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第215話 融合
しおりを挟む「戦う前に聞くが、貴様らは何の目的でこの島に来た?」
「決まってんだろ、魔王の城に行く為だ」
そう言うと、ゴーズの笑い声が聞こえる。
「俺たちを倒せないのにか? 冗談は口だけにしておけ。……貴様」
ゴーズ衣服の端が斬れる。
「冗談でこんな場所に来るか。話はいい、来ないならこっちから行く!」
踏み込みから即座にゴーズの元へ。
ゴーズは長槍で防ぎ、黒手袋の甲に付いてある短い刃を突き立てる。
刃は俺の頬を掠めていくが、ゴーズの姿勢が若干崩れる。
メアがゴーズに対して氷の矢を放った。メアにはタイラントとの戦闘は避けて俺の援護にまわってもらうように言っている。
一度目の奇襲が失敗してしまった時の次の策。
一対一、別々で戦うのではなく二体一で仕留める策。
「ちっ! タイラント、女を殺せ!」
「メア! そいつには手は出すなよ!」
「分かってるって! でもこれ、ちょっと難しっ!」
タイラントの背付近から飛び出して来るドロドロしたものは地面に落ち、そこからまた紫紺の煙を発生させる。
メアはタイラントの攻撃を避けながら俺の援助。
早々に決める!
「ぐああっ、あ!?」
手応えあり!
ゴーズの胸元から背にかけてアスティオンの刃が貫く。
速技+7の解放はゴーズも対処出来なかった。まだこいつの強さが不明だった為、一種の賭けだったが攻撃は入った。それも大ダメージ級。
序盤から一気に攻める。
こうした得体の知れない敵は先手必勝に限る。
「がふっ! ぐっ……き、貴様!」
抜いたアスティオンの跡から流れ出る大量の血。
ゴーズは手で押さえるものの、指の間から流れ出続けている。
人間で言う心臓の位置を狙った。
奴が人間であれば死ぬ。
タイラントの動きが止まったのを見ると、どうやら俺の読みは当たっていたらしい。
もし、タイラントがゴーズの『血の契約』下にあるならば、従属者である本人が死ぬと『血の契約』は解除されるというもの。
これはレベルからは聞いていなかったこと。
「タイラント! 俺の元に来い!」
そう叫び、タイラントがゴーズの元へ飛んでいく。
ただし、まだ『血の契約』は解除されていなかった。
「シン、早くトドメを! あいつ何かするつもりよ!」
「言われなくてもな!」
再び速技+7を解放。くっ、ここのところ連続して使い過ぎている。
身体へのダメージはあるが、ヴィンスとの鍛錬に比べればどうってことない。
「二度は食らわねえ……よ!!」
長槍の突きが俺を離す。
どうやら守技を発動したようだ。
それでも長槍で防ごうと前に出し回転させたが、威力は落ちても次はゴーズの肩付近にアスティオンの切っ先は直撃した。
こいつ、本当に人間か?
肩の傷で生きているのは分かる。だが、先にアスティオンで貫かれた心臓の方をどう説明する?
「何だそれは?」
「これが何かは今に分かる」
そう言って、ゴーズは手に持っていたそれを口に運び噛み砕いた。
瞬間、ゴーズとタイラントの周囲に黒い竜巻が発生。
俺とメアは距離を取って様子を確認する。
黒い竜巻が地面に飲まれていくように止んでいく。
「……嘘」
そこにいたのは二足で立ち翼を生やす、巨大な姿をした一体だった。
「……まさか、融合したのか」
状況から考えるに、そうとしか考えられない。
「ああ~、こいつは良い気分だ。魔物を取り込むのは少々癪だったがーーさて、先程のお返しといこうか!」
巨槍は人間サイズでは大き過ぎると思っていたが、ちょうどいいサイズになっていた。
なるほど、これはまた厄介な魔物が現れたもんだ。魔物……勇者か?
巨槍の一撃一撃は躱せるが、かなりの威力。
「メア!」
メアを近くに呼び寄せて作戦を言う。
「何をごちゃごちゃと!! ……小癪な」
巨槍ではなく三本の尾の攻撃。鞭のようにしなる攻撃は地面に長く跡を残すと同時に、メアが能力によって地面を氷漬けにしていく。
もちろんこれは、俺たちも影響を受ける。
だが、滑りやすさは相手も同じはずだ。
タイラントと融合したゴーズは氷漬けにされていく地面に対して手を触れた。
地面が奴中心に円を描くように爆発していく。
氷漬けになった地面はいとも簡単に壊されてしまった。
「何がしたいか知らないが、貴様らは魔王様の城に行くことなくここで死ぬ」
「なら、殺される前に俺たちがお前を殺す。メア」
メアが頷く。
「それはもう不可能だ。タイラントは不死の竜。"死の谷"で従属させるのには苦労した。そんな不死竜と融合した俺を殺す? 馬鹿も休み休み言え」
"死の谷"
まだ黒の紙にも情報が載っていない魔物も多く存在しており、スカルエンペラーの情報が載ったのもほんの6年前。
タイラント、"死の谷"に生息していたとなると氷耐性は高い。
通りでメアの能力が効かないわけだ。
となると物理一択。
まあややこしいことを考えなくて逆にいいか。
「……あいつ、次は何する気なのよ」
「さあな、考えたくもない」
ゴーズは何やら呪文のような言葉を発している。
「タイラントはアンデッド族。そんなタイラントと融合した俺にはこんなことも出来る。ーー呪縛土」
ゴーズが地面に手を触れた途端、みるみる地面が生きてるように脈を打つ。
「何これ、気持ち悪い」
「みなまで言うな。それに、何かまたして来るぞ」
「そうだけど……うっ」
メアが脈を打つ地面をサッと避ける。
「さあ、恐怖に慄く姿を見せろ!」
「「「「「「「「「「「「「キャアアアアアア!!!!!!」」」」」」」」」」」」」
ゴーズの持つ巨槍から幾つもの口が現れた。
噛む音が幾つもの口が発生させる。
メア……
無理もない。怖いもの、不気味なものが大嫌いなメアにとっては耐えがたい光景だろう。
それに加え、地面が赤くなっている部分が血管のように浮き出る。
「おいメア!」
メアはあまりの光景にショックで動けなくなっていた。
だが、俺の呼びかけにより正気に戻る。
「だ、大丈夫よ」
そう言ってメアは深呼吸しようとしたが直ぐに手で口を抑える。
そうだ、ここには奴と融合する前のタイラントの毒霧が残っている。
毒消を再び口に入れる。
「ドロォラ、あいつらを喰い殺せ!」
ゴーズが口だらけになった長槍を地面に突き刺した。
突き刺した地面から黒くどろりとしたものが湧き出る。
まったく、嫌な予感しかしない。
魔物と融合なんてイカれてやがる。
そして、あっという間に巨槍は地面にすっぽりと埋まってしまった。
「メア後ろに飛べ!!」
そう言った瞬間、地面から禍々しい口が飛び出して来た。
それも人の二倍以上はあるだろう口。まるで魔物。
メアが斬撃を放つが、地中にそれは逃れた。
とメアのことばかり見ていられない。
俺の背後からも同じような口が飛び出して来る。
「キャアアアアアア!?!?!」
うるさい声だ。耳が痛くなる。
背後から俺を襲って来た口の化け物は歯ごと斬られる。
「ちっ、やはりそれは宝剣だったか」
「惜しいな、これは神剣」
「神剣!? ……憎い……憎い憎い憎いいいいい!!」
ゴーズの感じが変わった。
武器は持っていないがまた何を仕出かすか分かったもんじゃない。
正面から向かって来るなんて……
「ぎぃいい!!? くそがああああああ!!!!!!!!!」
恐ろしい奴だ。
俺が夢幻斬を放った瞬間、別の腕を生やして本体の手と合わせて一瞬だったが受け止めた。
だが、夢幻斬の威力。
ヴィンスとの鍛錬の時、食を絶って五日目のこと。撃技+8を解放し、増幅していくエネルギー。そうして放った斬撃は地面を割るように裂いた。
そんな斬撃を真正面から喰らったゴーズ。
不死の竜の力を取り込んだとしても、夢幻斬の前には及ばなかった。
タイラントと融合したゴーズは跡形もなく消え去っていった。
残った地面は間も無く元に戻って、ゴーズの武器だった長槍が押し出されるように地面から出て来る。
ゴーズの気配は無い。
それに辺りにいた魔物共も観察眼に表示されない。
「行くぞ!」
「ええ!」
そうして俺とメアは離れ離れになってしまった仲間を探しながら魔王の城を再び目指して進む。
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