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第193話 提案
しおりを挟むティナの容態は回復し、メアが彼女の家まで送り届けて行った。
そして俺たちは今、ヴィダの街の長であるローゼンの家にお邪魔しているところ。其処でローゼンからこのヴィダの街が置かれていた状況を全て聞いた。
俺たちがこのヴィダの街に来てアレクから聞いた話に出て来た魔人は、ギールではなかった。そいつはその時だけいた魔人だそうで、後にヴィダの街にやって来たのが魔人ギール。
そして魔人が“生贄”と称するのは、魔人が魔人とし在り続ける為のものだった。
なんでも、魔人は人間の生命エネルギーを取り込むことで、なんらかの方法で新たなる魔人を生み出すらしい。
ただ、“生贄”とされるのは誰でもいいというわけではなく、男でもなく子供ではない女性が対象。それは生命エネルギーの本質が男と女ではまるっきり違うからだという。
中でも生命エネルギーの富んだ女性を魔人は好むそうで、判断は若く健康体であるというものらしい。
魔人ギールは定期的にヴィダの街に魔物と共にやって来て、女性の生命エネルギーを持っていくのだという。
だが、今はもうその心配もない。魔人ギール含む、他の魔物たちも俺たちが討伐した。
「ーーだからか」
そう言ったのはバタリアで現れた魔人が発言した内容の合点がいったからだ。
「私……」
メアが自身の身体を抱く。
「大丈夫だ」
そう言って俺はメアの頭に手を乗せる。
メアだけじゃない、セシルもラピスも魔人の手に堕とさせるようなことなんてさせない。
「セシル、魔人になんかにやられない! こうして! こうやって! こうやっちゃうんだから!」
セシルが格闘技を決めるようにポーズを次々にとった。
「……セシルは心が強いわね。私と違って全然……」
「そんなこと言ったら私も同じです! 魔人が怖い……怖い」
セシルとは打って変わってメアもラピスも嫌に弱気だ。無理もない、2人とも魔人に対してトラウマを持っている。
「どうやら君たちにも少し休憩が必要のようだな。どうかな? 今夜は私の家でご馳走するよ」
「世話になるよ」
日は暮れていないが間も無くして暮れる頃だろう。それに、魔防壁もない、見たところ勇者たちもいないヴィダの街に俺たちが居ることで住人たちに少しでも安心してもらえるだろう。
◇
「随分と長い旅をして来たのだね」
夕食を終えてローゼンと話していた。
「まあな。思い返せば色々あったよ」
俺がシーラ王国に捕まって地下の牢獄に入れられた後のことーー本当に色々あった。
「本当ね。今思うとあの時、私がシンに話しかけなかったら私はここにいなかったかもね」
「そうか?」
「そうかってシン、それどういう意味よ? それじゃあまるで……」
「そういう気がしただけだ。たまに聞くだろ? 会うべくして会う者同士がいるっていう話」
「な、何よ急に……シンらしくない」
俺らしくないとはどういうことだ。
「ロマンティックです! シンさんとメアさんは運命の出逢いをしたというわけですね!」
ラピスが両手を合わせて何故か嬉しそうにそう語る。
「ラピスお前何言い出すんだ? 偶然だ偶然!」
俺も何ムキになってんだか。
そんなの偶然に決まっている。
「セシルはシンとメアに会ったのは運命だと思うー! ラピスもねー!」
セシルは相変わらずだ。俺の右側の席でテールが俺は? と小さく言ったので何とも言えない気分になった。
セシル、そこはテールも入れてあげよう?
「どうしたんだ?」
俺たちが話していたら、離れて座っているローゼンが目元を拭うような仕草をした。
「どうも歳を取ると涙腺が緩くなってしまってね。君たちを見ていると懐かしい気持ちになったよ」
「……ローゼンさんはここに1人で住んでいるの?」
メアがそう聞く。
ローゼン1人で住むには広過ぎる家。大きな庭もあって部屋も幾つか見られる。
俺たちが今いるリビングだけでも、まだまだスペースがある。
「そうだよ。ーー昔は私にも家族がいたのだけどね。魔物とは本当に恐ろしい存在だよ」
メアが悲しげな表情をして俺たちを見る。
「……ローゼン、俺たちに出来ることだったら何でも言ってくれ」
俺が言えることはそれくらい。
「ありがとう。その気持ちだけで十分だよ。ーーアレク! それに……ティナ」
開いた扉の向こうにいたのはアレクとティナだった。
「ローゼンさん! 俺はもう我慢ならない!」
「よせ!」
ローゼンの元に走り寄って来たアレクとの間にテールが割って入った。
「余所者は退いてくれ! これは俺たちヴィダの街の問題なんだ! それとも何か? あなたたちがこの街の問題を解決してくれるとでも?」
「ーー俺に一つ提案させてくれないか?」
◇
「……シン、それは無茶よ」
「そうです、いくらなんでも無謀過ぎます」
良い提案だと思ったのだが、メアとラピスに反対されてしまった。
「俺も仲間になっていうのもなんだか、そりゃ無謀ってもんさ」
テールまで。
「冗談……ですよね?」
ローゼンに至ってはかなり引き気味の表情をして、そう聞いて来る。
「あなた、もしかして悪い勇者なのですか?」
アレクは自身の元へティナを抱き寄せて、ローゼンと同じように引き気味の表情をして見て来る。
「あのなお前ら! 俺は真剣にだな……」
真剣に言った内容ーーそれはこのヴィダの街にボルティスドラゴンを呼んで、俺たちが去った後守っておいてもらおうというものだ。
確かに極端、異例過ぎる内容だが、現時点で俺たちが出来そうなことと言えばこれくらい。
ヴィダの街の住人たちを含む大勢で旅を進めるわけにもいかない。
かと言って、ヴィダの街に他の勇者たちや国の兵団が来るまで待っていてもそれは何の保証もない。いつになるかも分からないことに、待ってはいられない。
となると、引き算的に残ったのは先に言った通り。
皆が俺を見る目が痛い。
ただ1人を除いては……
「セシルは賛成」
どうやら、セシルは俺の提案に乗ってくれるようだ。
「ダメよセシル! いくらなんでも、魔竜はちょっと……」
「セシルちゃん、魔竜よ、魔竜! 考え直して!」
お前ら……
メアとラピスはどうも反対したがる。そりゃ確かに、魔竜を一体街に置いて行くのもどうかとは思ったが、今出来ることと言えばそれくらいだ。
「……いや、でもそれが最善かもしれない」
と言ったのはテール。俺の意見に傾いたようだ。
ローゼンはどうだ?
と見るが、眉をしかめ、疑心たっぷりといった感じだ。無理もない。今日来た勇者がいきなり言い出したこと。いくら魔人と魔物共を討伐した一行だとしても、魔竜が街を守るなんて無理がある話。
当然と言えば当然の反応。
「……少し、時間をくれ」
だが、俺の真剣な言葉がようやく伝わり始めたのか、考えに変化が出て来たようだ。
ローゼンは座り、でこに両手の甲を当てるようにして俯いた。
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