百花繚乱 〜国の姫から極秘任務を受けた俺のスキルの行くところ〜

幻月日

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第200話 プリズンタウン

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街に入る前、アルンは小型化してラピスの持つ荷物に隠れさせた。エルピスの街の時のように騒ぎにさせない為だ。
街中へ入ると、ヴィダの街のように警戒はされていない。
というより、俺はまだこの街が街なのかも疑っている。
まずは此処が何なのか、誰かに話を聞いてみようか。

「退いてくれ。ーーなるほど、君達か」

人々の間に道を作り現れたのは3人の者たち。

「どうやって入って来たのかは知りませんが、少なくとも度胸はありそうだ」

「どうだ? カレン。この人らで間違いないのか?」

人々の間から姿を見せたのは岩壁頂上で俺に矢を撃って来た青年。
青年は頷き、俺を睨んだ。

「いきなりで申し訳ないんだが、早々に此処から立ち去ってくれるかな?」

3人の者たちの1人、スラリとした体格の男がそう言う。

「なら、2、3俺の質問に答えてくれたら去ってやる」

3人の者たちが何やら言い合い、また向く。

「いいだろう」

3人の者たちの1人、見た目が明らかに勇者の男がそう言う。

「まず、此処はプリズンタウンか?」

「そうだ」

勇者の男は即答だった。特に隠す必要もないのだろう。
それに加えて見える太陽や雲、山々の意味も知りたいところだが今は別の質問。

「ボトロアという者はこの街にいるか?」

「ボトロア? ああ、あの爺さんか。いるが、何処に住んでいるかまでは知らん」

どうやら、この街の何処かにはいるようだ。

「質問は以上だな。さあ、早く出て行くんだ」

プリズンタウンの人々も何事かと集まって来てしまっている。

「……最後ーー俺たちは魔王の城に行く為にこの大陸に来て、そしてこの場所に来た。何でもいい、魔王の城について知っていることを教えてくれ」

俺がそう言うと、人々がざわつき始める。
3人の者たちも困惑しているようだ。

「……場所を変えよう」

「ついて来るんだ」

そう言われるように、俺たちは後をついて行く。
出て行かなくて済んだのは幸いだった。





「ーーつまり、君たちは遠路遥々魔王の城へ行く為にこの大陸に来たと」

俺たちがトリトン大陸に来た経緯をざっくりとだけ話した。

「そうだ。だから」

「だからって、我々がそう易々と話すと思うか?」

勇者の男は俺の言葉を遮るようにして言った。

「そうだな……だったらここは一つ、あんたらが信頼に足る人たちかどうか、テストをさせてもらおう。この中で1番腕の立つ者は誰だ?」

皆が俺を指差す。

「君か。名をなんと言う?」

「俺はシン」

「そうかシン。私はダグラス、この街では管理人の立場にある。そして、さっきホルトが言ったように、君たちが信頼に当たる者たちか、これからある魔物を討伐しに行ってもらう。行ってもらうのはシン、君だ。異論は認めん」

俺は頷く。

「それじゃあ直ぐにでも行ってもらおうかな。監視役は俺だ」

そう言って、ホルトは自身を指差した。

「監視役?」

「そうだ。君たちの他に仲間が居ないとも限らないし、君一人でその魔物を討伐するからこそテストの意味がある」

そういうことか。というより、メアがまだ居るんだけどな。

「なるほどな。それで、その魔物っていうのは?」

「……魔獣ベヒーモス、聞いたことくらいあるだろう?」

魔獣ベヒーモス。
山ほどに巨大な魔物で、レベルはゆうに100は超えるとされる。個体数も少なく、勇者の間でも恐れられている。

「ベヒーモス!? そんな無茶な!? ベヒーモスって言ったら、“国落としの魔獣”と呼ばれるほどの魔物だ!」

テールの言うその個体は遠い昔の話。
話によると、セクゥンド大陸の東部に位置していたディパラという国がたった一体の魔物によって滅ぼされたのだという。それが“国落としの魔獣“と呼ばれるようになった所以。

「テール、いい。俺も一度でいいからそいつとは戦ってみたかったって思ってた」

これは俺の本音だ。前までの俺なら避けていた魔物だが今はそう思わない。国落としなんてつくほどの巨体な魔物だが、滅多に人前に姿を現さないという。

「強がりを……。ホルト、彼の案内を頼んだぞ」

そうして、俺はホルトと共に魔獣ベヒーモスの居る場所まで向かうこととなった。





岩壁の反対側、其処は大森林が広がる地。俺とホルトは大森林の中を歩いていた。

「あんたがベヒーモスに勝てるかどうか……、俺と賭けをしないか?」

「賭け?」

「そうだ。俺はな、毎回あんたみたいにベヒーモスと戦う勇者に賭けを持ちかけてる。もちろん俺は勝てないにベッドする。はは、あの魔物に1人で勝てる奴なんていないかな。せめて、アルフレッド並の勇者じゃなきゃな」

ということは、1人では今までベヒーモスに勝った奴はいないということか。

「なら、俺が勝った時はどうするんだ?」

「はは、冗談。……本気か?」

どうやら、俺がベヒーモスに勝てないと話を進めていたらしい。
俺はホルトから視線を逸らさない。

「まったく、何処にでもいるもんだ、自信だけ勇者。そう言って、何人の勇者が負けていったか」

ホルトはやれやれといった様子で進む道の方を向く。

「それでどうなんだ?」

「……あんたがベヒーモスに勝った時、その時は魔王の城のとっておき情報を教えてやる。あんた、魔王の城のこと何でもいいから教えてくれって言ってたよな」

なるほど、タダでは教えてくれないということか。

「ああ。魔王の城に秘宝はあるのかないのか、とか」

そう言うと、ホルトの眉が一瞬だったがぴくりと動く。

「はは、まあ今は何を言おうと自由だ。あんたがベヒーモスに勝てたなら俺が知っていることは話す」

そう微笑しながら話す様は、俺がベヒーモスに勝てないと決めつけられているようだ。


ややあって、ベヒーモスの居るという場所までやって来た。
其処は大地が大きく陥没しており、森の樹々は一切なく、亀裂、深い谷などが見られる。

「俺は此処であんたとベヒーモスの戦いを見届ける。タイムリミットは設けない。勝つか負けるか、ただそのどちらかだ」

「ふん」

こうしていると、バタリアのテクニック・ザ・トーナメントのことを思い出す。バトルフィールドが数十倍……いや、数百倍以上広いのと、相手のサイズがあの魔竜イクリプスドラゴンよりもでかく、俺が今まで見て来た魔物の中では断トツで大きい。

俺は崖の斜面を滑りながら降りていく。

陥没した大地の平面になっている場所にそいつは蹲っていた。


ベヒーモス
LV.150
ATK.250
DEF.150


赤褐色の土の中にあって、まるで宇宙から降って来た隕石のような生命体。
燃えるような赤と、毒々しい紅紫の表面皮膚。いや、あれは皮膚というより体毛と見える。蹲って確認出来るギザギザした両角はまるで雷を吸収したような色。

なるほど、俺がこれから一戦する魔物は桁違いの奴のようだ。今まで、散々いろんな魔物と交戦して来たが、こうも武者震いする魔物に出会うことはそうはない。

ホルトの奴も良い機会を与えてくれたよまったく。

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