百花繚乱 〜国の姫から極秘任務を受けた俺のスキルの行くところ〜

幻月日

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第231話 新たなる魔人誕生

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「ーーそれでいくぞ」

セシルとテールが頷く。

俺が提案した作戦とは、魔の巨人の持ち主であるベリアルを直接叩くというもの。
そうすれば、持ち主を失った魔の巨人は消え去るだろうという考えだ。
攻撃してもさほど効果の薄い魔の巨人を相手にするだけ無駄なだけ。
以前、俺がメアと共に対戦した魔王群側の勇者ゴーズと不死竜の時を参考にした。
魔剣が持ち手であるベリアルと深く繋がっているだろう前提だが。

再度、俺たちは広間に出た。

しかし、嫌な雰囲気だな。
ベリアルの前にはそれぞれ壺が置いてあり、何やら言っているようだ。
それにこの魔の巨人がいるのはどう考えてもベリアルの邪魔をさせない為にいるようなもの。
その証拠にベリアルを守るように立ち塞がっている。
次の階への場所もおそらくベリアルのいる扉の先にあることから、まずはこの魔の巨人を消さなければいけない。

「ちっ!」

魔の巨人が俺の行く手を邪魔して来る。
斬撃を放つが、やはりたいしたダメージは入っていないように見える。
ベリアルが何をしようかなど知ったことではないが、良いことではないだろう。

魔物がそれぞれの壺の中に吸い寄せられるように入っていく。

「こんな時に新手かい! ……あの魔人、あの時の」

テールが言うように、外から現れたのは2体の魔人だった。
しかも、うち一体の魔人は俺たちから逃げた化ける魔人。

「オーオー、サワガシイカラキテヤッタラ、イツカノクソユウシャジャナイカ」

俺とメアが最後に対戦した時の姿ではないが、あの魔人には見覚えがある。

「シャシャシャシャ。ドイツダ? トュレヲマカシタユウシャハ」

対し、もう一体は一本角が目立つ魔人。
トュレ、そう呼ばれた魔人が俺を指差した。

「……シャシャ。イヤナケンモッテンジャンヨ」

「ダロ? オレハモウゴメンダゼ、アノユウシャノアイテハ。ソレニ、オレタチガキタノハアラタナルドウシヲムカエルタメダ」

「シャシャ、ソウダッタソウダッタ」

2体の魔人はベリアルの元に行く。

新たなる同士……魔人か。
つまり、ベリアルは今まさに魔人を誕生させようとしているのか。
魔物から魔人が生まれるなんて初耳だが、阻止したいところ。

「ちっ! さっきからーー」

魔の巨人の攻撃がしつこい。

迅斬波、破砕の斬撃。
加速した斬撃波から繰り出される破砕の斬撃は通常時より3.5倍の威力。

魔の巨人は宙に浮くほどの衝撃を受け、壁を大きく窪ませるほどに激突した。
ベリアルがその様子を暫し見たが、構わずといった感じで並ぶ壺の前で両手を上げた。

「シン! どうする!?」

「決まってるだろ!」

そう言って加速する。
魔人の面倒さ、厄介さは体験済み。今まさに誕生しようとしているのが使徒の魔人なら誕生する前に止める!

「シャシャ! ジャマハサセナイ!」

前に立ち塞がったのは一本角の魔人。
なるほど、思ったより速いな。
と、関心してる場合じゃない。

「ゼロ、ソイツノケンニハキヲツケロ」

「シャシャシャ! アタラナキャイクラソンナケンモッテテモイミナイジャン!」

ゼロ、そう呼ばれた一本角の魔人が俺の周りを高速移動する。

へぇ、魔人にしては速いな。
今までの魔人は速さというより、どちらかというとパワー型が多かった。
対しこのゼロとかいう魔人は速さという点ではそこらの勇者より速いように感じる。

「シャアッ!?」

と言っても俺の眼は追えているが。
そこらの勇者、せいぜいランク7、8の勇者くらい。
速技は+4くらいといったところか。

攻迅斬波が魔人ゼロを一閃した。

その時、魔の巨人が吸い寄せられるようにベリアルの方へ戻っていく。

「ツイニ……」

魔人トュレがそう呟いた。

ベリアルの前に並ぶ5つの壺から飛び出してきた黒い煙が、一箇所に集まり渦を作っていく。

「来たれ魔人ーーその力振るいて、数多の敵を討ち消せ」

渦が下の石につく。
そして黒い渦から翼が一つ、また一つと広がる。
翼が羽ばたくと黒い渦が消えていく。
白い目に全身が焦げたように黒く、自身の肉体を確かめるように手を握ったり開いたりしている。

「シャシャ……コイツハマタカワッタヤツガタンジョウシタナ」

それはお前もだろう、そう俺は心の中で呟く。
俺が放った攻迅斬波の傷が魔人ゼロの体に入っているが、まだ立っている。

「ベリアル、ニンゲンノオマエガマサカ、ディー・ヴィゾフヲトナエラレルトハナ。マオウサマモサゾオドロキニナッタダロウナ」

ディー・ヴィゾフ?

「吾輩がなにゆえ魔王群に入ったのか……。魔人共よ、吾輩は感謝する」

肩を震わせるベリアルは、マントのように長い服を揺らす。

……あいつ、人間じゃないのか?
俺が疑問に思ったのはそこだ。
魔人の言葉からするに、ディー・ヴィゾフとやらを唱えられると魔人を誕生させるとそのままの意味で解釈出来る。
が、ベリアルが人間であるとすれば魔人を誕生させるなど不可解すぎる。

「っ!?」

動く素振りもなく俺に接近した白い魔人。
アスティオンに躊躇なく斬りかかって来やがった。
鋭い腕、まるで刃物のようだ。

ただ、やはりといったところで引く。
誕生したばかりの魔人は魔物特効特性は知らなかったか?

撃技+4の解放、攻迅斬波は白い魔人に直撃。

「……嘘、だろ」

だが、あまりの唐突なことに思わずそんな言葉が出てしまった。
俺の放った攻迅斬波を白い魔人があろうことか食ってしまった。

「そう驚くことはない。こやつは使徒の魔人イェト。いかなる物理的攻撃を吸収する。無論、斬撃とて同様。ーーそして」

まさか……

魔人イェトが頭を突き出し黒い口を開ける。
そこから放たれたのはまさしく俺の放った攻迅斬波だった。
俺が即座にそれを受け止めると同時に魔人イェトを深く観察する。
魔人イェトが返して来た攻迅斬波はアスティオンを弾き、天井まで飛んでいった。

自分が出した技をまさかこんな形で受けることになるとはな。

「シャシャシャ。イェトカ、キニイッタジャン! ベリアル、イイシゴトシタカラマオウサマモサゾカシオヨロコビダロウナ!」

「ふん。ーー名も知らぬ勇者よ。お前は先ほどの2人とは違い少しはやるようだが……吾輩を含めてこの場の全員を倒さなければ次の階には進めんぞ」

今、この場にいる敵は4。
魔王群側に付いた勇者ベリアル、新たに誕生した魔人イェト。そして化ける魔人に速さに長けた魔人。

「なら、話は簡単だな」

全員倒せば良いだけの話。

「出来ると思うのか?」

「当たり前だろ」

笑い声が聞こえる方を見れば、外から来た魔人2体が大口を開けていた。
ベリアルは黙りこんでいる。

「笑止千万。仮にも、吾輩たちを倒すことが出来たとしても、この先には魔竜、そして魔の王がいる。それを理解した上での発言か?」

「だからそう言ってんだろ」

小さくふっと言ったベリアルは巨剣を取り出した。

「吾輩がこの剣を振るうのは最後。それまでは鑑賞タイムとさせてもらおう」

「ケッ、オレタチガサキニイケッテコトカ」

「シャシャ、イイジャン。ソレヨリヨ、コイツラコロシタラオレタチシトノマジンニモドレルカナ?」

「カノウセイハナクモナイナ。アンナタンジョウシタバカリノマジンヨリシタナンテキニクワネエガ……ソンナコトハイマハドウデモイイ!! ーー!!?!」

その時だった。
下を走る氷結が魔人トュレを氷漬けにしてしまった。
瞬間、頭上から落ちて来た特大の氷柱によって氷漬けのトュレは粉々になった。

やっと来たか。

「状況は私たちが有利ってところかしらね」

「やっと皆さんに会えました」

メアとラピスの登場。

「ナナ、ナンダコノモウジュウ!?」

猛獣。琥珀色の毛をしたそいつは魔人ゼロを切り裂く。
ゼロは反撃をするが、パッといなくなってしまうそいつに後方からの攻撃、そして消えてしまった。

残りはベリアルと魔人イェトのみ。

「良い時に来たな、お前ら。次は」

セシル……
ばっと前に出たのはセシル。

「やりたいのか?」

そう聞くとセシルは頷く。
良い機会だ。セシルの戦いっぷりを見るとしよう。
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