百花繚乱 〜国の姫から極秘任務を受けた俺のスキルの行くところ〜

幻月日

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第222話 幻影竜の脅威

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蒼き竜の姿を真下から見るのはこれで5度目だが、場所が違えばその姿もまた違ったものに見える。
それに、ボルティスドラゴンは俺たちを背から落とし飛び去って行った。
元々が魔王の城にいたとされる魔竜、『血の契約』による従属関係がなくなってしまったとも考えられる。

「皆、注意しろよ」

そう皆に言ったのはもしもの時の為。


ボルティスドラゴン
LV.137
ATK.290
DEF.258


観察眼を発動してステータス状態を確認。グレイロットで『血の契約』をして以降の確認だ。
俺たちといない間、魔物の相手でもしていたのだろう。
昔の俺では到底相手に出来ないステータス値。

ボルティスドラゴンが地面に着地。
地面が若干ながら揺れるのは、ボルティスドラゴンの重さを語っている。

「ど、どうなのよ? シン」

「……確かめよう」

敵か味方か、それを確かめる為にも恐る恐るボルティスドラゴンに近づいて行く。
ほんの5、6時間前は背にも乗せてくれたボルティスドラゴン。
『血の契約』がまだ続いているかどうか……

「……大丈夫そうだな」

跳躍してボルティスドラゴンの背に乗った。
反応は唸って俺の方を振り向くように見ただけで、攻撃体勢はない。

「本当なのかい? 俺たちを空から振り落とした魔竜だ。そうやって油断させてるだけかもしれない」

まったく、テールは疑うな。
まあ確かに一理あるが……
跳び、ボルティスドラゴンの顔正面に着地。

「シン! そんな正面に……」

メアが強張った表情で言う。

「シンさん」

ラピスも心配そうに自身の手を握って見ている。

「セシル!」

そう言ってセシルにアスティオンを放り渡す。
バシッとセシルがアスティオンを受け取る。

「何をする気よ……」

メアが弱々しい声で言う。
そうなってしまうのも、俺がしたのは危険な行為。
技能は使えても、勇者にとって武器の所持は対峙する相手との戦闘の為、そして自分自身を守る為、もちろん仲間を守る為の物。
そんな武器を魔竜の目の前で一時的に手放したのだ。

「ボルティスドラゴン、お前はまだ俺たちの仲間か? それとももう違うのか?」

そう問い、右手を前に差し出す。
ボルティスドラゴンの視線が動いた右腕にいくが、また俺の目を見る。
魔竜の眼は多くの魔物が拒絶し、畏怖の対象とするもの。
それは人間でも同じだ。
魔竜と眼を合わせるなんて、よほど自分の力に自信があるかただの命知らずの者だろう。
今の俺で言うならば強いて言えばそう、言葉を発しないボルティスドラゴンと会話しているような感覚。

「シン!!」

セシルが叫んだ。

ボルティスドラゴンが突如風を巻き起こした。
それにより宙に飛ばされる俺。
ボルティスドラゴンが上を見る。

こんな状態で暴風波なんて撃たれたらひとたまりもないな。
守技のMAX解放でどうにかなるか。
そんなことが頭によぎった時、俺の体は風の流れに乗っていくようにボルティスドラゴンの上に着地。

「大丈夫、だな」

1回目の感覚の大丈夫は2回目、確信に変わった。

「もうっ! ヒヤヒヤさせちゃって!」

メアもボルティスドラゴンの背に乗って来る。その後、テール、ラピス、アルンと……

「セシルも早く乗れ!」

最後に残ったセシルを呼ぶ。

「うん! ーーあ、あ……」

頷いたセシル。だが、血相をみるみる変えていく。

「こいつは……」

異常な気配を感じ取った。
俺たちがいる辺りが一気に暗くなり、ありえないほどに巨大な目玉がそこに二つあった。

セシルもボルティスドラゴンの背に乗り、俺は彼女からアスティオンを受け取る。

ボルティスドラゴンが身体全体を震わすような威嚇の音を立てている。
瞬間、ボルティスドラゴンの周囲に発生した4つの竜巻が巨大な目玉に向かって伸びていく。
竜巻が巨大目玉を巻き込む。
巨大目玉がよじれるほどに。

が、その主は何も発さず、巨大の概念を超えた身体を溶けるように崩していく。
恐らくこいつはこの島から俺たちを見下ろすように見ていた龍。
ただ、今はその姿すら見えず周囲一帯を呑み込むように溶けて崩れていった。





暗い大地に唐突に俺たちはいた。其処だけ飛び出たような場所。
空も暗く、飛び出た大地より下は何も見えないほどに。

「ーー大丈夫か? 皆」

「大丈夫、なわけないでしょ……。一体何が起こってそして此処はどこなのよー!」

「セシル、ちょっと向こう見て来る!」

「待てセシル! ーーったく」

自由奔放、こんな時にまで……
セシルがあっという間に見えなくなる。

「シンさん! 見てくださいあれを!」

ラピスがそう言って指を指す。

「……これはもう、絶望というより壮観だな」

そういう言葉しか出て来ない状況。
空が少し明るくなって来たかと思えば、遠くに見えるのは無数の飛ぶ影。しかもそれは明らかに、ボルティスドラゴンに似ている影ばかり。一体何体いるのか……

「あれもボルちゃんと同じ魔竜なのかしら」

「だったらさすがに逃げるしかないな」

とは言うが、実際魔竜の数というのは同時期に10体もいかないというのが古文書には記されている。
だが、あくまで記されているだけ。まだ確認されていないだけで多くいるのかもしれないが、あの数はない。

「大変大変……大変だよーー!! 凄くいっぱい敵が来たー!」

セシルが戻って来た。

「そのようだな。がしかし、あれだけの数ーー」

レベルが低ければまだいい。
だが、俺たちがいたのはレベル100を超える魔物ばかりの魔王の城がある場所。しかも魔竜ともなればそのレベルも相当なもの。

「ボルちゃん! なんとかしてよ!」

そうメアに迫られるボルティスドラゴンは立ち上がり、空へ飛び立とうとした。

「……なんなんだ、いったい」

その時、俺たちが今いる飛び出た大地を囲うように現れたのは8体の巨龍。
魔王の城がある島から俺たちを見下していた龍の大きさの比ではないが、それを8頭分したような大きさの龍たち。
観察眼で確認するもののステータスは表示されず。

いつもは強気のボルティスドラゴンでさえ、体勢を低くしてしまった。
さらには刻々と迫る何かの群れ。

皆もどうすればいいか分からないといった状況。
いけない、皆の戦意が下がって来てしまっている。

「ボル、力を貸せ。お前らは此処でじっとしてろ」

「まさか行く気なの!?」

「黙ってやられるなんて、そんなダサい結末は俺にはない。ボル! 力を!」

敵の強さは未知数だが、さすがにこの数は俺1人ではかなり厳しい……というか相手に出来ない。
魔王の城がある島にいたはずの俺たちが今や何処の大陸だと言わん場所に来ているが、来る前に起きたことを考えると何かあることは間違いない。
それを確かめる為にも!

ボルティスドラゴンが天に向かって吠えた。
俺はボルティスドラゴンの背に跳び乗った。

「セシルも行く!」

「だったら私も行くわよ!」

そう言って2人が跳び乗って来る。

お前ら……
まあこんなところに置いて行くよりいいか。

「アルン!」

ラピスがアルンに跨り跳び乗って来る。

「やれやれ、結局総出で行くのかい」

最終的に皆ボルティスドラゴンの背に乗った。

「飛んでくれ」


飛び出すボルティスドラゴンに合わせるように8体の龍の視線が動く。
まったく本当にどんな大きさの龍だ。
イクリプスドラゴンが可愛く見える大きさだ。
攻撃こそして来ないが、その存在でまず戦意すら失いそうな龍。

さて、この状況をどう乗り切るか……
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