百花繚乱 〜国の姫から極秘任務を受けた俺のスキルの行くところ〜

幻月日

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第192話 勇者VS魔人

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「アイツラハドコイッタノヨ!?」

魔人がうろ耐えている。
というのは、さっきまで辺りに居たヴィダの街の人々が飲まれるように姿を消してしまったからだ。

「気にするな。それよりお前の相手は俺たちだ。余所見してると死ぬぜ」

ヴィダの街の人々が姿を消したのは十中八九アルンの力。こんなこと出来るのは今アルンしかいない。それにひょっこりと頭だけ覗かせるのは、それを俺たちに伝える為だろう。アルンの力は向こうからこちらの様子を見ることは出来るが、こちらから向こうの様子を見ることは出来ない。
上出来過ぎるぞ、アルン。

魔人は諦めたようで、血走る目を俺たちへ向ける。
魔人は後方にいる魔物たちに合図を送り、雪崩れ込むように地面が振動する。
観察眼に表示されるのはレベル90代の魔物ばっかりだ。過去の俺たちじゃあ、かなり厳しい状況だっただろうが……さて、ヴィンスとの鍛錬の成果を試す時が来たようだ。

まずは周りの魔物共が邪魔。
俺の繰り出した迅斬波は魔物を次々に斬り裂き、メアが創り出した巨大な氷塊は魔物を一気に押し潰す。
そして衝撃を生むほどのセシルの蹴りの威力は魔物をことごとく吹っ飛ばしたし、高速で射られるテールの矢は飛ぶ魔物を次々に撃ち落とし、魔物の数はみるみる減っていった。

観察眼で確認した敵のレベルは殆どが90台。
俺たちの敵ではなかったようだ。
1番大型だった魔物も撃技の加わった破砕の斬撃には耐えられなかったようで、反撃しようとしていたようだが大破した。

残るは既に一体。

「ナニヨナニヨ……オマエラナニヨオオオン!! ヨクモワタシノカワイイカワイイマモノサンタチヲ!!」

「メアたちは下がってろ。俺1人でやる」

と言ったのは、魔人の力というものを知っておきたいからだ。
一応、観察眼で確認はしたのだが、バタリアの街に現れた魔人と同様にステータスを確認することは出来なかった。

魔人の生やす翼から異様なまでに血管が浮いてそれが全身にも及んでいく。

「ダレデモオナジコトヨオオオ!!!!!!!」

魔人の相手となったのは俺だった。ご丁寧に俺と戦ってくれるらしい。

「っ!?」

これが魔人か!
なるほど、力が尋常じゃないな!
えらくふっ飛ばされてしまった。

魔人の動きは止まらない。裂けるほどに口を開かせ、超音波のような音を発生させる。
それはメアたちにも届いてしまっているようで耳を塞いでいる。

「何やらかす気だ!」

一点集中型の斬撃、攻斬波で魔人を狙う。

魔人が後ろに引いて左右に両手を広げた瞬間、眩いほどのエネルギーが口から放たれた。まるで光線。

あいつら大丈夫か!?
俺は避けて着地し、煙が晴れるのを待つ。

「キャ、キャシャシャシャ……オノレ、ニンゲンノブンザイデ!!」

追撃して攻斬波をしておいてよかった。一応、魔人を正面から狙ったつもりだったが、直撃したのは右側の翼だった。撃技+7を乗せた攻斬波は魔人の右翼を大きく損傷させた。

「な、今度はなんだ?」

次から次へと、魔人の生態が不明過ぎる。

魔人の身体がボコボコと動き出し血管が波を打ち、それは次第に激しくなっていく。

「ヨミガエレ!!」

魔人のその言葉に合わせるように、身体の部分部分から赤い血が弧を描くように飛んでいき、討伐されている魔物の身体に矢のように突き刺さった。

「……まさか」

なんてことだ。死んだはずの魔物共が動き出した。だいぶ損傷しているはずの身体もそのままの状態で。
1番大型の魔物は、身体の上半分だけずるずると動かし始める。

「ワタシハマオウサマニギールノナヲアタエラレタマジン。サイリヨウハトクイブンヤヨン」

魔人がそう言うように、大きく損傷したはずの右翼がボコボコと動き繋がっていく。というか、魔人にも名があったんだな。
にしても、なかなか厄介な力もっているな。
ということは、他の魔人も何らかの力を持っていると考えた方がいいだろう。

俺たちの戦闘力は俺を含めて5人と一匹。
対する敵側は魔人が一体に討伐したはずの魔物共が多数。

さて、どうしたものか。





「ナゼエエエエエエ!? ナゼエエエエエエエエエ!!」

戦況は一見すると不利かと思われたが、復活した魔物は大した相手ではなかった。一度倒された魔物は身体こそ動いたが、レベル90代とは思えないほどに脆弱だった。
そうして結局残ったのは魔人のみ。

「ゾンビ相手に俺たちが負けるか。で、お前はどうするんだ?」

魔人は悔しそうに表情を歪め、だが、何故かニヤリとする。

「皆逃げて!!」

セシルが叫ぶ。
魔人が見えないはずの人々の方に飛んでいく。

「ハ、ハギャアアアア!!?」

俺は魔人の直ぐ真上に移動し、一閃し叩き落とす。

「お前に一つ聞きたい。魔人は他にどのくらいいる?」

「ナーゼワタシガオマエニソンナコトヲイワナイトナラナイ? キャシャシャシャ……デモ、イイコトヲオシエテヤルヨ。ワタシノチカラハマジンノナカデモチュウノゲ。イイキニナッテルノハイマノウチヨン!!!」

ということは、やはり他にも魔人がいるのか。バタリアで遭遇した魔人含め、魔人という奴らは人間を玩具程度にしか思っていないのだろう。

魔人ギールは俺を捕らえるように両翼で囲んだ。
魔人ギールの顔面が近く、長い舌を出し入れする。

「ハギャアアウウウ!!!??」



魔人ギールが斬撃の衝撃で吹き飛び民家の壁に激突し地面に落ちる。
至近距離でアスティオンの攻斬波を受けた魔人ギール。魔人にも有効打であれば神剣アスティオンの魔物特効特性も加わった攻斬波の威力はさすがに効いただろう。

「ワタワタワタワタ……ワタシハマダ……」

しぶといな。
だがかなり効いてる。もう一押しか。

「これでーー」

アスティオンの切っ先を向けて止めをさそうとした。

「キイタワヨン。ソレハ、ワタシラニトッテハキョウイネン。ーーデモ、マオウサマニハ……ハギャウ!!?」

魔人ギールが木っ端微塵に吹き飛んだ。
俺は何もしていない。

ひとまずの一戦が終わり、辺りに静けさが戻った。





ややあって、ヴィダの街の人々に俺たちは囲まれていた。
木っ端微塵に吹き飛んだ魔人ギールは完全にバラバラで動かない状態で、ヴィダの街の人々からはようやく呪縛から解放されたと感謝された。

このヴィダの街は魔人ギールに支配された場所だったそうで、“生贄”と称する人間を差し出すことを条件に魔物から手を出されないでいた。

「やめなさい! アレク!」

アレクが歳老いた男を殴り飛ばした。

「いいんだ、元はと言えばわしが原因。あの時、わしにも勇気があれば彼らはこの街にいてくれたかもしれん」

息を上げるアレクは地面に転げた歳老いた男の胸ぐらを掴む。
だが離し、走り去ってしまった。

近くでは魔人ギールに投げ捨てられたティナが地面の上で横になり、ラピスが両手を当てている。これは聞いたところによると、ラピスが指に付けているホーリーリングの力を解放しているらしい。
魔人ギールに吸い取られた生命エネルギーは、ティナを危険な状態にさせていた。
まだ息を取り戻さないティナの様子をずっと心配そうに見ていたアレクだったが、歳老いた男がボソリと自分が原因と言った瞬間に殴りかかったというわけだ。

「ーーん……私」

ティナがゆっくりと目を覚ました。
どうやら、ラピスの力が効いたらしい。

「ティナ! すまん!」

歳老いた男がティナに寄る。

「ローゼンさん、私……」

「すまん、すまん……」

ローゼンはただただそう言うだけだった。

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