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第233話 灼熱の間と爆炎竜
しおりを挟む扉を開けた先は長い渡り廊下となっていた。
渡り廊下は外に隣接しており、気温は肌に刺さるほどに痛く冷く、空に向かって伸びている水晶は魔王の城の影を映し出す。
「皆、この先のことだがーー」
進んで来た通りだとすれば俺たちが今いるのは3階。
魔王の城が何階まであるかは不明だが、少なくとも着実に上へと進んでいるのは確か。
俺はこの渡り廊下を進んだ後のことを皆に話した。
ややあって渡り廊下の端まで到達して扉を開けると、其処は3つの道がある広い場所だった。
「俺たちは向こうに行ってみる」
そう言って俺は渡り廊下側扉の正面にある道を指差す。
「じゃあ私たちは……こっちでいいわよね?」
メアの問いにセシルが頷く。
合流後、再度俺たちはチームわけをした。
と言ってもセシルとラピスが交代しただけ。
「お前ら、また生きて俺たちと合流すると約束しろ」
「もちろん! シンたちもね!」
セシルが満面の笑みで言う。
「そうよ。シン、あんたが一番死んじゃ駄目なんだからね」
「それを言うなら皆もだ。ーーだが、もう言うまでもないが俺たちはいつ死んでもおかしくない場所にいる」
生きて、また会う。もちろんそれが出来るに越したことはないが、それが甘い考えだと言うことは此処にいない人間でも理解出来ること。
ただ、そんな甘い考えはこの場にいる誰もが望んでいることだろうし、結局のところ俺たちは前に進んでいくしかない。
「セシルはまた生きてシンたちと会うよ! メアそんな顔しないで!」
「え、ええそうね」
メアの不安そうな表情。いくらここまで進んで来られたとしても、この空気にはやはり厳しいものがあるのだろう。
魔王の城に入る前と後でまるで違う空気。
重く、淀みのある暗く悲しみに満ちたような空気は、半端な覚悟で来てしまった者にとっては絶望的。
メアが半端な覚悟だと言いたいんじゃない。
覚悟を持って来たとしても少しでも心の隙を見せてしまえばたちまち飲み込まれてしまう。
「メア、姉の仇は討ったのは誰だ? メア自身だろう?」
そうメアに問いただす。
「そう、だけど……」
「……メア、俺は俺にしか出来ないことがあるが、それはメアも皆も同じだ。この先の戦いにおいて、それが通用しなくなる場面があるかもしれないが、やれることは最後までやると自分自身の心で決めてほしい」
人それぞれ万人、出来ること出来ないことは人の数だけある。だから、出来ないことは出来る人に任せればいい。
俺たちで言えば戦力の振り分けは、個人の力量や性質の違いで出来る出来ないを補い合う。
メアは自身の胸に両手を当てて深く深呼吸をした。
よし、良い表情になった。
俺の突き出したアスティオンに、青の剣、矢、獣人の拳、リングを付けた手、琥珀色の精霊獣の手が向かい合う。
そうして俺たちは互いを確かめるように見、二手に分かれて進み出す。
◇
道の先からは進んで行くにつれて熱気が流れて来た。
魔虫の間の時のような蒸し暑さではなく、乾ききった暑さは喉の渇きを促進させる。
……何か、いるな。
姿こそ見えないが、そう感じるのは今までの道のりでも何度もあったこと。
勇者として培った感覚は時として自分の身を守る時もある。
「皆さん! 私の背後に!」
そう言ってラピスが作り出したのは前方を塞ぐバリア。
ピリピリとした空気と共に熱風が一気に流れ込んで来た。
ラピスのバリアの中にいても熱いが、なければ熱い程度では済まなかっただろう。
しかも、熱風波と共に俺たちの方へと走って来るのは火山地帯に生息するはずのブラックリザード。
本来の大きさと比べるとやや大きいように感じる。
上に生えている特徴的な二本の牙は非常に長く、マグマの中を泳ぐ為に適した身体は墨のように黒い。
「俺がやろう!」
テールが連続して放った3つの矢がブラックリザードを狙う。
その三体のうち一体は身体を撃ち抜かれたが、残り二体は燃える牙によって矢は焼かれてしまった。
瞬間で、およそ300度近くに達すると言われてる燃える牙は武器の材料としても使われると聞いたことがある。
こんな奴らに足止め食らってる場合じゃない。
地面すれすれを走る斬撃。攻斬波が二体のブラックリザードに直撃する。
その後も、ラピスのバリアによる援護がありつつ、またやって来るブラックリザードや火炎そのものの姿をしたブレイズアームが飛んで来ては斬っては撃っては進んで行く。
そうして開けた場所について見れば、全身から炎の粉を撒き散らすシルムディノサウロが登場。
シルムディノサウロ
LV.124
ATK.199
DEF.190
頭部から尾にかけて生えているのはただのキノコじゃない。
炎の胞子を放出している。
シルムディノサウロは叫び鳴く。
うるさすぎて、大気が振動しているのが分かる。
さすが、火山帯では王者と言われているほどの魔物。
最もここまでレベルは高くないはずなのだが、此処が魔王の城だと言うことでそれは理解出来る。
「皆伏せろ!」
そう俺が叫んだのはシルムディノサウロが別の胞子を大気中に放出した為。
直後、辺り一帯に幾つもの爆発が起こった。
シルムディノサウロが危険だと言われているのは広範囲に渡る攻撃。
離れて観察しようなどと近づいてはこの爆発の餌食になってしまう。
……収まったか。
そう思い、ラピスとテールも無事なのを確認する。
ラピスは再びバリアを張ったようで、俺たちに爆発の影響はなかった。
と、まだ煙が立ち込める場所からシルムディノサウロが口を開けて向かって来た。
攻迅斬波、天魔。
シルムディノサウロが声を上げることなくその場に倒れた。
此処に来て撃技の使用を何度かして、体力が減ることが多くなったが、それも前へ進む為。
ちまちま戦うより、可能な限り少ない攻撃で葬っていく。
そうして、ようやく静かになった場所を散策していく。
こんなところ、セシルにはかなり厳しいな。
暑さもそうだが、獣人であるセシルにとっては熱さそのものが相当堪えるだろう。
人間の俺でさえかなり熱いと思うほど。
「……シンさん、テールさん、今更なのですが私の手に触れてください」
そう言われるように、掌を差し出すラピスと手を合わせる。
とすれば、体感気温が一気に下がった。
「すごいなラピス。こんなことまで出来るのか」
「はい。私は皆さんの役に立つことくらいしか出来ないので、他にも何かありましたらいつでも言って下さい」
謙遜した言葉と共にラピスは微笑する。
「だったらさ、ラピス、さん。この傷も何とかしてくれるかい?」
袖を捲り上げて見せたテールの腕には深い傷痕があった。
「た、大変! すぐに治します!」
リングを付けている右手がぽうっと光り、撫でるようにテールの腕の傷痕の上をゆっくりと移動させる。
傷痕はみるみる治っていく。
ラピスには本当に感心しかない。
これほど、仲間の援護に長けた存在はそうはいないだろう。
解毒、治癒、はたまたラピスの能力である上昇は対象のステータスを向上させる。
「ーー治った。ありがとう、ラピスさん」
「そんなとんでもないです! ーー私は皆さんのように前に出て戦うことは出来ません。だから、後ろから皆さんの援護をさせてください!」
両手を前におじきをする形でそう言うラピス。
「頭を上げろ、ラピス。お前は俺たちの仲間になった時から必要不可欠な存在。これからも頼むぞラピス」
「はい!」
ラピスの身に付けるリングの力、そして彼女自身の能力の力は言うまでもなく優秀。
それにラピスの存在は何もそうした力や能力だけじゃない。
メアやセシル、テールも俺と偶然出会ったわけだが、その者が持つ人柄や性格、思考の傾向が少なくとも合っていただろうから此処まで来れたのだとつくづく思う。
その後も感じ取れるほどの焼けるような熱さはラピスのリングの力によって大きく緩和されるが、俺たちの視界に入ってしまった存在によってだろうか、若干熱さが戻ってしまった。
「ごめんなさい!」
そう言ってラピスは再度体感気温を下げさせてくれた。
無理もないか。
あんな存在を見てしまったら同様くらいする。
どろどろと遙か下に流れていたのはまさしくマグマだと思われる。
そして、そのマグマの中央に蹲るようにしていた存在。
ヴァレトスドラゴン
LV.142
ATK.340
DEF.258
魔竜、ヴァレトスドラゴン。
エルピスの街のギルド、ウェストランドに置いてあった魔竜の生態文献にも描かれていた魔竜。
その力、天をも焦がし、雨をも蒸発させ、地上から水分を奪い取る。
爆炎竜の名を持つ魔竜、ヴァレトスドラゴンがそこにいた。
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