百花繚乱 〜国の姫から極秘任務を受けた俺のスキルの行くところ〜

幻月日

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第217話 敵討ち

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谷を渡り切ってから森の奥へと消えていったラピスを探していた。
森の温度は低く、体温の低下を感じる。

「通りで寒い筈だ」

森を進んでいると川があった。巨大な川。様々な形状の氷塊が流れている。おそらく、この島から下に流れていた川の一つ。
俺がボルティスドラゴンの背から見た時は、数カ所から川の水が落ちるように流れていた。
この島に降りた際はまだここまで冷え込んでいなかったことを考えると、川に流れている氷塊は下流に向かうにつれて溶けているということ。
白い煙を上げていたのも川と空気の温度差によるものだろう。

「少し休憩しない?」

「そうだな」

ラピスを探したいところだが、無闇に探すのも効率が悪い。しかも此処は魔王の城がある島。
慎重さが必要になる。

しばらく川辺で休憩を取ることにした。





川辺は冷え込んでいたが、見晴らしが良く様々なことが観察出来た。
川は思いの外深く、魔王の城がある島の川とは思えないほど透き通っていた。
ただ、川には魔物も泳いでいた。

魚系の魔物、スカルフィッシュが群を成して上流に向かって泳いでいる。
水の抵抗を受けにくいのは名前の通り、体のほとんどが骨の為。
一見すると小さく骨だけの魚ではあるが、集まれば魔牛の一頭程度ならものの4、5分で骨だけにしてしまうそうだ。

そんなスカルフィッシュが泳ぐ様子を見ていれば、よく目を凝らすと川底にはクリアースネークが這うように進んでいた。
クリアースネークは全身が透明な皮膚を持つ魔物。
温厚な性格だが怒らせると体温を急上昇させる。

クリアースネークの近くをスカルフィッシュが通っていく。
クリアースネークが素早く動いた瞬間、透明な体内の中にスカルフィッシュが2体飲み込まれた。
スカルフィッシュは瞬く間にクリアースネークの体内で溶けていく。
純度の高い酸は攻撃にも使われ、クリアースネークを相手にした時は距離を保ちながら戦闘するようにギルドから指示されている。
純度の高い酸は闇取引では高額で売買されている噂もあるほどだ。
ただ、クリアースネーク本体が見つけにくい為、それもあって高額だそう。

川辺にいると他にも多数の魔物が現れるが、俺たちを襲う様子はなかった。
俺たちのように川辺に休みに来てる、そんなところだろう。

「そろそろ行くか」

と、俺は腰を上げた。

「……ねえシン、あれ」

メアが指差す方向、一つの巨木の幹に足をぶらぶらさせて俺たちの方を向いている者。

「ラピス……なのか?」

そう俺が疑問に思うのは、おかしいとしか言いようがないからだ。
ラピスなら俺たちを見つけた時、あんな行動はしないだろう。
直ぐに来て合流しに来る筈だ。

疑いながらも、まだ巨木の幹の上で足をぶらつかせるラピスに近寄って行く。

「ラピス! そんなところにいないで早く降りて来なさいよ!」

それでもラピスは幹の上から降りようとしない。

「おい! 何処行く!?」

また逃げ出してしまった。
巨木の幹の上を跳び乗っては移動。
ラピスの運動神経ってあんなに良かったのか?

ラピスは基本仲間の援助をする立場であり、ちゃんとした運動神経を見たことがない。
だが一つ確信したことがある。

「!?」

ラピスが幹の上に着地した瞬間を狙い、斬撃を放った。
ラピスは体勢を崩し幹の上から落ちるが、何事もなかったように音も立てずに着地。

「……ラピス、なの?」

メアが恐る恐るそう聞く。
とすれば、ラピスは肩を震わせている。

「おめでたい、おめでたい人間とはこのこと」

ラピスの声だがラピスじゃない。
ラピスの様子がおかしい。
全身が黒く変化し形を変えていく。

「お前、魔人か」

黒く変化した後、角が前に二本曲がった姿。
両翼がギザギザしており、体には無数の傷跡が目立つ。

「ヘンシンモ、ソウナンドモデキルワケジャナインダゼ?」

魔人はそう言って首をゴキゴキ鳴らす。
魔人が現れることは想定内。
変身出来る魔人とは厄介だな。
見た感じは弱そうには見えないが……問題はこいつが使徒の魔人かどうか。

「メア?」

メアが恐怖に絶句したような表情をしていた。

「あ……あ……」

ダメだ、俺の言葉が聞こえていないようだ。

「どうしたんだメア! らしくないぞ!」

メアの肩を揺らす。
すると正気に戻りはするが恐怖している表情は変わらない。

「シン聞いて、あいつは……」

メアが俺に話して来る。

「ンン? ソウイエバ、ソノカミイロニスガタドコカデミタキオクガ……オモイダシタ! オマエアノトキノオンナ!」

魔人がビシッと指と尾の先を向ける。

「本当かメア?」

「間違いないわ。あの姿……ううっ」

言いかけて頭を押さえる。
メアが言ったことが事実ならそうなってもおかしくない。

メアにとってはトラウマとなっていること。
メアがまだ勇者ランクが低い時、姉のメルと旅をしていた時に遭遇した魔人。

「コロシソコネタユウシャガコンナバショマデクルトハ! ココマデキタジツリョクハアルヨウダガーージブンカラコロサレニクルナンテユカイユカイ!」

煩い魔人の声が響く。

「……私がわざわざ殺されに? 冗談じないわ! 死ぬのはあんたの方よ!」

メアが長剣を魔人に向けて突き立てる。
すると魔人は不敵な笑みを浮かべる。

「コノオレヲコロス? チガウチガウ、ギャアク」

メアが持つ長剣が震えてしまっている。

「ここは俺がーーメア」

メアにとっては避けたい敵。
だが、それでもメアは前に立った。

「私が1人でやるわ。シンは手を出さないで」

震えは収まっているようだが、表情がまだ強張ってしまっている。

「分かった。でも厳しそうなら加勢する」

そう言うとメアは頷く。

「オレハベツニフタリガカリデモカマワナイゼ? ツウカ、アノトキニゲダシタヤツガオレニカテル?」

「ごちゃごちゃ煩いわよ! そこの魔人! 昔の私だと思ったら痛い目見るわよ!」

メアが魔人に向かって走っていく。
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