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第196話 善か悪か
しおりを挟むジバルドとの交戦が始まってから俺は幾つかの斬撃技を放った。
だが、そのどれも防がれているという状態が続いている。
「本気を出さないたあ、ますます解せねえ!! ーー分かったよ。そんなに死にたきゃあ俺のバルバルスの餌食にしてやるよ!!」
飛ぶ斬撃、それは悲鳴のような音を上げて俺の放った斬撃を飲み込んでしまった。
「……」
なるほど、だいたいこいつの攻撃パターンが掴めて来た。基本、一発一発が重い斬撃に加えたまに俺の迅斬波並の速さの斬撃を撃つ。その上、俺の斬撃を防ぐという冷静さも持ち合わせている。
「だんまりとはようやく俺の恐ろしさを理解したか? そういやお前、以前言ってたよな。
強者はいつまでも強者でいられない、立場を変えれば弱者になると。だが俺の解釈は違う。強者は強者だからこそ強者で在り続けることが出来るんだよ。理解の乏しいお前みたいな勇者は延々と能弁だけ垂れて……強者の前に死んで逝くしかねえんだよ!!」
ジバルドはそう言い終わったのと同時に斬撃を繰り出した。
今までで1番でかい斬撃、その上速い。
俺は速技+5を解放して避ける。
「甘いっ!!!」
ジバルドは斬撃を飛ばさないがバルバルスを振った。
なんだ?
「っ!!!?」
避けたはずの斬撃の衝突音が聞こえなかった。が、それはどこかに衝突したわけではなく戻って来た。
俺は何とか後方にアスティオンを回すことで直撃は免れた。
だが、斬撃の大きさもあってその衝撃は半端ではない。
俺はすかさず破砕の斬撃を放ち相殺する。
「……解せねえな。それほどの力があって何故お前は奴らといる? 強者には使い勝手のいい従順なペットがいりゃそれでいいだろう? それとも何か? お前にとっては奴らこそ従順なペットってか?」
「……」
「はーっ! はっはっはっ! なんだ黙って、まさか図星だったか? 可哀想だな、お前の仲間もお前も。ーーもう死ね!!」
そう言って、ジバルドの持つバルバルスの周囲に風が集まって、それは徐々に血の色を成していく。
ジバルドの奴、好き勝手言ってくれるな。もちろん俺はメアたちを仲間だと思っているし、『血の契約』をしたボルティスドラゴンやライトイブリースも仲間だと思っている。
ジバルドはバルバルスを振り回し、ピタリと止めた。瞬間、黒みのおびた赤赤しい風がバルバルスに吸収されていく。
振り下ろされた暗紅の斬撃は一直線に俺に向かって放たれた。
俺は魔物だけでなく多くの勇者と交戦して来たが、本当に殺す気で斬撃を放って来た奴はいなかった。
だが、ジバルドは違う。これは殺気に満ちた斬撃。
これに対して俺に出来ることーー。
◇
「ぐはっあっ!? なんだよ……そりゃ」
ジバルドはその場に倒れた。
ジバルドは咄嗟にバルバルスを盾にしたようだが、俺の斬撃は盾ごと斬った。ジバルドにとっては思っても見なかった反撃だろう。
夢幻斬。
申し分なさ過ぎる威力。あの時は5日間の空腹状態と深淵の中でやったが、なるほど、今は意識的に出来た。
「ううっ」
ただ、やはりその威力だけあって、意識不明とまではいかなかったが反動があった。
強制的に体力と魔力を持ってかれた。
なるほど、力には相応のリスクがあるということか。
「はぁはぁ……畜生っ!!」
どうやら、まだ息があったらしい。
ジバルドはそう叫ぶが状態を上げることすら出来ないほどにダメージを負ったようだ。
ジバルドの武器であるバルバルスは折れ、身体には深そうな斜めに長い傷痕。
「ジバルド、俺は強者でも何でもない。勇者として魔物を討ち、1人の人間として仲間の為に戦う」
「戯言! ぐっ!? はぁはぁ……いいか!? 勇者が勇者たる所以は自分を強者だと認め、その道を突き進む者のこと! お前に負けた俺は道から外れちまったがよ、お前は! 違うんじゃねえか!? ぐはっ!?」
吐血しながらもジバルドは勇者の何たるかを説く。
「確かにな、俺も昔はそう思っていた時期もあったよ。ーーだが、今はもう」
勇者になったのだから、強者の道を歩む。そう言ったジバルドの言葉も分からなくもない。
だが、勇者とは力無き人々を魔物から守り、共に戦う仲間と道を突き進んで行く者。
少なくとも俺はそう思っている。
「はっ、宝の持ち腐れとはまさにこのことだな。お前のその力がありゃ覇王の道も行けそうだってのによ」
「あいにくだが俺はそんなものに興味はない。それに、もうお喋りはいい。ジバルド、魔王の城のことを知っているなら話せ」
俺はアスティオンを仰向け状態のジバルドへ向ける。
「ははは……いいだろう。だが、それを聞いて後悔するのは、お前だ」
◇
「……」
「あまりのことに言葉も出ないか? 無理もねえ。エティネルは選ばれし闇の王だからな。少し力がある奴が現れたところで到底エティネルには敵わねえよ」
こいつ、仰向けになって動けないのに嫌に強気だな。
にしても、ジバルドが言ったことが本当なら人類にとっては絶望的な話だ。
魔王エティネル、そいつが魔物共の親玉にして、闇を統べる王。
先代魔王がアルフレッド一行によって討伐されてから次代の魔王として現れたとされる。
「なら、お前をここで殺せば魔王は現れるのか?」
「はっ! 何を言うかと思えば……いいか? エティネルは俺のような勇者なんぞ何とも思ってねえよ。強さとかそういうんじゃねえ。俺が使者でもない限り、エティネルは動きやしねえんじゃねえか? よーするにだ、エティネルにとっちゃ人間なんてどうでもいいってことだ」
使者とは地獄の使者のことだろう。地獄の使者とは魔人の中でも特に脅威とされる奴らの総称のこと。
「それに言っとくがな、俺を倒したからって善人面してんじゃねえぞ? 俺からすればお前のように抵抗する勇者は悪……それを理解しとけ。ツヴァイバーン!!」
と言い終わる時、ジバルドはそう叫んだ。
すると、向こうでセシルたちと戦っていたツヴァイバーンが飛んで来て、地面に仰向け状態のジバルドを咥えて飛び上がった。
「逃がさない!!」
テールが弓を放つ。
だが、ツヴァイバーンの一頭が口から放った雷により矢は燃やされてしまった。
「セシルさん!」
「任せて! いっくよー!!」
ラピスの両手が光り、セシルの脚にエネルギーが集中していく。
ツヴァイバーンのさらに上に行き、かかと落としの体勢に入る。
「外れた!? さっきまでの動きとまるで違う!」
テールが驚くようにそう言った。俺はツヴァイバーンの戦う動きを全て見ていたわけではなかったが、今、見る限りかなりの速さでセシルのかかと落としを躱した。
「はーっはっはっは! 『血の契約』の真の力を知らねえ奴らめ!! ツヴァイバーン!! 雷炎爆だ!!」
二頭がそれぞれ雷と炎を合わせて、それは巨大な雷と炎の球となって地上へと落ちた。
大爆発に混ざって無作為に迸る雷鳴、周囲の樹々に炎が発生する。
「……行ったか」
最後に悪あがきでは済まされない攻撃を残して、ジバルドは空の彼方へと去って行った。
残ったのは俺たちの戦闘によって大破した森と、まだバチバチと鳴る雷の音、燃え盛る樹々。
そのまま進んで行くのも気が引けて、俺たちはそれぞれの技によって消火した。
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