百花繚乱 〜国の姫から極秘任務を受けた俺のスキルの行くところ〜

幻月日

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第225話 伝説の魔獣

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羽衣を着ており目元付近だけ見える仮面を付けた者の登場は、スカルエンペラーが道を開いた。魔物のような仮面を取り、表情一つ変えず俺たちを見る。

「人間? ということは……」

こんな場所にいる、尚且つスカルエンペラーたちが道を開けた。
そんな人物、限られる。

「まさか、たったの三人で来たわけじゃないよね?」

俺はセシルとテールに視線を送る。
男は内袖あたりに仮面を入れて腕を組む。

「沈黙か。同じ勇者なのに仲良くしてよ」

やはりそうだった。

「同じ勇者? 違うだろお前らは」

そういうと男は深い溜息を吐いた。

「寂しいね、そんなことを言われるなんて。魔王群にいるとしても同じ勇者には変わりないよ」

一体、何人の勇者が魔王群側に付いてるっていうんだ。

「同じ勇者? よく言うぜ。俺たちの邪魔をするつもりなら遠慮なく斬らせてもらう」

そう言いながらアスティオンの切っ先を男に向けた。
すると男はまた深い溜息を吐いた。
かと思うと天井を見ては鼻を啜らせる。

「泣いてるの?」

セシルがそう男に問う。

「そうだよ。だって悲し過ぎるじゃないか。あんな姿になってまでこんな場所に……」

なんだこの男。何企んでやがる。
そう思ってしまったのも、この男は魔王群側に付いた勇者だからだ。
本来受け取れる言葉の意味さえも嘘に聞こえてしまう。

そんな時、バキバキと床に転がっている人骨を踏み付ける音がする。

「毎回毎回此処に来てそんな面してりゃあ、あの亡霊たちに情が移るぞアルギナ」

聞き覚えのある声。
男はその声がした方を向く。

「ジバルド……これ以上死者を愚弄するのはやめろ」

やはりジバルドだった。
蹴る音、髑髏が勢いよく飛んで来た。
それを男は素手で取る。

「やめろだ? 言うじゃねえかアルギナのくせに。てめえは初めからそうだったよな。こっち側に付いたにも関わらず人間襲わせるのは俺らの役目。エティネルも何を考えてこんな野郎を置いているんだか」

ジバルドは俺たちを見るが男に顔を戻す。

「さてね、魔王の考えが俺たち人間に分かるはずがないよ」

「それもそうだ、がーーアルギナ、何でさっさとあいつらを殺らない? お前の能力がありゃ、あいつらがこの城に入って来た時点で闇討ち出来たんじゃねえのか?」

ジバルドは俺たちに親指を向けながら話す。

「ふっ、そんな卑怯なことは俺はしないよ」



「うぐっ!? ……アルギナぁ、てめえ、どういうつもりだあ!?」

何が起きたのか、ジバルドが胸元を押さえている。

「速いね。殺意は消していたはずなんだけど」

「そんなこと聞いちゃいねえ! 何故! この俺を刺した!? 事と返答次第じゃあ俺はお前を殺すことになる!」

アルギナは懐に手を入れ、またあの仮面を取り出した。

「……シン、これもしかして」

「かもな」

仲間割れ、その可能性はある。

「タイミング、そして十分な戦力。もう隠す必要はなさそうかな」

アルギナは耳元を触りながらそう言い、仮面の表面がバラバラと剥がれ落ちていき白い仮面へと変わっていく。
ジバルドは息を荒くさせてアルギナの返答を待っているようだ。

「堕ちた勇者ジバルドよ。俺は魔物撲滅本部第一軍、アルギナ=シェーネス。漸くにっくき闇を晴らせそうだよ」

白い長剣。アルギナが剣身を下から上へとなぞっていくとさらに白く光を放つ。
その光は周囲を明るく照らし、俺たちがいる場所の構造が確認出来た。

「魔物撲滅本部だと……何が闇を晴らすだ……。来い!! ツヴァイバーン!!」

奥の暗闇から眼を光らし、二つの頭を持つツヴァイバーンが飛んで来た。

「悪いね、というわけだよ。あいつらの相手は俺がする。君たちは君たちのするべきことをしてくれよ」

「逃さねえよどいつもこいつも!!」

ツヴァイバーンの雷と炎が向けられる。
が、それを断ち斬る一閃をしたのはアルギナだった。

「お前らの相手は俺だけだよ。行ってくれ」

本当にアルギナはジバルドの仲間ではなかったということか。
魔物撲滅本部からのスパイ。国からの指示だとしても、相当の実力者ではないと無理だろう。
魔物撲滅本部の拠点があるのはソフィア王国だが、主要指示を出しているのはシーラ王国。
無事に魔王の城から出ることが出来たらあの姫様には色々と聞きたいことがある。

そうして俺たちは邪魔をして来るスカルエンペラーを倒しながら先を進んで行った。





二階へ行く為の階段を探しながら進んでいると半円状の道が目の前にあった。

「絶対進んで行ったら何か出るよな~。よおし、ここは一つ俺の矢で」

テールが矢を取り出し弓を構える。

「待て、メアたちが居たらどうする気だ」

テールは気づいたようにサッと矢を戻した。
が、直ぐにまた矢を取り出して弓を張る。

メアたちではない、何かが奥にいる。グルルルと大きく唸る声。
俺は攻斬波による烈焔を真っ直ぐに放つ。本来の使い方ではないが、それは半円状の道を照らしていく。

「こんなところにもいるのか」

二足歩行で向かって来ていたのは数体ほどの魔獣。

リカンスロボスはいわゆる狼男というやつで、魔王の城でなくともその生息域はほぼ大陸全土。違うのはその圧倒的に高いレベルと体格。
魔王の城に生息するリカンスロボスともなるとこうも違うのか。


リカンスロボス
LV.116
ATK.180
DEF.129


一体のリカンスロボスのステータスを表示。
防御はそれほど高くない。だが、暗いところでの動きがこいつらは速い。
リカンスロボスが手を下に付けて加速し、半円状の道の横壁を駆けて来る。

「オオオオオ!!」

およそ3メートルほどの魔獣は上からギラリと鋭い爪を立てて飛び込んで来た。
それに向かったのはセシル。リカンスロボスの懐に入り込み強力な連続した蹴りを三度。吹き飛んで行くリカンスロボスは天井に激突。

「懐かしい敵だ」

俺がリカンスロボスと初めて遭遇したのはまだ勇者ランク3の時。
闇夜の草原で追い回され、挙げ句の果てスタミナ切れで危うかったことを今でも思い出す。
最終的には朝を迎え日の光を浴びたリカンスロボスが退散する形で事なきを得たが。
今ではこうして何の問題もなく立ち向かうことが出来る!

アスティオンの刃に噛み付いたリカンスロボスの頭半分を斬り飛ばした。
残るリカンスロボスが引いていく。
魔物でも知能指数が高ければ、自分がこの後どうなるかが分かるのだろう。



問題は……

「お前らこんな話を聞いたことがあるか?」

「何だい? 突然」

「なになに?」

セシルは興味津々といった様子で寄って来る。

「ーー昔の話だが、ある村に一匹の仔犬が生まれたそうだ。ただ、その仔犬には3つも頭があって村の連中はきみ悪がって殺してしまったらしい」

「なんだってこんな時にそんな話を」

「まあ聞け。……セシルも耳を塞いでないで」

「だ、だってぇ」

メアも怖がりだが、セシルも結構怖がりなところがある。

「その後の話だ。ーーそれから一月後、村の連中の死体が森の中で発見されることになるんだが、そいつらは皆頭だけなかったって話だ」

「シンッ! こわい話だめー!!」

セシルがなかなかの力で俺の腕を掴んだ。
セシルを宥めつつ、俺はセシルに掴まれた腕を摩る。

「そ、その話が何だってんだい?」

「ーーその後、生き残った村の連中が死体を片付けていると馬鹿でかい犬の影を見たそうだ。それも3つの頭を持つ影を」

俺が話し終わるとセシルは涙を浮かべて俺の方をじっと見る。怒っているのだろうか。だが、この話をせずにはいられなかった。
テールは何かに気づいたようで、矢を取り出す。

「「「グルルルルル」」」

嘘か真か、この世には300年近く生き続けている魔物がいるそうで、そいつはあのベヒーモスと同格、もしくはそれ以上の強さを持つらしい。

人々は言う。
あれは魔物じゃない、地獄からの使者が我々人類を食い殺しに来たのだと……


魔獣ケルベロス。
3つの頭を持ち、その体、漆黒の闇を纏ったような魔獣。
俺たちの目の前にいる魔獣は、まさにそいつとしか思えなかった。

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