百花繚乱 〜国の姫から極秘任務を受けた俺のスキルの行くところ〜

幻月日

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第228話 魔虫の間

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2階に上がると思いの外蒸し暑く、着ている勇者衣も若干ながら汗ばんで来る。
セシルは分かりやすく耳と尾を垂らしている。元々寒いところを好んで移動している獣人族にとっては、蒸し暑い場所は苦手のようだ。

「テールは暑くないのか?」

そう聞いたのはテールは汗一つかいておらず、けろりとした表情をしていたから。

「暑いけど、俺は長くカリダの村に住んでいたからこれくらいどうってことないさ」

カリダ村にはセルモクラ鉱石というものが存在し、特に寒い時期には大活躍する。それは俺もメアたちとの旅路の中で寄ったから体感済みだ。
セルモクラ鉱石があるのは一年中だそうで、たとえ季節は変わっても在り続けるのは、暑い時期には相当厳しいものがあるだろう。
それを経験しているテールにとっては、こんな暑さどうってことないということか。

「大丈夫か? セシル」

そう言って、ボトルに入った水を渡した。

「ありがと」

セシルはボトルを受け取り、水をぐびぐびと飲む。
よほど喉が乾いていたのだろう。次いでに俺も水を飲み喉を潤す。

そして改めて無駄な戦闘は極力避けるように2人に言い、目指す次の階段へ行くことだけを伝える。
メアたちも何処からか上がって来ていればいいのだが……

進み始めると城の中とは思えないほどに生茂る草木。
その草木はフィールドに生えているものに比べると、若干ながら色が濃いように感じる。

時々、セシルの様子を確認しながらそんな場所を進んでいく。

「魔虫か」


アーマードマンティス
LV.106
ATK.166
DEF.156


レベルの割に防御力が高いのは、その名が示す通り装甲のような硬さを持っているからだ。
観察眼に情報が開示されていることを考えると、過去に魔王の城に挑んだ誰かが討伐したか、もしくは別の場所か。
別の場所と言えばディストピアには魔虫が多く生息しているそうで、そこの生態系は魔虫をトップとするヒエラルキーが築かれているそうだ。

「セシルたちは援護を。突きっきる!」

そう2人に頼み、俺はアーマードマンティスの装甲に破砕の斬撃を放つ。
そうしていれば、続々と魔虫の数も増えていく。
俺は行く手を阻む魔虫を斬りつつ、道を作っていく。

「ーーこいつは」

また面倒な魔虫が現れた。


レマオモスキート
LV.111
ATK.182
DEF.125


この魔虫の厄介なところ。それは体の半分ほどもある両腕から繰り出されるパンチ。

撃技+3を解放し、斬撃波をレマオモスキートに放つ。

「なんてパンチするんだ!」

テールは左腕で顔を覆う。

レマオモスキートはシャコのような両手を持ち、それから繰り出されるパンチは軽く衝撃波を発生させる。

「じゃま……しないでっ!」

セシルが体勢を低くし移動。
レマオモスキートのパンチをサッと躱し跳躍。
上からの強力な蹴りはレマオモスキートを地面にめり込ませた。
それでも高速で動く羽根で起き上がろうとするレマオモスキートに対して、俺が攻斬波、烈焔による止め。

「ぞろぞろと……」

いつの間にか魔虫が集まって来ていた。
知っているやつもちらほら見られるが、魔王の城というだけに初見の魔虫もいる。
その中でも特にやばそうなのは、長い触覚をしきりに動かして二足で樹の上で立つ魔虫。
二つの腕の他に腹あたりから腕より小さな6つの腕があり、おまけにレベル130と来た。
そいつが地面に降りると、辺りにいた魔虫がささっと道を開ける。


フォカロル
LV.130
ATK.⁇?
DEF.⁇?


ステータス情報が開示されていないのをみると、討伐されたことがないということ。
魔王の城にしか生息しない魔物ということだろうか。
俺もこんな魔虫見たことがない。二足で立っていると、どうも魔人に見えてしまうが、そういう魔物はレベルに関係なくたまにいる。
仮に魔虫の王国とも言われるディストピアにいたとしても、レベル130なんてそうそうフィールドにいない魔物。

「シン!」

セシルが叫ぶ。

フォカロルがいきなり俺を襲って来た。
3つの爪の手をアスティオンで防ぐ。

「大丈夫だ。悪いが、2人は先に行ってくれ。こいつらは俺が食い止めておく」

フォカロルを含め、ざっと20~30体。

「……分かった、とでも言うと思ったかい?」

「キィ!?」

テールの弓がフォカロルの肩に命中する。
セシルは胸に手を当てると、毛の色が蒼く変化した。
見たことのないセシルの姿。
姿だけじゃない。その速度によって次々と辺りの魔虫を瀕死状態にしていく。
それにフォカロルをよく見れば体を震わせているが動けていない。
フォカロルの肩に当たったのは金赤の光の矢。

まったく、これで全滅じゃあ話にならないぞ。
と言ってもセシルは何やら俺が見たことがない姿になるし、テールはテールでまだ余裕が見られる。
俺もまだまだ本気を出してはいないが、本当に戦うべき相手の為に虫共の相手なんてまともにしていられない。

フォカロルが徐々に動き始め、口の中にまた別の口が見え隠れする。

「お前ら……。あくまでこの次の階に行くことだけに集中しろ。魔虫は動きをとどめておく程度にな!」

そう言ったのと同時に迅斬波を放つ。
対してフォカロルはまるで斬撃のような攻撃をして来る。

テールが放つ相手の動きを一時的に止める矢。あの矢は相手の動きを止めるという点では非常に強力だが攻撃力にやや欠けている様子が見てとれる。
フォカロルの肩には矢の刺さった跡はあるものの、たいしてダメージのないようだ。
だが、今、魔虫と戦闘する様子を見る限り威力のある矢も放てるのが見受けられる。
そもそも俺は弓の勇者との面識はほとんどなく、矢を放って敵を討つということくらいの認知しかない。
金赤の矢のことは昔ギルドで聞いた程度で、勇者の多くが接近戦の武器を使う者たちがほとんどで、弓を選ぶ者は全体的に少ない傾向がある。
そういう希少な点でテールが一時的にとはいえ仲間になったのは心強い。
というのは俺のささやかな期待ではあったが、金赤の矢の力を持つ勇者を一度は見てみたかった。
そんな勇者が仲間になったのは偶然だとしても魔王の城を攻略する為に非常に有難い存在。

それにテールだけじゃない。
セシルが見せた別の姿は今まで俺が見てきた彼女の動きではない。
一言で言うと速い、それだ。

と、俺も2人のことを考えている場合じゃなかった。

久しぶりに速技を活かした剣技をフォカロルに向かって放つ。
自身の身体速度を大幅に向上、それにより四方から攻斬波を放ちフォカロルを集中して狙う。

手応えはあり……だったが、こいつ、あの攻斬波を避けようとしたのか。
だが、フォカロルのダメージは大きい。フォカロルの右肩辺りから右脚元かけて攻斬波の斬り傷が大きく入っている。
それでも何の躊躇いもなく生きている片方の3つの爪で襲って来る。

「何っ!?」

予想外なことが起こった。
大きく損傷した箇所から腕が生えて来た。
それはアスティオンに触れた瞬間、魔物特効特性によりダメージが入ってしまったようだが、問答無用という感じで押して来る。

何する気だこいつ!
そう思い、バッと屈んだ。

俺がいた直線上に放たれたのは光線。
樹に穴が空いてそこから煙が上がっている。
フォカロルの口から出てきたまた別の口が甲高い鳴き声を笑うように出している。

「今度は何する気だ?」

フォカロルの腹から絞り出されるように出て来たのは卵のような物体。
その卵は直ぐにヒビが入り、若干ながらフォカロルに面影のある魔虫が出てきた。
そいつは地中に潜ってしまった。

厄介なのはフォカロルもだが、今の魔虫も面倒そうだな。
というのは観察眼が示したレベルは100。
フォカロルと比べればレベルは30も低いが、生まれたばかりでレベル100という異常さ。
それにステータスが表示されなく他の情報がないという状況。

俺は速度を解放しておく。

気付き、素早く躱した。
俺の背後の地中から飛び出して来たのは長くグロテスクな胴体。
たった今生まれたばかりでもうあんなに成長しやがるのか。

俺を捕えようとしたのだろう。
悔しそうな鳴き声をしてまた地中に潜っていった。
注意は潜っていった魔虫だけではいけない。
俺に深い傷跡をつけられたからか、若干の距離を取りながらフォカロルは細かな光線を撃って来る。

だが、フォカロルのペースに呑まれてはいけない。
時折、斬撃波で反撃しつつ、機会を待つーー。

そしてまたフォカロルが生み出した魔虫が地中から襲いかかって来た。

「シン!!」

そう叫んだのはセシル。
俺はフォカロルが生み出した魔虫に捕まった。
フォカロルはそれを好機をしたようで、一度目に出した光線を俺めがけて発射した。

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