百花繚乱 〜国の姫から極秘任務を受けた俺のスキルの行くところ〜

幻月日

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第201話 魔獣ベヒーモス

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崖の斜面を滑り降りて地面に着地。
森で見かけるような土ではなく赤褐色の土。それが、地面全体に広がっている。

「さすがにでかいな」

まだかなり離れているが、それでも異常な大きさだと認識出来る。
しかも俺が来たことに気付いていないようで、蹲っているだけだ。

いびきのような音も聞こえる。
王者の風格、人間の勇者なんて取るに足らない相手ということか。

……それに、此処に来るまでの間、他の魔物を一切見かけなかった。
これも、おそらくだが此処にベヒーモスがいるからだろう。

崖の上にいるホルトは突っ立って見ている。
確か、ホルトは言ってたな。俺のようにベヒーモスと戦う勇者に賭けを持ち掛けていると。俺以前にもベヒーモスと戦った勇者は死んだのか?
そういうことも気になるが、今は目の前の敵に集中する時。

さて、こいつをどう叩き起こそうか。

MAXの撃技と斬撃で反撃すら与えない戦法も面白いが、それではつまらない。
普通ならそんな悠長なことは考えないのだが、どうも今の俺は違う。
この巨体、俺の百倍以上はある魔獣との交戦。それを望む俺がいるというのは勇者だからこそ。

にしても、いくらこの場所が陥没していてもそれ以外は大森林が広がっているばかり。ベヒーモスが此処に居るのは住処だからか?
住処、そう呼ぶには程遠い場所だが……

「お目覚めか」

ベヒーモスの眼が開き、黒い球が俺を捉える。
ギザギザの両角に電撃音が奔り、両角の下から上へ掛けて金赤の色が昇る。見た通り、雷の角のようだ。

「グォオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!」

巨体は立ち上がり、天を向いて吠える咆哮は大気の空気を大振動させる。

俺の身体に起こったのは武者震い。ボルティスドラゴンでさえ、これほどの武者震いを感じなかった。
それに一瞬ではあったが、こいつが魔王に見えてしまった。

「っ!?」

俺は高々と跳び上がった。
ベヒーモスが初手、右の前脚を地面に叩きつけた。地面には雷のように亀裂が四方に入り、衝撃は地面に波を作り出した。
波となった地面は弾け飛び、初めから大荒れだ。

さすがレベル150は伊達じゃないな!!

ベヒーモスの両角に雷が迸り、その間に雷が繋がって次第に埋め尽くされた。その状態でベヒーモスは上体を前脚の方へ高速で振る。
三日月型の雷が真っ直ぐに俺に向かって……

「グオオッオ!!!??」

俺の放った斬撃、攻迅斬波は攻斬波と迅斬波の合わせ技。一点集中と高速の斬撃は放たれた矢のよう。
ベヒーモスが撃ち出した三日月型の雷は攻迅斬波によって貫かれ、ベヒーモスの左角半分ほどが高々と吹っ飛ぶ。

「悪いな、次はもう一本ーーなっ!?」

邪魔なもう一本の角を折ってやろうと、もう一撃攻迅斬波を放とうとした瞬間より早く、ベヒーモスは右前脚を地面に叩きつけた。それも一撃目より強い衝撃。
地面の亀裂が四方どころか加えて四方に入り、衝撃で来た地面の波と共にベヒーモス本体までもが突撃して来る。

迎え討つかさっきと同じように跳び上がるかーー考えている時間はない!

俺は速技の解放に加え、ヘリオスの村で取得した浮魔の力を空中に置いて移動させる。後方では電と赤褐色の土が空に向かって舞い上がっている。

地面に着地すると、ベヒーモスはその巨体を振り向かせる。
巨体に反しての速さ。パワーもスピードもある、この二つを持っている魔物が強いのは長年の経験からでも分かる。
なら、突くべきは防御……といっても150の防御を持つ魔物を見る機会はそうそう滅多にない。

さあ、どうこの壁を崩そうか。





ベヒーモスの強力な一撃を躱しつつ、俺は斬撃を本体に向けて放っていた。
だが、それらの斬撃を受けて尚、ベヒーモスの猛攻は止むことがない。
それどころか斬撃で刺激されたらしく、メガトン級の前脚が飛んで来る。
爪は重力の方へ鋭く曲がっており、俺が躱した軌道上の地面が削られる。

「おーい! もたもたしてたら殺されるぞ!」

かなり離れた処からホルトがそう叫ぶ。

あいつ、馬鹿なのか?
そんなことしたらこいつに……

みろ、ベヒーモスが気付いた。

ベヒーモスの右の巨角からホルトに向かって一直線に電撃が空中を走る。

「これは……」

電撃はホルトに命中することなく、膜のようなものによって止められた。それは窪んだ大地にあるようで、まるで水面に落ちた石のように波紋が広がっていく。

なるほどな。と同時に俺は理解した。ベヒーモスが此処から移動しない理由は今まさに起きたことによるものだろう。おそらく魔防壁ではあるようだが……ベヒーモスレベルの魔物に本来は意味を成さないもの。
それに、仮に魔防壁だとしても中にベヒーモスがいる理由も不明。

ベヒーモスは攻撃対象を直ぐに俺に戻して相変わらず強力な一撃をしてくる。
大地は亀裂だらけだ。

ならーー。

一閃。俺は夢幻斬を放つ。

「グォオオオオオオオッ!!!?」

手応えあり。
ベヒーモスの巨躯が大きく揺らぐ。しかし、まだ倒れないその体力、タフさには驚かされるばかりだ。

ベヒーモスが体勢を低くし、口を開けた瞬間、燃える火球は放たれた。ベヒーモスは俺を休ませまいと続け様に二発三発と放って来る。
俺はそれを避けていくが、熱風が後から身体全体に当たる。焼けるほどの熱さ、火球本体は凄まじい温度なのだろう。

そして俺が躱した火球は、先ほどの雷と同様に膜に阻まれて爆発する。
波紋は電撃の時より大きい。
魔獣というよりもはや怪獣、俺も幾度と斬撃を放ち夢幻斬までも放った。それでも尚倒れないタフさ、なるほど、“国落としの魔獣“と呼ばれるのも分かる。

ベヒーモスの動きが落ち着いた。
体力切れ、というわけではなさそうだ。両角から放出されていく雷が丸くなっていく。
空中で静止する雷の球、それをベヒーモスは噛み砕いた。
電撃がベヒーモスの口元から左右に奔り、口元からは炎が漏れ出てる。

ベヒーモスはそれをあろうことか飲み込んでしまった。
自爆……そんなわけはない。

ベヒーモスの毛が逆立ち、バチバチとした轟音と電が周囲に散乱する。ベヒーモスは一回、二回と後ろ大きく飛んで移動し、ガバッと牙剥き出しで口を開いた。

このエネルギーは、やばい。

直後、俺のいた直線上に馬鹿でかい電撃の咆哮が放たれた。それが数秒間、電撃の咆哮の矛先はやはり膜によって止められていた。
俺とベヒーモスが戦っている陥没した大地の上空に波紋が一気に広がっていく。
その波紋は俺の真上を通り過ぎる。

「恐ろしい攻撃だな」

俺は瞬時に速技+8を解放し、ベヒーモスより遥か上空にいた。似ている、あの時と。

俺は速技のエネルギーを持続したまま雷霆斬で狙いを定める。

「グォオオオッオオッ!!!?? オオオッ!?」

大地の一点まで直撃した雷霆斬が漸く止まる。
ご自慢の防御力を貫かれたベヒーモスも流石にひとたまりではなかった。

巨体は倒れ、“討伐”、その二文字は俺の手に。


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