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第206話 隠れギルド
しおりを挟むヒートクロコダイルとの戦闘後、暫くして滝が見えて来た。
およそ30メートルは軽くあるだろう。
「あの滝の裏だ」
ホルトが滝の方を指差した。
ダグラスが言うにはあの滝の裏にプリズンタウンと同じように別次元に繋がる入り口があるというが……
ラピスたちが一体何の用で行ったのか、ダグラスは其処にいる可能性が高いとだけ言っていた。連れ去られた可能性もある、急ぐとしよう。
ややあって、滝のある場所まで来るとかなり冷え込んでいた。
近くで見ると高い滝だ。
滝の手前にはこれまた巨大な湖があり、魔物が泳いでいる様子も確認出来る。
ヌオックフロッシュは人飲み巨大蛙。
気持ちよさそうに湖を泳いでいるが、敵対すれば同じ魔物でも飲み込んでしまう。
そんなヌオックフロッシュの様子を見ていれば、群れをなして泳ぐのはアーマードフィッシュ。
鎧のように見える皮膚は、その通り鎧並みの硬さがある。魔物ではあるが戦闘出来るほどの力はほとんどない。
ただし、釣り人が珍しい魚だと釣ろうとした時、釣竿を噛み砕かれるほどの顎の力を持っている。
一般人が小さいからと言ってむやみに近づこうものなら大怪我を負うだろう。
魔物の生態観察、そんなことをしながら滝の裏を目指して歩いて行く。
湖の周りには草が生い茂り、何かが通った跡なども見られる。
そうして、滝の付近に着いた。
「俺の後について来るんだ」
そう言って、ホルトは轟々と流れる滝に手を触れた。
瞬間、プリズンタウンに入る時に見た同じような空間が現れる。
ジジっと電気音が鳴り、黒い異空間が開く。
滝の裏に作るなんて考えたものだ。
最も別の空間に行くならわざわざ滝の裏にする必要はなかったとは思うが、それも念を押してのことだろう。
そして其処には滝の裏とは思えない光景が広がっていた。
プリズンタウンで見たのと同様、太陽、山々、広大な草原が広がっている。
これが人工的に作られたものだというのだから、ソフィア王国の技術には目を見張るものがある。
「あそこにラピスたちがいるのか?」
広い自然の中に一つだけあるもの。巨大な建物、そこからは人々の声が聞こえて来る。
「いるかもしれないし、いないかもしれない。だがしかし、あいつらなら放って置かないとダグラスは判断したんだろう」
ホルトが言っている意味は分からないが、誰かがいることは間違いなさそうだ。
「……これは」
驚いた。
どうしてこんなところに……
中に入ると、カウンターがあったり武器を持つ者たちがいたり……明らかにギルドだった。
知らないギルド、武器を持つ者たちが俺たちに注視している。
「これはこれは。珍しいお客さんが来たもんだ」
にやけて来たのは長剣を携えた男。
「ロードか、お前に用はない。ロジェはいるか?」
「ロジェ?」
ホルトの言葉に俺の眉がぴくりと動く。
「なんだ? 知っているのか?」
「知ってるも何も、そいつは……」
ロジェ、その人物は俺と深い縁がある者の名。
「ロジェなら二階にいるよ。何でも昨日会った2人と一匹に夢中さ」
その言葉を聞いた瞬間、俺は直ぐに二階へ向かった。
「おい!」
そうホルトが言うのが聞こえた。
二階にも多くの勇者たちがいた。
こんなところに名も知らないギルド、勇者の連中も知らない顔ばかりだ。
ただ、知った顔がそこにはあった。
「シン……シンなのか!? うっ」
俺の名を言った者。
俺はその者の所まで行き胸ぐらを掴んだ。
「シンさんやめてください! これには訳があって!」
「そうさ! まずはその手を離してやってくれ!」
俺はその言葉を聞いて冷静になり手を離した。
とりあえず、ラピスもテールもアルンも無事なようだ。
「けほっけほっ。酷いな、久しぶりに会ったっていうのに」
「ロジェ、俺の仲間を何故拐った?」
「拐ったなんて誤解だ。う~ん、何て言ったらいいか……。俺たちが彼らを助けたって言えば、シンは信じてくれるか?」
「助けた?」
「彼は俺たちを魔人から助けてくれたんだ」
テールがそう言うように、ラピスも頷きアルンはクゥンと鳴く。
「俺もだぜ?」
振り向くとニッと笑い腕を組んでその者はいた。
「テリー」
昔と変わらず、真っ赤な髪を覚えていた。
眉尻は太く吊り上がり、目力も強い者。
「大きくなったじゃない。久しぶりねシン」
階段から登って来たその者は薄茶色の髪をした女性。ラキの大人びた雰囲気はさらに磨きがかかっていた。
「ああ、何年ぶりだろうな」
俺はこの3人の事をよく覚えている、忘れるわけがない。
俺がまだ勇者ランクも付いていない頃の話、俺に技能のことを教えてくれたのがこの3人。
シーラ王国隣接街、セイクリッドを出発する時はこの3人しか頼りに出来そうにないと思っていたが、それも旅の道中でなくなっていた。
だが、現状はまた別の話。
きっちりと訳を聞かせてもらおう。
◇
「ーーそういうことだったか」
ロジェから話を全て聞いて納得した。
「そういうこと。なっ? 俺は拐ってなんていなかっただろ?」
そう言って、ロジェは肩に手を回して来る。
「私はその場に居なかったけど、2人が近くにいて本当によかったわ」
ラキは安堵の表情を見せる。
「まあな。しっかし、ベリアルとディソルの組み合わせはさすがにやばかったぜ。シンよ、仲間を離れ離れにさせるもんじゃねえ」
「そうだな。悪かったよ、お前ら」
そうラピスたちにそう謝っておく。
まさかの事態はあるということだった。
ラピスたちが森を移動中、魔王軍に付いている勇者と魔人に遭遇してしまった。
しかもその魔人が地獄の使徒だったらしく、ギールと同じように名を与えられた魔人。
ギールは使徒の中では下位の部類だったそうで、魔人ディソルは上位に位置しているそうだ。
そんな魔王軍側に付いた勇者と魔人に遭遇してしまったラピスたちを助けたのが、偶然にも近くにいたロジェとテリーだった。
その後は撒くという形でその場から離脱し、身を隠す場所としてアルカ湖の滝裏にある別次元へと向かったそうだ。
「シンのこと、彼らから話は聞いたよ」
テールはそう言ってにやける。
ロジェたち、何言ったんだ?
技能を俺に教えてくれたことはまだいいとしても、他のことまで話していないだろうな?
そう心中で思いながらロジェたちを見るが、何のことやらと言った感じで顔を背けられる。
言ったな、こいつら。
俺がまだ勇者ランクも付いてない時のこと……思い出したくもない。
「シンさんって意外にも可愛いところがあったのですね」
ラピスが言ってふふっと笑みを溢す。
「あの時のシンは仲間を連れるような奴じゃなかったかんな」
テリーめ、まあ言われば確かにそうだったな。
「そうか? 俺はそうは思ってなかったぞ?」
後付け、ではない。ロジェに速技を教わっていた時、俺には良い仲間がきっと出来るとよく言われたものだ。
「私もよ。ただあの時は、私たちによく助けろよなんて生意気言っていたわね。そんな子がこんなにも仲間がいるなんて驚きだわ」
あー、言ってしまったなラキ。
「何かあった、としか言いようがないな。ーーシン、何故この大陸にいる?」
この感じ、昔ロジェが技能を教えてくれていた頃を思い出す。
急に真に迫る感じで話す様がまた言い表わせない感覚が湧き起こる。
「それはだな……」
ロジェたちだ、話さないわけにはいかない。
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