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第188話 バトンタッチ
しおりを挟む「それは断固として断る! 俺は誰かの下には付かねえ。お前らが俺の仲間になるって言うなら考えてやってもいいけどな」
「それは俺もないな」
メアたちも俺の言葉に賛同するように頷いた。
それを見たバルトはフンッと鼻息一つ、腕を組んでそっぽを向く。
「……それで、どう思うんだ?」
そう聞くと、バルトは不満げな表情をしていた。
「あの魔竜を仲間にするたあ大した野郎だよ……その上神剣を持つのか」
「そういうことだ。バルト、今の話を聞いた上でまだ俺たちの邪魔をすると言うなら」
「しねえよ。俺はてっきり奴らと同類かと思っただけだ」
「奴らって?」
そうか、メアは聞いてなかったな。
俺はバルトに了承を得て、昼間、彼から聞いた内容を話した。
バルトの元仲間の勇者二人は魔王群に寝返ったそうで、バルトは今も怒りの表情を見せる。
「俺はもう帰る! そこの魔竜をぶっ殺してやりたいところだが今日のところは見逃してやる!」
ボルティスドラゴンがゴウっと鼻息を上げる。
勇者ランク9にして、宝剣グラディウスを持つ者。戦力としては申し分ないが、俺の仲間には加わりそうにない。
試しにボルティスドラゴンを従属させた経緯を話した後、それとなく仲間にならないかと聞いたのだが、断固として断る、だそうだから。
「さあ、俺たちは先に進もう。また、乗せてくれ」
ボルティスドラゴンにそう言う。
ボルティスドラゴンが屈み、皆がその背に乗って行く。
「お前ら!!」
バルトがそう叫んだ。
俺たちはバルトの言葉を待つ。
「俺は行けねえが……お前ら! 死ぬんじゃねえぞ!」
バルトは宝剣グラディウスを突き付けながらそう叫んだ。そう言われると思ってもみなかったのは、俺だけではなかったようだ。
そうして俺たちはカサルの地を経て、魔王の城を目指して空に飛び立った。
◇
「ーーあの人、本当は私たちと一緒に付いて来たかったんじゃないの?」
「そうかもな。だがまあ、あいつのことだ。例えそうだったとしても、素直には言わねえよ。それに……」
「それに?」
メアがそう聞く。
「いや、何でもない。それより見ろ、こんな近くでなかなか星なんて見れないぞ」
「シン! 話をはぐらかさないで、気になるでしょ!」
「でしょ!」
セシルがメアの言葉の語尾を真似てそう言った。
ラピスは……どうでも良さそうだな。ラピスは夜空に浮かぶ煌く星々を見ているようだ。
「……お前らーーあいつ、バルトはな、責任を感じてんだよ」
「責任? 何に?」
疑問に疑問、メアもさっき地上でバルトの話をした時に分かりそうなものなんだがな。
「責任ってのは彼が言っていた元仲間の勇者二人のことだろう。違うかい?」
俺は頷く。
「テールの言った通りだ、二人とも。それ以上は言わない」
ムスッと、メアとセシルは黙りこくってしまった。
二人は夜空の星々を見上げているラピスの方へ行った。
「大変だな、あんたも」
「ああ、色々あったよ」
それはこれからも……とそう思っても、その大変さがあっての旅だとつくづく思う。
大変じゃない旅なんて、それは果たして旅なのか? とも思うし、大変さ含めて俺たちは旅を進めて来た。
テールが仰向けになって、両手を頭の上でクロスさせる。
「あんたはゼラとは違う。あの嬢ちゃんたちはそんなあんただからこそ付いて来たんじゃないのかい? 俺もだが、あんたなら何故か任せられる気がする」
俺とゼラの違い、か。
「届けるよ。帰りたいんだろ?」
そう言ったら、テールはフッと言った後、ごろりと俺とは反対の方へ横になった。
「シンー! いつまで飛ぶのー?」
セシルがやや声を上げてそう言った。
「夜が明ける前には着きたいな」
次に目指している場所を考えると、それくらいかかるだろう。
「そんなにい!?」
「そんなにだ。メア、リュックに万能簡易生テントがあっただろ?」
「ここで使えるの?」
とメアが言うのは、ここが地上より遙か上空であり、尚且つボルティスドラゴンの背の上だからだろう。
「いいから。じゃないと、凍え死ぬぞ」
別に脅して言ったわけじゃない。
今、俺たちがいるのが地上から遙かに離れた上空で、現に今顔に当たる風もかなり冷たい。
メアはヒィッと言って、直ぐにリュックから万能簡易生テントを取り出して張った。万能簡易生テントは無事に張れたようだ。ボルティスドラゴンが暴れる様子もない。
俺たちが目指している場所を考えると、長く風に当たるのは厳しいものがある。
「俺も」
行こうとするテールを止める。
「お前は俺とだ」
俺とて、男とテントの中で過ごしたくはない。だが、万能簡易生テントはギリギリ4人が入る程度。アルンが小型化して入ったとしても、俺とテールが入る隙間はない。
俺は持っている予備の万能簡易生テントを張った。これは、万が一の時に備えて持っていたものだ。万能簡易生テントは文字通り万能で、リュックの中のスペースを取らないほどに小さく、それでいて軽くなる。
その性能の分、金額は金貨12枚ほどを必要とする。
「ーー頼むぞ」
俺はボルティスドラゴンの頭付近まで言って、目的地を伝えた。魔竜は人間の言葉を理解するほどの知能指数を持つ。
それに、ヴィンスから『血の契約』をした魔物についての扱い方を聞いていた。呼ぶということさえも初めは半信半疑だったが、2度も成功すると確かに『血の契約』がされていることが分かった。
目的の場所にしても、東西南北を言うだけではなく、目的地を言えばそのルートを進んでくれる。
ただこの目的地というのは、たんに固有名詞を伝えるのではなく、例えば北の大陸と言った言い方をする。
魔竜は人間の言葉を理解はするが、何処どこの場所と明確に名を言っても分からないだろうとヴィンスは言っていた。
というのは、いくら知能指数が高く人間の言葉を理解するとしても、地名とか人名は認識しないと分からないのだという。
なので、魔竜にも分かりやすいように伝えること、これがポイントだそうだ。
本来であれば、魔王の城に居るはずのボルティスドラゴンだが、こうして外の世界にいるとなると、多くを見てきているというヴィンスの判断だ。
その上で俺はボルティスドラゴンに目的地へ行くように頼んだ。
メアたちは特に聞いては来ないが、それも気になるようだったら話そう。
そうして、ボルティスドラゴンの背に揺られながら、俺たちは次の目的地を目指す。
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