わしい目をして聞いて来る。
「がはは! 昔から変わらねえな、おめえは! ふ、ふんっ、何でもないぜ」
最後尾を歩くテリーがいきなり話に入って来たが、まだロジェが俺たちに道を作ったことを気にしているようだ。
「ラキお姉さん、むかしはシンとどうしたの?」
そう興味津々といった感じでセシルはラキに質問をする。
ラキはセシルの耳元で何やら言っている。
「シン、こんどセシルともしようね!」
……あー、ラキめ、余計なことを。
しかも、セシルに聞きに行ったメアが俺を何とも言えない目で見てしまっている。
やめろやめろ、その目を。
まったく、こいつら今俺たちが何処にいるのか本当に分かっているのか?
分かっているだろうが、これじゃあ戦いの雰囲気も出やしない。
少しばかり先を歩くロジェの元に行った。
「ーーどうだ? 少しは気が楽になったか?」
「なり過ぎたよ」
魔王の城に来て“死”を覚悟していたが、此処に来て恐ろしく気が楽になった。
「結構だ。ーーシン、あまり1人で背負い込むなよ。勇者たるもの、どんな時も“死”を意識するのは大切だが、それよりも大切なのは仲間の存在だ」
「もちろんだ」
ロジェにはすっかり見透されているようだ。
俺は1人で長く過ごして来た期間が長過ぎたからか、仲間が出来ても全てが全てを共有することが出来なかった。
ただそれでも、メアたちの存在には感謝しきれないくらいに感謝してるし、こんなところで仲間を失いたくなんかない。
それが返って俺の無意識下に入ったのか、魔王の城に入って分かれた仲間と再会するたびに心の安堵が戻って来ていた。
ロジェとはメアたちほど長く共にはいなかったが、それでも彼は俺の心情を読み取った。それが、ロジェの持つ“心眼”だからだとしても、俺の心情を読み取った事実には変わりない。
「ーーシン、お前にはもう言うまでもないと思うが、この城を攻略するにはあの子らの協力が不可欠だ。それにあの子らだけじゃない。俺たち革命軍、魔物撲滅本部の勇者たちの力だって必要だ」
やはり、ロジェも魔物撲滅本部の勇者たちのことは知っていたか。
「もちろんだ。……ロジェ、一つ聞いていいか?」
「なんでも」
そう言ってロジェは微笑をする。
「この神剣……共鳴のことを教えてくれ」
神剣アスティオンを出してずっと気になっていたことを聞いてみる。
「……いいだろう」
ロジェから神剣の共鳴について聞くにあたり、かなり疑ったが、話している者がロジェというのは事実そうなのだろう。
神剣の共鳴とは互いが互いに影響することで、本来その神剣が持つ力を引き出すことが出来るのだという。
宝剣と神剣でも共鳴はするが、真に影響をするのは神剣同士。
元来、宝剣とは闇と対抗する為に地上に現れたものであり、神剣の真の力を引き出せば魔王とてただでは済まないという。
世間では先代魔王を討伐したのはアルフレッド一行とされているが、実際のところは影で神剣を持つ勇者がいたらしい。
俺はこれまた驚愕のことをロジェから聞いたわけで、改めて神剣アスティオンの存在を確かめるように見つめていた。
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