百花繚乱 〜国の姫から極秘任務を受けた俺のスキルの行くところ〜

幻月日

文字の大きさ
上 下
239 / 251

第238話 神剣の真髄

しおりを挟む


「シンの仲間には優れた白魔導士がいるな」

「そ、そんなことないです……」

ロジェの言葉にそう謙遜しながらラピスは言う。
向かいから来る風は冷たく、ラピスが前方にバリアを作った。

「いいえ凄いわ実際。シンたちじゃなく、私たちの仲間にならない?」

ラキがラピスの両肩を後ろから掴みそう誘う。
ラキは微笑をラピスに見せているが、俺から見たらその笑顔が怖い。

「ご、御免なさい! 私、そういうつもりは全くなくって……」

ラピスは自分の言った言葉を気にするように、ラキの方を恐る恐るといった様子で見る。
そんな様子を見て、ラキはラピスの頭をくしゃりとする。

「冗談よ。でも、本当に珍しい力だわ。私たちも長く革命軍としてあちこち行って来たけど、こんな能力を見るのは初めてよ。ねえ、ロジェ」

ロジェが頷く。

「ラピスちゃんはどこかの末裔か?」

「とんでもないです! ーー私が生まれたのはごく普通の小さな村、パニムの村と言います」

「……パニムの村、懐かしいな。ラピスちゃんは其処の出身だったんだ」

「行ったことあるの?」

「ラキたちと会うかなり昔の話だ。パニムの村の近くには教会があって、世話になったもんだ」

そしてまた懐かしいと1人呟き、ロジェはその時のことを思い返しているようだ。
俺の知らないロジェの過去。ロジェだけじゃない。ラキやテリーの過去も多くを知らない。
その後、ロジェはラピスと話をしていた。聞こえて来るのは村の近くにあった岬がどうだの、誰々は元気かなどのたわいもない話のようだ。

「ロジェのあんなに嬉しそうな顔、久しぶりに見たわ。彼、あまり昔のことを話したがらないから、なんだか新鮮な気分だわ」

訓練時代、ロジェが言っていた言葉の一つ。

”勇者たる者、過去に縛られることなく己の信じた道を突き進んで行け“

過去という名の鎖は自分自身を最も強く縛るものであり、自分の本来行く道を強固に縛り付けるものになりうる。そうならない為にも”今“に集中することの大切さを教えてくれた。
中でも瞑想は”今“に集中するのに適したものであり、物事を俯瞰的に見る力も養わせてくれる。
そのように教えられ、草原の中で座禅を組んでいた時もあった。
瞑想はメアたちとの旅の時も密かにしていたことで、物事を俯瞰して見る力が養われていたのは言うまでもない。

「……確かにそうだな」

そのパニムの村にロジェが何故行ったのかは知らないが、ラピスと話す様子を見ている限り良い旅だったのだろう。

「御免なさい、話し込んじゃった」

そう言ってラピスが戻って来る。

「いいよいいよ、そんな謝らなくても。どうせ、聞こえてただろう?」

「少しだけね」

ラキは摘むように指をロジェに見せる。

「がはは、ロジェともあろう男がお気楽なもんだぜ。俺たちが今いるのはかの魔王の城だぜ?」

「そう言うなテリー。ずっと緊迫した空気も良くないだろう?」

そう言われ、テリーはやれやれといった様子だ。

そうして登っていく螺旋状の道はまだまだ続き、俺たちはラピスのバリアによる防寒の元に歩みを進めていく。





螺旋状の道はまだ続いているが、それも間も無く終わる。
中央に吹く風は一層強く、氷結している部分も随分増えた。魔王の城の外は緑が溢れているというのに、此処だけまるで別の世界のように気温が低い。
寒さだけじゃない。魔虫の間やヴァレトスドラゴンがいた間のように、蒸し暑さや灼熱といった気温の変化が激しい。
魔物のレベルは100を越える奴らばかりで、その上、魔竜までいる場所なんて此処しかない。
魔王の城が独立した全く別の世界と言われていた意味が、此処に来て嫌というほどに理解した。

だが、この城に入って今まで通って来たどの道よりも、この上にする気配は異常なほどに冷たく重い。

「シン、そんなに張り詰めてちゃ気が持たないわよ。もっと楽にして」

そう言っては腰元あたりに後ろから腕を回して来るのはラキ。

「ちょっとあんた! 何してんの!? シンから離れなさいよ!」

なんでメアがそんな風に言う?

「あら、そんな風に言われるなんて。昔は……」

「言わなくていい!」

言うと同時にラキの背後に瞬時に移動する。

「何を?」

が、メアがそう疑わしい目をして聞いて来る。

「がはは! 昔から変わらねえな、おめえは! ふ、ふんっ、何でもないぜ」

最後尾を歩くテリーがいきなり話に入って来たが、まだロジェが俺たちに道を作ったことを気にしているようだ。

「ラキお姉さん、むかしはシンとどうしたの?」

そう興味津々といった感じでセシルはラキに質問をする。
ラキはセシルの耳元で何やら言っている。

「シン、こんどセシルともしようね!」

……あー、ラキめ、余計なことを。
しかも、セシルに聞きに行ったメアが俺を何とも言えない目で見てしまっている。
やめろやめろ、その目を。
まったく、こいつら今俺たちが何処にいるのか本当に分かっているのか?
分かっているだろうが、これじゃあ戦いの雰囲気も出やしない。

少しばかり先を歩くロジェの元に行った。

「ーーどうだ? 少しは気が楽になったか?」

「なり過ぎたよ」

魔王の城に来て“死”を覚悟していたが、此処に来て恐ろしく気が楽になった。

「結構だ。ーーシン、あまり1人で背負い込むなよ。勇者たるもの、どんな時も“死”を意識するのは大切だが、それよりも大切なのは仲間の存在だ」

「もちろんだ」

ロジェにはすっかり見透されているようだ。
俺は1人で長く過ごして来た期間が長過ぎたからか、仲間が出来ても全てが全てを共有することが出来なかった。
ただそれでも、メアたちの存在には感謝しきれないくらいに感謝してるし、こんなところで仲間を失いたくなんかない。
それが返って俺の無意識下に入ったのか、魔王の城に入って分かれた仲間と再会するたびに心の安堵が戻って来ていた。

ロジェとはメアたちほど長く共にはいなかったが、それでも彼は俺の心情を読み取った。それが、ロジェの持つ“心眼”だからだとしても、俺の心情を読み取った事実には変わりない。

「ーーシン、お前にはもう言うまでもないと思うが、この城を攻略するにはあの子らの協力が不可欠だ。それにあの子らだけじゃない。俺たち革命軍、魔物撲滅本部の勇者たちの力だって必要だ」

やはり、ロジェも魔物撲滅本部の勇者たちのことは知っていたか。

「もちろんだ。……ロジェ、一つ聞いていいか?」

「なんでも」

そう言ってロジェは微笑をする。

「この神剣……共鳴のことを教えてくれ」

神剣アスティオンを出してずっと気になっていたことを聞いてみる。

「……いいだろう」



ロジェから神剣の共鳴について聞くにあたり、かなり疑ったが、話している者がロジェというのは事実そうなのだろう。
神剣の共鳴とは互いが互いに影響することで、本来その神剣が持つ力を引き出すことが出来るのだという。
宝剣と神剣でも共鳴はするが、真に影響をするのは神剣同士。
元来、宝剣とは闇と対抗する為に地上に現れたものであり、神剣の真の力を引き出せば魔王とてただでは済まないという。
世間では先代魔王を討伐したのはアルフレッド一行とされているが、実際のところは影で神剣を持つ勇者がいたらしい。
俺はこれまた驚愕のことをロジェから聞いたわけで、改めて神剣アスティオンの存在を確かめるように見つめていた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

譚音アルン
ファンタジー
ブラック企業に勤めてたのがいつの間にか死んでたっぽい。気がつくと異世界の伯爵令嬢(第五子で三女)に転生していた。前世働き過ぎだったから今世はニートになろう、そう決めた私ことマリアージュ・キャンディの奮闘記。 ※この小説はフィクションです。実在の国や人物、団体などとは関係ありません。 ※2020-01-16より執筆開始。

婚約破棄されたので森の奥でカフェを開いてスローライフ

あげは
ファンタジー
「私は、ユミエラとの婚約を破棄する!」 学院卒業記念パーティーで、婚約者である王太子アルフリードに突然婚約破棄された、ユミエラ・フォン・アマリリス公爵令嬢。 家族にも愛されていなかったユミエラは、王太子に婚約破棄されたことで利用価値がなくなったとされ家を勘当されてしまう。 しかし、ユミエラに特に気にした様子はなく、むしろ喜んでいた。 これまでの生活に嫌気が差していたユミエラは、元孤児で転生者の侍女ミシェルだけを連れ、その日のうちに家を出て人のいない森の奥に向かい、森の中でカフェを開くらしい。 「さあ、ミシェル! 念願のスローライフよ! 張り切っていきましょう!」 王都を出るとなぜか国を守護している神獣が待ち構えていた。 どうやら国を捨てユミエラについてくるらしい。 こうしてユミエラは、転生者と神獣という何とも不思議なお供を連れ、優雅なスローライフを楽しむのであった。 一方、ユミエラを追放し、神獣にも見捨てられた王国は、愚かな王太子のせいで混乱に陥るのだった――。 なろう・カクヨムにも投稿

野草から始まる異世界スローライフ

深月カナメ
ファンタジー
花、植物に癒されたキャンプ場からの帰り、事故にあい異世界に転生。気付けば子供の姿で、名前はエルバという。 私ーーエルバはスクスク育ち。 ある日、ふれた薬草の名前、効能が頭の中に聞こえた。 (このスキル使える)   エルバはみたこともない植物をもとめ、魔法のある世界で優しい両親も恵まれ、私の第二の人生はいま異世界ではじまった。 エブリスタ様にて掲載中です。 表紙は表紙メーカー様をお借りいたしました。 プロローグ〜78話までを第一章として、誤字脱字を直したものに変えました。 物語は変わっておりません。 一応、誤字脱字、文章などを直したはずですが、まだまだあると思います。見直しながら第二章を進めたいと思っております。 よろしくお願いします。

【完結】元婚約者であって家族ではありません。もう赤の他人なんですよ?

つくも茄子
ファンタジー
私、ヘスティア・スタンリー公爵令嬢は今日長年の婚約者であったヴィラン・ヤルコポル伯爵子息と婚約解消をいたしました。理由?相手の不貞行為です。婿入りの分際で愛人を連れ込もうとしたのですから当然です。幼馴染で家族同然だった相手に裏切られてショックだというのに相手は斜め上の思考回路。は!?自分が次期公爵?何の冗談です?家から出て行かない?ここは私の家です!貴男はもう赤の他人なんです! 文句があるなら法廷で決着をつけようではありませんか! 結果は当然、公爵家の圧勝。ヤルコポル伯爵家は御家断絶で一家離散。主犯のヴィランは怪しい研究施設でモルモットとしいて短い生涯を終える……はずでした。なのに何故か薬の副作用で強靭化してしまった。化け物のような『力』を手にしたヴィランは王都を襲い私達一家もそのまま儚く……にはならなかった。 目を覚ましたら幼い自分の姿が……。 何故か十二歳に巻き戻っていたのです。 最悪な未来を回避するためにヴィランとの婚約解消を!と拳を握りしめるものの婚約は継続。仕方なくヴィランの再教育を伯爵家に依頼する事に。 そこから新たな事実が出てくるのですが……本当に婚約は解消できるのでしょうか? 他サイトにも公開中。

月が導く異世界道中

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  漫遊編始めました。  外伝的何かとして「月が導く異世界道中extra」も投稿しています。

誓いの嘘と永遠の光

藤原遊
ファンタジー
「仲間と紡ぐ冒険の果てに――君もこの旅を見届けて!」 魔王討伐の使命を胸に集まった、ちょっとクセのある5人の冒険者たち。 明るく優しい勇者カイルを中心に、熱血騎士、影を操る盗賊、癒しのヒーラー、そして謎多き魔法使いが織りなす物語。 試練と絆、そして隠された秘密が絡み合う旅路の中で、仲間たちはそれぞれの過去や葛藤と向き合っていく。 一緒に戦い、一緒に笑い、一緒に未来を探す彼らが最後に見つけるものとは? 友情だけじゃない、すれ違う想いと秘めた感情。 仲間を守るための戦いの果てに待つのは、希望か、それとも……? 正統派ファンタジー×恋愛の心揺さぶる物語。 「続きが気になる」って思ったあなた、その先をぜひ読んでみて!

美味しい料理で村を再建!アリシャ宿屋はじめます

今野綾
ファンタジー
住んでいた村が襲われ家族も住む場所も失ったアリシャ。助けてくれた村に住むことに決めた。 アリシャはいつの間にか宿っていた力に次第に気づいて…… 表紙 チルヲさん 出てくる料理は架空のものです 造語もあります11/9 参考にしている本 中世ヨーロッパの農村の生活 中世ヨーロッパを生きる 中世ヨーロッパの都市の生活 中世ヨーロッパの暮らし 中世ヨーロッパのレシピ wikipediaなど

異世界召喚されました……断る!

K1-M
ファンタジー
【第3巻 令和3年12月31日】 【第2巻 令和3年 8月25日】 【書籍化 令和3年 3月25日】 会社を辞めて絶賛無職中のおっさん。気が付いたら知らない空間に。空間の主、女神の説明によると、とある異世界の国の召喚魔法によりおっさんが喚ばれてしまったとの事。お約束通りチートをもらって若返ったおっさんの冒険が今始ま『断るっ!』 ※ステータスの毎回表記は序盤のみです。

処理中です...