百花繚乱 〜国の姫から極秘任務を受けた俺のスキルの行くところ〜

幻月日

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第191話 正義か悪か

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「ありがとうございます、本当に、本当に」

涙しながらそう言うのはアレク。
俺たちがヴィダの街の住人たちを助けると言ったからだ。

「それで、そいつらはいつ此処に?」

「おそらく、今夜にでも来るかもしれません。でも、本当に大丈夫なんですか? あなた方がいくら勇者といっても相手は魔人なんですよ?」

魔人。
その存在は勇者の間でも脅威とされている。
魔物の群れを束ね、さらには人語を理解して話す。
本体の実力も魔物とは比べ物にならないとは聞いている。単体同士であれば、魔物によっては力は上回る場合もあると聞くが、魔人は魔物にはない知能がある。

「私たちにまっかせなさいよ! 大船に乗ったつもりでいて!」

「そ、それなら本当に助かります。うう」

アレクは急に前のめりに倒れそうになった。

「どうしたの!?」

「いえ、少し疲れが……横になっても?」

「お前の家だろ? 俺たちは気にするな」

アレクは近くにあったソファーに仰向けになる形で横になった。

「俺たちはついてる。神はまだ俺たちを見捨てていなかった。これで父と母も……」

壁に掛けられている額縁に入った写真に写るのはアレクとその両親だろう。仲睦まじく、アレクが中央にいる形で両側に両親が立っている。満面の笑みを浮かべ、家の前で撮った写真。

その時、扉のノックが鳴った。
アレクの代わりに俺が出た。

「さっきの……」

扉の前の女性はそう言うが、俺は知らない。
俺はアレクの方を向く。

「ティナ! どうしたんだ?」

「どうしたんだって私は……入るよ」

言葉を途中で止めつつも、女性は入って来るなりアレクが横になるソファーの隙間に座る。
ティナ、そうアレクに呼ばれた容姿端麗な女性はブルーのネックレスをしている。

「……もしかして」

メアがややニヤケながらアレクとティナの方を見ながら言う。

「そうなんです! 私たち婚約してるんです!」

「おいティナ! 今はそういう話してる場合じゃないんだ!」

アレクはばっと起き上がり、ティナの両肩を掴む。
見つめ合う2人。

「……邪魔なようなら俺たちは出て行くが」

「そんなことありません! ティナ、後でまたゆっくり話しよう! 必ず!」

アレクに背を押されながら、ティナは出て行った。

「いいの?」

「いいんです! 今はそれどころじゃありません! ん? ティナ!」

メアの目線に気付いたのか、窓の遠くから見つめていたティナが強くそっぽを向き去って行った。
アレクは堪えたのか、ソファーに深く腰を落とした。

「メア、街の人たちの誤解を解いて来てくれないか?」

俺たちの騒ぎの様子を見ていたから大丈夫だと思うが念の為に。

「行こ」

「頼む」

俺を残して、メアたちは出て行く。
アレクの隣に座った。なんか、呪文みたいにぶつぶつ言ってやがる。
耳を済ませてみる。

「ティナ、ティナ、ティナ、ティナ……」

怖えな。そんなになるほど堪えてたのか。頭を抱え、よほどティナにゾッコンなのだろう。

「しっかりしろ」

肩を掴んだ瞬間、すごい形相で見られた。
だ、大丈夫か? こいつ。

アレクはハッとしたように我に帰った様子。
アレクは辺りを見渡す。

「皆さんは?」

真面目にそう聞いたのだろう。それほどまでにティナのことで頭がいっぱいになっていたということだろう。
アレクに行き先を言うと、彼は深くソファーに腰をかける。

「先ほどはレイビットが無礼なことをして本当に申し訳ありません。俺に出来る仕打ちなら何でも受けます」

「そんなことしないって。お前、そんなマイナス思考であの子を守れるのか?」

思っていたことをズバッと言ってやった。

「そ、それはあなたには関係ありません! 俺はティナをずっと!」

これは本気の真面目、俺がそう感じるだけだが、少なくともさっきの様子は消えているようだ。

「……そうか。なら追いかけてやったらどうだ?」

そう言った瞬間、アレクは飛んで行くように出て行った。
やれやれ、柄にもないことを俺は。





ヴィダの街の北側で騒ぎが出来ていた。

「シンさん遅いです! 早く何とかしてください!」

珍しくラピスが慌てて言う。
メアとセシルがいない。先で何か起きているんだろうが人が多過ぎて、先に進めないし見えもしない。

「アルン何処だ!? 姿を見せろ!」

賢い精霊獣だ、ヴィダの街に付いてからずっと姿を消している。

「クゥン」

すうっと顔半分だけ現すアルン。

「ん? うわっ!? ま、ま、魔物!?」

男が気づいて大声を出す。

恐る恐る、といったようにもう半分顔を出したところで男に気づかれアルンはまた姿を隠してしまった。

面倒だな。
騒ぎの先も気になる。

「ラピスは此処にいろ!」

ラピスを残して屋根の上を飛んで行く。
騒ぎの元が見えた。どうやら、魔物のお出ましのようだ。
いかにも危なそうな巨大な魔物が一体、他にもだいぶ魔物も確認出来る。

そんな中、前線でヴィダの街の人々の前に出る魔物が一体。
いや違う、あれは魔物なんかじゃない。

それによく見ればーー。

「あの子は……」

メアとセシルがその騒ぎを迎えるようにいた。

「シン!」

「悪い遅くなった! あいつ、魔人か」

尾がやたらと長く、嫌な笑みを浮かべている奴が一体。
しかも、その腕で掴んでいるのはティナだった。

「イチ、ニイ、サン……キャシャシャシャ、ヤツラトハチガウニオイ。オイイケニエ、サッキカラアバレルナヨウ!!」

魔人は自身の尾でティナを縛るように宙に持ち上げた。

「あ、あ、あううっ!?」

「ジョウデキジャン、オマエモウイラネ!!」

魔人はあろうことかティナを投げ捨てた。地面を転がっていくティナ。止まったが微動だにしない。

「あいつ何てことを!!」

「おい逆らうな!」

そんな声が騒ぎに集まっている人々から聞こえて来る。

「ティナーー!!」

人々を押し退けて走って来たのはアレクだった。
アレクは急いで動かないティナを抱える。

「キャシャシャシャ、モウソレシンジャッテルンジャナイ? マズカッタケド、イイヨウブン二ナッタヨン」

「お前!!」

アレクがギロリと魔人の方を睨む。
アレクの方に駆けて来た2人の男。アレクは2人の男にティナを渡しーー。

アレクの周りに赤い光が発生した。

「シナナイテイドニナ」

魔人が指を向けた途端、背後にいた魔物がヴィダの街に押し寄せていく。

その時だった。
何処からともなく飛んで来た矢によって、雪崩れ込んで来た魔物が射られていく。
それに伴い、人々と魔物の群れの間に白い光が流れる。

魔物共の動きが止まった。

「……キャ、キャシャ、キャシャシャ……ニ、ニ、ニ、ニニニンゲンノブンザイデエエエ!! ソレガセイギトデモオモッテルノン!?」

「愚問だな」

だが、立場が違えばその見方も変わるという意味はある。
というか、魔人って本当に人間の言葉を理解出来るんだな。見た目はまるで悪魔。バタリアの街で見た魔人とは違うが、似たようなものか。
人間を見下している感が言葉からも分かるように出ている。

「タッタノスウニンデナニガデキル……コロシチャウ!!」

トリトン大陸の初の戦闘はまさかの魔人か。
さて、久々に暴れてやるとしよう。

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