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第235話 修復する城と……
しおりを挟むヴァレトスドラゴンの身体には炎が纏い、翼そのものまでも炎となってしまった。
熱風波がさらに強くなり、亀裂から湧き出る炎までもが大きくなる。
ラピスのバリアは持って後30分くらいか。
ラピスは今まで見せたことがない辛い表情をしている。バリアの維持に体力を使うのか、それともこの熱さからか。
どちらにしても時間は限られている。
「まずはその邪魔な翼斬り取ってやる!!」
レベルがマルプロスを頭上で振り回して止め、両手で目一杯といった感じで振り下ろす。
縦に真っ直ぐな斬撃はヴァレトスドラゴンに猛進していくが、火炎の球によって相殺されてしまう。
あの斬撃を止めるのか。
俺の見立てではかなりの威力の斬撃。
だが、それをも止めてしまった火炎の球はケルベロスの獄炎弾をも超える大きさ。
大きさだけではない。マルプロスの斬撃と衝突し、火柱を作る。
ヴァレトスドラゴンは攻撃の手を止めない。
ヴァレトスドラゴンの体内が赤く光り、業火が周囲に放たれる。
俺は瞬時に斬撃で壁を作り、業火を防いた。
まったく、暴れ放題しがやるな。
地面は燃えに燃え、足場がどんどん少なくなっていっている。
ラピスとテールの安否が気がかりだが、大丈夫なことを祈るしかない。
「生きてたか」
そう言うと、俺の元に着地したレベルは不快な表情をする。
「失礼なやつだ! 僕はただ洞窟でずっと過ごしてたわけじゃない! 魔物を従属させるには力もないといけないからなーーと、そんな話はいいんだ。お前、狙うならあいつの頭を狙え。あの紋章は本来付いていない」
俺はヴァレトスドラゴンの額の紋章と大扉の紋章を交互に見る。
「……なるほどな」
単純なことだった。
そもそも、魔王の城にいるヴァレトスドラゴンが此処にいるという意味を考えれば難しく考える必要はなかった。
ヴァレトスドラゴンはこの場所を守る魔竜。そうなると倒さなければ先に進めなさそうなものだがあの紋章……
翼を広げ上に向く龍のような形で、円を描いている尾の中にはおそらく太陽と思われるデザイン。
魔竜に付くには不自然だと思うのは過去の話を思い出したからだ。
「く、来るぞ!!」
ヴァレトスドラゴンが片腕を上げ、先の手が眩しいほどに光る。
今度は何する気だ。
「レベル、お前はそのままあいつの注意を引いてくれ」
「仕方ないな!」
ヴァレトスドラゴンが片腕を一気に振り下ろした。
恐ろしい魔竜だな。
あんなやつが外に出たとなると、兵団総出で討伐対象になること間違いなしだろうな。
地面に叩きつけられたヴァレトスドラゴンの手によって大きく地割れが四方八方に起きた。
それと同時に地面から炎がさらに吹き溢れ、ヴァレトスドラゴンが初めいたマグマ溜まりまで割れてしまった。
ヴァレトスドラゴンは続け様に攻撃。
火炎放射はさらに俺たちの足元をなくしていく。
もう時間がないな。
ラピスのバリアがもう数分程度しかない。熱をさらに感じ、バリアが途切れつつある。
此処がもし地上ならもう少しまともに戦えただろうが……
攻迅斬波、絶空。
絶空は速技+6以上で出せる攻迅斬波の剣技であり、周囲の影響を遮断し攻迅斬波本来の威力を保つ。
「大ヒット!!」
見えない炎のどこからか、レベルが叫ぶ声。
絶空は炎を斬り、ヴァレトスドラゴンの頭部、紋章がある付近に直撃した。
ヴァレトスドラゴンが割れるような声を出すと、紋章にヒビが入り砕け散るように消え去った。
その時、背筋に悪寒が走った。
ヴァレトスドラゴンが俺を睨み殺すように見、炎の翼を上げて向かって来る。
まずいな、怒らせたか。
魔竜を怒らせるとはつまり“死”だと、勇者たちの間では言われること。
そもそも昔から魔竜を相手にするのは魔王の城に行くのと同じように無謀極まりないことだとされている。
「……直っている?」
不思議なことが起きていた。
怒れる魔竜の下で音がするなと見てみたら、割れた地面が修復していっている。
それに、レベルが現れた時にあった天井付近の穴もいつのまにか修復されていた。
考えられる理由は此処が魔王の城だからということ。
「シンさ~ん! レベルさ~ん! こっちです!」
そう叫んで手を大きく振るのは大扉前にいるラピスだった。テールもいる。
無事だったかあいつら。
と、俺はこの怒れる魔竜をーー。
撃技+5、速技+5を付加した破砕の斬撃を放った。
それを受けて尚も向かって来ようとするのはさすがだとしか言いようがない。
「お前の相手はもういいみたいだ」
そう言い残し、大扉に急いだ。
◇
ヴァレトスドラゴンがいた間を後にすると、両隣りに石柱が並ぶ広間に出た。
次の階への階段は見当たらず、3つの大扉があった。
広さはヴァレトスドラゴンがいた場所と同じくらいか、それより若干広い程度。
「ーーにしても、まさかレベルがこんなところにいるとはな」
ラピスとテールにはレベルのことを話していた。
「僕はまだ諦めていないけどな。魔王に直接会って、そんでもって言ってやる」
レベルが魔王の城にいたのは魔物との共存を魔王に認めさせることだという。
魔王が了承すれば人間と魔物の共存が可能だと力説していた。
「なんて言うのさ?」
テールが訝しげな表情でレベルにそう問う。
「何、簡単なことだ。共存することのメリットーー僕ら人間は移動手段や地上の発展の為に魔物たちの力を借り、魔物たちには人間を襲うことの無意味さを魔王から言ってもらうんだ」
そんな考えが魔王に到底通用するとは思えないが……
レベルの様子を見る限り、本気でそう言っているのだろう。
「……レベルさん、私が言うのもなんですけど、魔王がそんなことを聞いてくれるなんて到底思えません」
ラピスに同感だ。
レベルがまさかそんな甘い考えだったとは。
洞窟で長く暮らし過ぎたからだとしても、それはあまりにも不可能に近い考え。
「どうした? レベル」
ラピスの言葉を聞いたレベルが立ち止まる。
「そんなこと、僕も分かってる。……だけど、何もせずにはいられないんだ!!」
そう言って、歩いて来た方向の右側の大扉の方にレベルは走って行く。
「痛え!! いや、痛くはないけど……誰だ急に!! ……あなたは」
レベルが大扉を開けようとした時、誰かが逆から開けた。
「レベル!? あっ! 皆無事だったのね!!」
開けたのはメアだった。
「メアたちもか」
セシルもアルンも無事まだ生きていた。
「シーン!! セシルたちね、炎のドラゴンを倒したんだよ!」
「炎のドラゴン? まさか魔竜か?」
あのヴァレストドラゴンを?
「違うわよ。フレイムドラゴン。見た感じは魔竜に似てたけどね」
メアの話によると、飛行能力こそないが、翼部分は武器のように尖っており、尾は刺のある鉄球のような形をしていたらしい。
レベルは128。俺がメアと共に戦った不死竜と同等くらいかそれより強い程度だったという。
その後は再会したレベルから魔王の城に関する情報を得た。
俺たちが今いるのは魔王の城の4階。レベルは他にも従属した魔物を連れた勇者3人と来ていたようだが、離れ離れになってしまったという。
レベルはメアと再会出来たことに異常なほどに喜びを見せ、メアはメアでかなり困った様子。
そんな時だった。
突如、空間を裂いて現れたそいつは俺たちの前に立ち塞がった。
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