百花繚乱 〜国の姫から極秘任務を受けた俺のスキルの行くところ〜

幻月日

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第211話 海上での戦い

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海上の波がやや強くなって来ていた。
そんな中、確実に大陸の下に出来ている影に近づいて来ている。

「皆聞いてくれ」

そう言って皆を呼び集めた。

「皆、ここまで俺の旅について来てくれて感謝してる」

「何よ今さら。それに、そもそもシンの旅について行くって言ったのは私でしょ」

メアはそうだ。情報街ブルッフラで仲間になってからというもの長い付き合いだ。

「私は精一杯皆さんの力になるだけです」

ラピスはグレイロットまで迎えに来た元仲間だったレイジュの言葉を遮り、俺たちの旅について来ることになった。
それからというもの、俺たちの力になることに力を注ぎ、今の今まで共に旅をして来た。

「クウン」

そして、これから魔王の城に入ることに関して、アルンの能力は是非とも借りたいところ。

「俺も乗りかかった船だ。カリダ村の皆に再会出来るまで死ぬわけにはいかないさ」

この旅が終わった後、テールを無事カリダ村まで送り届けるという約束が俺にはある。
弓の勇者1人、帰れないこともないだろうが、返って遠回りしてる気がするのは俺だけではないはず。

「……セシルはこの旅が終わってもまた皆と旅を続けたい。ーーけど、仲間にも……」

バタリアでセシルが仲間に入った日。俺はセシルと同じ獣人たちを助けると約束している。ただ、その助ける手段というのが多くの金貨を必要とする。
下手に暴れてセシルの仲間が傷ついてしまっては話にならない上、どれだけの獣人が捕まってしまっているのかも不明。
セシルの仲間は助け出してやりたい。その為にもここまで力を付け、魔王の城に挑むというところまでやって来た。

「皆、この旅はもう終盤だが、俺たちの旅は死ぬまで終わらない。ただ、今は目の前のことだけに集中する時」

その後、魔王の城に入ってからの行動、チーム分けなどについて話し合っていた。





「波が強くなって来たわね」

メアがそう言うように、海の波が船に打ちつける。

「皆さん、いよいよっす! あの中……その奥にある大渦が魔王の城への入り口っす! 心してください! ーーんん? あれは? ……やばやば、ややや、やばいっす!!」

ウルが船の甲板を走って行き、前の方に立つ。
そして何か分かったようでかなり慌てた様子で腰を落としてしまった。

ウルが腰を落としながら指差す方向。
そこには本体よりも異常に大きい両翼に尾もそれに比例するように長い。
あのシルエット……
俺は一度それを見たことがあった。
それは飛び上がり、確実に俺たちが乗る船の方に向かって来る。
前より両翼や尾が大きくなったのが見てとれる。

「魔人!? でもあんなに高くじゃ……」

「なら撃ち落とせばいいだけさ!!」

テールが引いた矢の先が光り放たれる。
狙いは正確。だが魔人はそれを尾で叩き落としてしまった。

「ハッハハハハハ!! ナンダイマノヤハヨ!! コノオレサマニチュウチョナクウッテクルトハ!! ソウソウニシニテエヨウダナアア!!」

魔人が片腕を上げると、轟々と唸りをあげながら禍々しい球体が出来ていく。
バタリアで見た時と同じだ。あの時はクランがいて魔人は去って行ったが、このままだと攻撃を受けてしまう。海の上、逃げ場がないな。

テールが止めようと矢を撃つのだが、尾で弾いて防いでしまっている。
高さも高さ、さすがに斬撃の威力も落ちてしまう上、届かないだろう距離。

間に合うか!?

ヘリオスの村を出る際、クレアに教えてもらった光の円盤を足元に作り出しては跳び乗って移動していく。

だが、それを待つことなど無論せず、魔人は禍々しく巨大な球体を落とす。
巨大なエネルギーを感じる上、ビリビリと空気の振動が起こる。当たれば相応のダメージを負いそうだ。

その時だった。
突如として暴風波が横から巻き起こり、禍々しい巨大球が大きく船を逸れた。
だが、海に落ちたそれの威力は大きく穴を開け、船を転覆させるのかと思うほどに揺らした。

「テメエエ……ナゼジャマヲシタ!!?」

叫ぶ魔人、空にはもう一体の存在があった。
蒼き巨竜は空中で羽ばたき、魔人の向かいにいる。

「ここはボルティスドラゴンに任せよう。その間に俺たちは船を前へ」

ウルが頷き、船の体制を整えるように皆に指示を出す。

「ニガスカアッ!! ガッ!!?」

魔人の声は技に比例するように大きい。空高くいるにも関わらず聞こえて来る。
ボルティスドラゴンが魔人に体当たりを喰らわしたようだ。

「あいつ……」

「シン! 関心してないで手伝いなさいよ!」

メアが必死な表情で縄を引きながら言う。
俺は空中の戦闘に注意しながらも、船の体制の手伝いを進めていく。
さっき魔人が放った攻撃によってまだ波は大きく、それにボルティスドラゴンが巻き起こす暴風によって海はさらに荒れていく。
本来、生きた災害と言われるほどの魔竜。暴風竜の名を持つボルティスドラゴンの存在は海をも荒らさせる。

「きゃああ!?」

ラピスが甲板の上を転げてしまう。
魔人がまた禍々しい巨大球を海に落として来た。それは船の通行上に落ちて、さらには起きた巨大な波が俺たちの方へ押し寄せて来る。

それを、俺は攻斬波により一閃。波を真横に斬った。
波は間一髪、船の手前で流れていく。

ただ、2度目の魔人の攻撃によってさらに海は大きく波を打つ。

「コノジャリュウガアアアア!!」

「ボルちゃん!!」

あの魔人、なんて力してやがる。
ボルティスドラゴンを海に落としやがった。

「オレサマハシトノマジン!! マジンヘレムノチカラハモウテメエラマリュウノウエナンダヨオ!!」

なるほど、通りで強いわけだ。
使徒の魔人は魔王の直下にいるそうで、それぞれが魔人ギールのように何らか能力を持っているのだという。

「ボルちゃん……何っ!!?」

メアが心配そうに海を覗き込んでいたが、瞬間、海水が竜巻のように魔人の方に向かっていく。それは魔人に直撃したかと思うと、ぽっかり空いた海の中にはボルティスドラゴンが両翼を羽ばたかせていた。

「ボル! 俺を乗せろ!」

俺の言葉を理解したボルティスドラゴンは船の近くまで来る。

「あわ、あわわわわ……」

ウルの表情が強張ってしまっている。

「ユウシャトテヲクンダノカヨ!! ナラテメエハモウニンゲンガワダ!! ユウシャモロトモ、ココデウミノモクズニシテヤルヨ!!」

魔人が両腕を合わせると、また別の腕が二本出てきた。
それも合わせると、4本の腕の先に小さな黒い球体が生成されていく。

ボルティスドラゴンが吠え暴風波を魔人に向けて放つ。

「ソイツモロトモチレエエ!!!」

魔人が全ての腕を突き離した瞬間、黒い4つの小球体は衝撃を巻き起こし暴風波と衝突した。
幾つもの雷が擦れるような音。
互角の勝負といったところ。

「頼む!」

ボルティスドラゴンに合図を出した。足下には紺碧の尾。ボルティスドラゴンの尾が俺をさらに上、空へと飛ばす。




「ユウシャフゼイガオレサマニカテルトオモッテーーッ!??」

目が4つもある魔人。
毒々しい色の体はまるで悪魔のよう。
魔人が怒りの形相で俺に二本の手を伸ばす。
だが、その手は俺には届かず。

至近距離で放った攻迅斬波は魔人を半分にした。撃技の解放は自然体で既に取得しており、発動にかかる時間は短縮。

「ちっ!」

この魔人、半分にされたってのに!

俺の身体に巻きついて来たのはもう半分になった身体の尾ともう二本の手。

「マダオワラネエゼエ!!!!」

守技で防御しているにも関わらず、なんて威力。
撃技+6くらいのパンチを直接喰らっているような感じだ。しかもただのパンチではない。
衝撃を生んでいる攻撃は身体の髄まで響いて来る。
これから魔王の城に行くってのに、余計なダメージを負ってしまった。

だが、魔人の悪あがきはそれまで。悪あがきでは済まされないダメージが入ってしまったが、俺を捕えていた魔人の下半身をさらに細かく斬ってやった。
ヴィダの村を襲って来たあの再生する魔人ではなければ、元に戻るのは不可能だろう。
もちろん、上半身の方もだ。魔人の衝撃よりもボルティスドラゴンの暴風波が勝った。

そうして、原型が崩れた魔人の身体は海に落ちていった。

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