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第205話 巨大川に潜む者
しおりを挟む「確か……北西にある川の、滝の裏だったな」
俺が確かめるように言うと、セシルが頷く。
「良い人たちだったらいいねー」
「それはないな。セシル、考えてもみろ。ラピスたちを連れ去った奴らかもしれないんだぞ?」
連れ去りなんてメアの一件で腹一杯だ。
俺たちがプリズンタウンに戻ってダグラスに聞いた話では、プリズンタウンから北西に行った先に巨大な川があるそうだ。
そしてその川の先にある滝。なんでも、その滝の裏にはプリズンタウンと同じように別空間への入り口があるらしい。
「……あんたら、なんだか余裕なんだな」
そう言うのはホルト、別次元へ入る為に付いて来ている。
「そう見えるならそうなんじゃないか?」
俺がそう言うと、目を見開いてしまった。どういう感情なんだ?
「今までの旅の経験値というやつか」
どうやらホルトにはそう見えたようだ。
「実際そうか。ベヒーモスを1人で倒した勇者。……となると、彼女も」
「ああ、セシルは強いぞ」
えっへん、とセシルは誇らしげに両腕を腰元に当てる。
全力のセシルというものを見たことはないが、少なくともレベル80代の魔物を討伐出来る実力。
「獣人の力も見てみたいものだ」
ホルトはただただ関心したようにセシルを見る。
そんな時だった。
川の流れる音に混ざり、魔物が叫ぶ声が聞こえて来た。
しかも、その叫ぶ声は俺たちの方へ近付いて来ているようだ。
「ホルト、お前戦えるのか?」
「多少な。ーーしかしこれは」
フォリーゴート
LV.84
ATK.124
DEF.79
フォリーゴート
LV.87
ATK.134
DEF.83
フォリーゴート
LV.81
ATK.110
DEF.74
フォリーゴート
LV.89
ATK.130
DEF.93
フォリーゴート
LV.90
ATK.139
DEF.89
フォリーゴートの群れ。
その頭突きは軽く岩を粉砕してしまう。非常に気性の荒い性格は自身より何倍も大きい魔物さえも倒してしまうという。
魔物が魔物を倒すことによるレベルの上昇。フォリーゴートだけではない、全てではないが一部の魔物は対峙した同じ側の魔物でさえ攻撃する。
その結果、魔物のレベルが上昇してしまう。
さあて、さっさと倒してしまおうか。
フォリーゴートは少数で行動し、単独でいることはあまりない。
問題は気性の荒さに加えて脚力が強い。データによると、勇者で表すならば最大速技+5ほどの速さで動くことも出来るらしい。
フォリーゴートは真っ直ぐに突っ込んで来るだけで俺もセシルも難なく躱している。
ホルトは地面に突っ立ってヒョイヒョイとフォリーゴートの突進を避ける。
それほど速いと感じない突進。
「避けた?」
まずは一体。そう思って狙って放った斬撃が躱されてしまった。
斬撃が当たる直前でグンとフォリーゴートは速さを上げる。
しかも、それは他のフォリーゴートにも伝染したようで、速さで砂煙が出てしまう。
俺たちはひとまず樹の上に移動したが、フォリーゴートの脚力は強い。
砂煙の中からまるで巨大な銃弾のように飛んで来た。
アスティオンでフォリーゴートの角を受け止めるが、その衝撃は俺を大きく後退させた。
なかなかやれる魔物。
角は先が鋭く尖っており、真正面から受けたら相当なダメージを喰らうと見える。
最も俺はこんな魔獣になんてやられやしないが。
「メエエッ!??」
体勢が崩れたフォリーゴートは地面に真っ逆さま。
至近距離で受けたアスティオンの斬撃は効いただろう。
その上魔物特効特性を持つアスティオン。
地面に落ちたフォリーゴートは立ち上がろうとしたが倒れて力尽きた。
直後、別のフォリーゴートの空中突進。
それに対しすかさず斬撃波。
フォリーゴートの角が折れ飛んでいくなか、それでも俺のところまで来た。
フォリーゴートは鼻息荒く、アスティオンの刃が角に減り込んでなおも前へ突き進もうとする。
魔物が人間に対する純粋な殺意。
それが何も力がない人々に向かれる日常。
俺のような勇者ならまだしも、こんな殺意剥き出しの魔物に襲われた日にはたまったものではないだろう。
フォリーゴートは俺の体を樹に押し当てるようにして来る。
目は赤く充血し、角は鉄のように硬い。
魔物特効特性を持つアスティオンに触れている以上、角からダメージは届いているはずだが……やはり、触れているだけでは倒すほどまでにはいかない。
撃技のエネルギーを+3解放。
真正面のフォリーゴートと斜め下から飛んで来たフォリーゴートを斬り落とした。
2人は?
そう思って辺りを見ると、ホルトが戦っていた。
長剣でフォリーゴートに斬り付け、まるで観察しているような戦い。
セシルはというと……フォリーゴートを地面に減り込ませていた。
獣人のパワーは計り知れないな。
再度ホルトの方を見ればフォリーゴートは既に討伐されていた。
その後も、別空間に繋がる滝目指して進んで行く。
◇
北西部、大山脈が見える場所、其処に巨大川はあった。
轟々と流れる川の上流、其処を目指していた。
その道中、当たり前のように現れる魔物を討伐しながら。
「……あんた、あの青髪の女とは何処で会ったんだ?」
「そんなこと聞いてどうする? メアとは長い付き合い、それだけだ」
今、此処にメアはいない。
プリズンタウンで待っているんだと。
仲間を助けに行きたくないわけではない。
むしろ、信じているからこその決断だそうだ。
それに、いざラピスたちがプリズンタウンに帰って来た時の為にメアは自分が残ると言った。
と、そういうわけでメアは付いて来ていない。
「そうか……。ならば、そこの獣人のことも話す気はないということか」
返事を返すまでもない。
ホルトが何故、そこまでメアやセシルのことを知りたがるのか……話す必要はないな。
そうして沈黙が続く中、巨大川の上流の方から流れて来るのは黒長い生物。
ヒートクロコダイル、およそ600度近い炎をはく水棲の魔物。
「戦う必要はなさそうだな」
というのは、ただ上流から流れて来ただけでヒートクロコダイルは既に死んでいた。
川の流れに押されてどんどん下流の方へ行く。
レベル90代が平均の魔物。ただ、中にはレベル110のヒートクロコダイルも確認されたそうで、凶暴性に加えて人間を餌として好む魔物。
その為、優先的に討伐する対象の魔物として指定されている。生息域も広く、こうした広い川や深い沼地などに生息している。
「熱い! なんだ!?」
ホルトが腕で顔を覆い隠す。
「これは……」
熱風が上流の方から流れて来る。巨大川は湯気が上がるほどの温度になっているようだ。
巨大川の上流に進んで行くと、川端と川端のちょうど真ん中くらいの位置に、岩が上の部分だけ見えていた。
ヒートクロコダイル
LV.103
ATK.180
DEF.110
真っ黒な皮膚に赤い眼をして俺たちを睨む魔物。
ヒートクロコダイルは俺たちを見て直ぐに炎を口から吐き出した。巨大川の上をいく炎、届かなくても異常な熱さを感じる。
「居なくなった?」
ホルトが辺りを見渡す。
炎を吐いた数秒の間にヒートクロコダイルは岩の上から姿を消していた。
「違う、奴はーー!!」
巨大川の中から飛んで来るように俺目掛けて来た。
ヒートクロコダイルは獲物を見つければ、相手の隙を突き一瞬で捕食する。
だが、相手は勇者の俺。
圧倒的に俺より巨大な身体を持っていたとしても、破砕の斬撃はヒートクロコダイルの口の中を貫いていく。
ただ、それでも炎を吐いて来たのはレベルがレベルなだけはある。
「セシル!」
強風が横から起きた。
見るとセシルが右脚を上げていた。
蹴りの爆風で炎を消すとは、さすがとしか言いようがない。
俺はヒートクロコダイルが怯んだ瞬間、攻斬波で止めを刺す。
ヒートクロコダイルは巨大川に叩きつけられるようにして落ちて、下流へと流れて行った。
その後も俺たちは上流の滝を目指して進んで行く。
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