百花繚乱 〜国の姫から極秘任務を受けた俺のスキルの行くところ〜

幻月日

文字の大きさ
上 下
204 / 251

第204話 過信と安心

しおりを挟む


俺たちはプリズンタウンで滞在中、色々な事を知った。
プリズンタウンはプリズンロック跡に出来た街ではあるが、正確には同じ場所ではない。
岩壁の中に造られたプリズンタウンは時間軸は同じだが次元が別空間。
俺たちが入れたのはアルンの持つ能力である別次元への移動。つまり、プリズンタウンとは聖霊獣が移動出来る次元だということ。
イメージ的に言うと現実の空間には何処も別次元が存在しており、聖霊獣であるアルンは自発的にその別次元へと行き来出来るが、プリズンタウンは固定された場所。

そして、当時プリズンロックを造ったのはソフィア王国だということ。初代魔王が君臨して以降、月日が流れる中で別次元の存在に着目した為。
魔王と魔物の軍勢から逃れる為には別の次元に行くしかない。そうして、当時魔王がいなかったトリトン大陸で実験的に別次元への扉を開けた。

実験は見事成功。無事、別次元へ行くことが出来た。

だが、予想外のことが起きた。
別次元の世界は一方通行だったということ。
ただ元々、別次元に行く目的を考えると大した問題ではないという結論に至ったそうだ。
別次元で生活する為の必要物資を大量に移動させ、時を同じくして当時トリトン大陸にいた人々から、一方通行であることを伝えた上で別次元に移動したい希望者を移動させていった。

しかし、其処で重大な問題が起こった。
それは別次元の広さ。
いくら魔物がいない別次元に移動して安全だといっても、別次元内の移動には限りがあった。
俺がプリズンタウンで見た太陽や山々や大草原も人工的なもので、確かに其処にはあったがそれは自然のものではなかった。非常に似てはいたが、実際は似て異なるもの。
プリズンタウンがプリズンロックの位置と同じ理由は、守備の為だったという。
魔物から人々を離す場所と言えど、優先的に別次元へ行くのを気にくわないとする人間たちがいたからだそうだ。
同じ人間であるにも関わらず、優先される者たちとされない者たち。
セクゥンド大陸、ルフーマ王国で起きた"国落とし"の一件により、人々は今まで以上に恐怖し、聞き耳を立てていたらしい。
そうしたことの他にも別次元へ移動出来るソフィア王国の技術は一部の人間たちには漏れていたようだ。

ソフィア王国の技術には関心しかないが、俺は別次元ではなく魔物がいても現実世界のほうがまだいい。
ただそれでも、当時は魔物が居ない世界で暮らすことを望む人々がトリトン大陸には多かったそうで、プリズンタウンをはじめ、トリトン大陸の各地には別次元の世界が存在しているという。

俺がこれらのことを知れたのは、ダグラス、ホルト、ロサがソフィア王国と繋がっているからだ。
ボトロアは違う。ボトロアは別次元に行くことを望んだ希望者の1人。
ラピスが知っていて、見なくなったと言っていたのだが、そうした背景があったということ。

ただ、俺は話を聞いて疑問に思ったことがある。
それはホルトは何故、現実世界に移動出来たのかということ。
考えられるのはホルトがソフィア王国と繋がっている為。俺もベヒーモスと戦う為に一度入ったプリズンタウンから出ることが出来たのは、彼と一緒だったからだろう。
仕組みまでは聞いていないが……何らかのソフィア王国の技術なのだろう。

それと、魔王の城に行く為にボトロアに言われたのは、魔王の城への行き方は一つではないという話だった。
つまり、俺が過去にスターダスト付近にある森の中で見た大洞窟はその内の一つだということ。間違っても入らなくて良かったなとボトロアは笑いながら話していた。





ボトロアが船を完成させるまでの間、俺たちはプリズンタウンから出て魔物の討伐に勤しんでいた。
此処らの魔物はレベルも高く、倒しがいもあってその上ステータス上昇にも繋がる。
俺はセシルと行動。セシルは華麗な動きで魔物を翻弄し、接近戦に持ち込んで倒す。
自身より何倍も大きいアイアンリザードは一方的に倒されていた。
今回、一月の時間が出来たことでカサルの地で教えるはずだった剣術を駆使して。
剣術に関しては早い飲み込みだ。それに加えて格闘術、レベル86のアイアンリザードはなす術無しといった感じだった。

「ーーセシル、話したいことがある」

樹の上にいるセシルに呼びかけた。

「っと! なに?」

と俺の元に着地。

今までの旅をセシルと過ごして来て言いたかったこと、それを言おうと思う。

「今回の旅ーー魔王の城に行くにはセシル無くしてはあり得ない。セシルは強い。……だが、無茶はするな」

セシルの戦いぶりを見てきて、心底強い獣人だと実感した。
ただ反面、誰かの為になると自分を犠牲にしかねない。
セシルがバタリアの無法地帯で売られてしまっていたのも、仲間を助けたいという一心から来た油断からの結果。

アルバードの爺さんが言っていた宝剣を神剣にする為の犠牲は回避出来たが、行く場所が場所。セシルの性格を考えると無茶をしかねない。

セシルは俺の言葉を聞いた後、何も言わず振り返った。

「セシルは皆んなの力になるだけだよ」

そう言ってセシルは微笑した。





川の見える森の中を歩いていると魔法水晶体の反応があった。
この反応は……

「メアか」

『来たわよ、今何処?』

どうしたんだ?
口調が怒っているように感じる。

その後、メアから事情を聞いた。
話によると、メアは一度プリズンタウンに行き岩壁付近で髪の長い女に会ったそうだ。
そこで俺たちの仲間であることを髪の長い女に伝えたそうだが、証拠がないと突き返されたという。
確かに証拠がないと言われてしまうと証明は難しい。
一応、俺たちの他にも仲間が来るかもしれないことをプリズンタウンの管理人であるダグラスたちには伝えていたのだが。

ややあって、プリズンタウンの入り口から離れた岩壁付近でメアと合流した。
ムスッとした表情だったが、俺が現状を話しているうちにそれもなくなっていった。
その後、プリズンタウンに入る為待っているとロサが出て来てメアに謝っていた。
プリズンタウンは本来なら隠された場所。誰か分からない者を入れることは管理人の許可がいる。
その為、許可なしに入ることは本来なら禁止されている。
その上、別次元であるプリズンタウンに入る為には各国が秘密裏に行う調査の対象にならなければ本来であれば不可能なこと。
その為、調査対象に当てはまらなかった俺たちは警戒されてしまったというわけだ。
アルンのことは無理に話さなくてもいいだろう。
ソフィア王国と繋がりがあるんだ、尚更話すべきではない。

「そう言えば、貴方達の仲間のお二人はどうされました?」

「さあな、そう遠くには行かないと言ってたからその内戻るだろう」

ラピスとテールにアルンを付かせたのはもしもの時に別次元へ行ける為だ。

「……あまり、こんなことは言いたくありませんが、此処は魔王の城がある大陸。仲間への過信が悪いとまでは言いませんが、慎重にはなった方がいいと思います」

「それは確かに俺も思う。だが、あいつらは大丈夫だ」

テールの力の全てを見たわけではないが、彼は勇者。一緒にいるのは上昇の能力を持つ白魔導士に別次元へ瞬時に行ける精霊獣のアルンもいる。
過信というより、安心という感覚に近い。

「……そうですか。それなら私が何か言うのは野暮というものですね」

それから、俺たちはプリズンタウンで待っていたが、ラピス、テール、アルンはその日帰って来なかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

弟のお前は無能だからと勇者な兄にパーティを追い出されました。実は俺のおかげで勇者だったんですけどね

カッパ
ファンタジー
兄は知らない、俺を無能だと馬鹿にしあざ笑う兄は真実を知らない。 本当の無能は兄であることを。実は俺の能力で勇者たりえたことを。 俺の能力は、自分を守ってくれる勇者を生み出すもの。 どれだけ無能であっても、俺が勇者に選んだ者は途端に有能な勇者になるのだ。 だがそれを知らない兄は俺をお荷物と追い出した。 ならば俺も兄は不要の存在となるので、勇者の任を解いてしまおう。 かくして勇者では無くなった兄は無能へと逆戻り。 当然のようにパーティは壊滅状態。 戻ってきてほしいだって?馬鹿を言うんじゃない。 俺を追放したことを後悔しても、もう遅いんだよ! === 【第16回ファンタジー小説大賞】にて一次選考通過の[奨励賞]いただきました

異世界で料理を振る舞ったら、何故か巫女認定されましたけども——只今人生最大のモテ期到来中ですが!?——(改)

九日
ファンタジー
*注意書あり 女神すら想定外の事故で命を落としてしまったえみ。 死か転生か選ばせてもらい、異世界へと転生を果たす。 が、そこは日本と比べてはるかに食レベルの低い世界だった。 食べることが大好きなえみは耐えられる訳もなく、自分が食レベルを上げることを心に決める。 美味しいご飯が食べたいだけなのに、何故か自分の思っていることとは違う方向へ事態は動いていってしまって…… 何の変哲もない元女子大生の食レベル向上奮闘記——— *別サイト投稿に際し大幅に加筆修正した改訂版です。番外編追加してます。

スキルが覚醒してパーティーに貢献していたつもりだったが、追放されてしまいました ~今度から新たに出来た仲間と頑張ります~

黒色の猫
ファンタジー
 孤児院出身の僕は10歳になり、教会でスキル授与の儀式を受けた。  僕が授かったスキルは『眠る』という、意味不明なスキルただ1つだけだった。  そんな僕でも、仲間にいれてくれた、幼馴染みたちとパーティーを組み僕たちは、冒険者になった。  それから、5年近くがたった。  5年の間に、覚醒したスキルを使ってパーティーに、貢献したつもりだったのだが、そんな僕に、仲間たちから言い渡されたのは、パーティーからの追放宣言だった。

【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~

みやま たつむ
ファンタジー
【本編完結しました(812話)/後日譚を書くために連載中にしています。ご承知おきください】 事故死したところを別の世界に連れてかれた陽キャグループと、巻き込まれて事故死した事なかれ主義の静人。 神様から強力な加護をもらって魔物をちぎっては投げ~、ちぎっては投げ~―――なんて事をせずに、勢いで作ってしまったホムンクルスにお店を開かせて面倒な事を押し付けて自由に生きる事にした。 作った魔道具はどんな使われ方をしているのか知らないまま「のんびり気ままに好きなように生きるんだ」と魔物なんてほっといて好き勝手生きていきたい静人の物語。 「まあ、そんな平穏な生活は転移した時点で無理じゃけどな」と最高神は思うのだが―――。 ※「小説家になろう」と「カクヨム」で同時掲載しております。

アラヒフおばさんのゆるゆる異世界生活

ゼウママ
ファンタジー
50歳目前、突然異世界生活が始まる事に。原因は良く聞く神様のミス。私の身にこんな事が起こるなんて…。 「ごめんなさい!もう戻る事も出来ないから、この世界で楽しく過ごして下さい。」と、言われたのでゆっくり生活をする事にした。 現役看護婦の私のゆっくりとしたどたばた異世界生活が始まった。 ゆっくり更新です。はじめての投稿です。 誤字、脱字等有りましたらご指摘下さい。

世の中は意外と魔術で何とかなる

ものまねの実
ファンタジー
新しい人生が唐突に始まった男が一人。目覚めた場所は人のいない森の中の廃村。生きるのに精一杯で、大層な目標もない。しかしある日の出会いから物語は動き出す。 神様の土下座・謝罪もない、スキル特典もレベル制もない、転生トラックもそれほど走ってない。突然の転生に戸惑うも、前世での経験があるおかげで図太く生きられる。生きるのに『隠してたけど実は最強』も『パーティから追放されたから復讐する』とかの設定も必要ない。人はただ明日を目指して歩くだけで十分なんだ。 『王道とは歩むものではなく、その隣にある少しずれた道を歩くためのガイドにするくらいが丁度いい』 平凡な生き方をしているつもりが、結局騒ぎを起こしてしまう男の冒険譚。困ったときの魔術頼み!大丈夫、俺上手に魔術使えますから。※主人公は結構ズルをします。正々堂々がお好きな方はご注意ください。

引きこもり転生エルフ、仕方なく旅に出る

Greis
ファンタジー
旧題:引きこもり転生エルフ、強制的に旅に出される ・2021/10/29 第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞 こちらの賞をアルファポリス様から頂く事が出来ました。 実家暮らし、25歳のぽっちゃり会社員の俺は、日ごろの不摂生がたたり、読書中に死亡。転生先は、剣と魔法の世界の一種族、エルフだ。一分一秒も無駄にできない前世に比べると、だいぶのんびりしている今世の生活の方が、自分に合っていた。次第に、兄や姉、友人などが、見分のために外に出ていくのを見送る俺を、心配しだす両親や師匠たち。そしてついに、(強制的に)旅に出ることになりました。 ※のんびり進むので、戦闘に関しては、話数が進んでからになりますので、ご注意ください。

5歳で前世の記憶が混入してきた  --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--

ばふぉりん
ファンタジー
 「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は 「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」    この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。  剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。  そんな中、この五歳児が得たスキルは  □□□□  もはや文字ですら無かった ~~~~~~~~~~~~~~~~~  本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。  本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。  

処理中です...