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第224話 髑髏
しおりを挟む魔王エティネル。
見た時はまさか魔王とは思いもしなかったが、あの平然たる余裕。そして王に相応わしい王冠、鬼のような黒い王冠はあいつの存在を魔王だと示しているようなもの。
見た目で判断してはいけないというのは世の常だが、纏うオーラがなければ誰もあいつが魔王などとは思わないだろう。
大気をピリピリとさせるほどのオーラ、それがまだ平常時だとすれば魔王の力が計り知れない。
「いいか? 此処からは各自各々の戦いだ。覚悟は……聞くまでもないな」
魔王の城に足を踏み入れたことで、俺たちはもう引き返せない場所まで来ている。いや、大渦から落ちて来た時点で既に引き返せない。
「当然でしょ! それじゃあさっそく、二手に分かれて先を進むわよ! グズグズしてたら標的になるわ!」
「それもそうだ。俺はセシルとテール」
俺、セシル、テールのチーム。
メア、ラピス、アルンのチーム。
このように二手に分けたのには理由が二つある。
一つは密集して動くことによるリスク回避。魔王の城だ、何か一網打尽に出来る罠があればそれで終いになってしまう。
もう一つは戦闘力の分散。分散、こう聞くと良くないことのように思えるが、それは相手がどのような敵か分かっている場合に言えること。
俺たちが今いるのは未知が渦巻く魔王の城。
俺側のチームは接近戦、遠距離戦が出来るように構成し魔王の城を突き進んで行く。
メアの方はラピスが攻守を底上げしてくれるが、戦闘出来るのがメアとアルンしかいない。
そこでメアたちには戦闘よりも魔王の城に眠る秘宝について優先して探すように言ってある。
もちろん俺側のチームも探しはするが、あくまで俺たちは突き進んで行く構成。
攻撃こそ最大の防御というやつだ。
メアの方にはもしもの時の為にアルンがいる。
問題は……
俺はセシルの方を見る。
「どうかした?」
セシルが首を傾げて聞いてくる。
「セシル、しばらくは前に出るな」
また急に意識を失いでもすれば、それこそ危険極まりない。
「……うん、わかった」
セシルはそう返事をする。
サラがセシルの意識を退けて出て来たことはもちろん彼女には伝えている。
セシルはそれを汲み取ったようで、自身の胸にそっと手を当てる。
「ーーメア、必ずまた」
「ええ。シンこそ絶対に死ぬんじゃないわよ」
そうして、俺たちは二手に分かれて魔王の城を進み始める。
◇
しんとした広間。
天井から幾つも吊るされている不気味な照明は吐き気がするものだった。
「趣味悪いな」
天井に吊るされていたのは一体幾つあるのかと思うほどの髑髏。その一つ一つの中には明かりとなる炎が宿っている。
「セシルは見てない! セシルは見てない!」
セシルは両耳を手で押さえて目を強く瞑りながら繰り返して言う。
それにひきかえテールはと言えばただただその照明を見ているだけ。
そして1本の矢を取り出して手に持ち、天井に向かって突き出したかと思うと、目を瞑る。
そんな様子をセシルが覗き込むように見て、天井を向いては手を開いてぎゅっと閉じる。
セシル、テール……
何を思ってそうしているのか。
俺が出来ること……
アスティオンを握り締め、見せるように天井に向けた。
カラカラカラと、何かが転がる音が聞こえて来た。
俺たちが足を付けている場所と天井は30メートルくらい離れており、足元はそう明るくない。
そんな場所を進んでいる。
「シン、セシルはとても悲しい」
「ああ、俺もだ」
眼前にはおびただしい数の人骨があった。
全身あるものや腕だけのもの脚だけのもの、大きく欠けた髑髏は見るに耐えない。
俺は今一度此処が魔王の城だと自覚した。
そんな時だった。
冷気が足元に流れ込んで来る。
暗くても分かるほどの白いもやが出るほどの冷気。
「まったく、俺はこいつとよくやり合うな」
現れたのは俺の記憶に強く残る魔物だった。
スカルエンペラー
LV.119
ATK.169
DEF.150
紅い目が光る髑髏、コォォと不気味な音を初めて聞いた時は寒気がしたもんだ。
「ヴォオオオオオオオオオオオオオ!!」
相変わらず酷くて煩い声だ。
足元が一気に凍っていく。
さらにはチリリリと細かな音が聞こえて来る。
俺たちはそれに気付き足元を滑らせないようにして避ける。
無数の凍りの礫。足元の凍りにヒビが入る音。
「ヴォオッ!?」
スカルエンペラーが真っ二つになる。
「さすが! シン!」
「その強さ、同じ勇者として嫉妬するよ」
俺は瞬時にスカルエンペラーに接近。
攻斬波から繰り出された烈焔はスカルエンペラーを一撃で焼き斬った。
その炎は斬られたスカルエンペラーを焼き周囲を明るく照らす。
「ーーなるほどな」
此処が魔王の城だということを再認識させられた。
「これはさすがに引くかい?」
テールがそういう訳。
それは並ぶように待ち構えていたスカルエンペラーが奥にいたからだ。
「いや、これは逆にチャンスと捉えるべきだ。俺たちは勇者、ここでステータスを上昇させておくのも悪くない」
それは獣人であるセシルにも言えること。一般人ではなく戦うことを生業としている者であれば勇者も獣人もステータスへの影響は同じ。
「……まあ、そうかもしれないけどさ。獣人さんはどう思う?」
テールはセシルのことを獣人さんと言う。
「決まってるよ!」
セシルは戦う気満々といった感じだ。
「セシル、あまりやり過ぎるなよ」
頷き、セシルの超加速が発動する。
今や俺に次ぐ攻撃力とスピードを持ち合わせているセシルにとっては、凍りを操るスカルエンペラーだろうと向かっていくことが出来る実力。
「すごいな彼女」
テールが顎をさすりながらそう言った。
「関心してる場合か、俺たちも行くぞ」
スカルエンペラーの数はざっと見て13体。
セシルは華麗な動きでスカルエンペラーの攻撃を躱しながら本体を叩いていく。
直接触れてはいないようだ。
拳を突き出す瞬間に衝撃を出している。
超速により繰り出される拳はスカルエンペラーを連打の如く打ち倒す。
そしてテールの矢は放たれたと同時に金赤の尾をひきスカルエンペラーの脳天に直撃。
矢はスカルエンペラーの頭部で止まり尾の方から先端にかけて金赤の光が収束していく。
スカルエンペラーの動きが止まった。
なるほど、弓の勇者の真骨頂というやつか。
弓の勇者。
その存在は遠くにいる敵を仕止め、仲間を外から支える要。
金赤の光は弓の勇者のみが持つとされる魔力の色。
動きを一時的に停止させる光と言われており、弓の勇者と言えど使える者はそういないらしい。
俺やメアのように剣を使う勇者がそれぞれの剣技を習得していくのと同じように、弓を使う勇者は“弓を撃つ”この動作一つを極めていく。
そしてその極めた先に見えると言われているのが、テールがさっき見せた金赤の光。
此処に来てそれを使ってくれるとはテールもなかなかやってくれるな。
テールは動きが停止しているスカルエンペラーに対して次は撃技の乗った矢を撃った。
動きが停止しているスカルエンペラーの頭部に二本の矢が刺さる。
そうして俺もと、スカルエンペラーに接近。
サギニの森で遭遇した時は慌てふためき逃げるしか出来なかったが、今やこうして堂々と戦うことが出来る。
右へ左へ、そしてさらに左へと軽く移動。
4体のスカルエンペラーの攻撃が鈍く見えてならない。
撃技+5の解放より斬回風からの破砕の斬撃が4体のスカルエンペラーを捉え斬り撃つ。
その時だった。
何処からともなく聞こえて来た拍手。
誰かいる?
コツコツと足音が聞こえる中、その者は俺たちの前に姿を現した。
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